第十七話:海坊主討伐、そして鬼ヶ島へ -1
乙姫から海坊主討伐の依頼を受けた太郎たちは、竜宮城でその準備に取り掛かった。
乙姫は、海坊主の弱点や、海での戦い方について詳細な情報を提供した。
広間の中心には、海の魔力を映し出すかのような巨大な水晶が置かれ、そこに海坊主の姿や、彼の支配する海域の様子が鮮明に映し出される。
「海坊主の核は、その巨体の奥深くに隠されています。彼の体は海の怨念そのもの、通常の攻撃では通用しないでしょう。しかし、彼の邪気を浄化する力を持つ太郎殿ならば……」
乙姫の声が、広間に響き渡る。彼女は水晶に手をかざし、海坊主の弱点を指し示した。
「なるほど……。浄化の力か。俺の【天神浄化】が通用するかもしれないな」
太郎は、乙姫の説明に深く頷いた。彼の瞳には、海坊主討伐への確かな決意が宿っている。
「乙姫様、海坊主の動きに、何か特徴はありますか? 海の魔力を操る乙姫様ならば、何か見抜けるはず……」
天音は、冷静な声で乙姫に問いかけた。彼女の白い羽が、微かに緊張に震える。
「ええ。海坊主は、嵐を呼び、巨大な水流を操ります。彼の動きは予測不能ですが、その魔力の奔流には、わずかな乱れが生じます。そこが、彼の隙となるでしょう」
乙姫は、優雅な手つきで水晶の中の海坊主の動きをなぞった。
「なるほど! その乱れを、俺の斧でぶっ飛ばしてやるぜ! どんな水流だろうと、俺が全部受け止めてやる!」
八重は、豪快な笑みを浮かべ、斧を握りしめた。その瞳には、強敵との戦いへの闘志が宿っている。
「穂積の結界で、みんなを守るよ! 海坊主なんて怖くないもん!」
穂積は、小槌をぎゅっと握りしめ、純粋な笑顔で励ました。
『皆さま、海坊主の魔力は、精神にも影響を及ぼします。心の乱れが、命取りになるでしょう。回復に努めますが、皆さまも集中力を切らさぬよう……』
葛の思考が、太郎の心に響いた。
彼女は、アイテムボックスから様々な薬を取り出し、仲間たちに手渡す。
乙姫は、海坊主討伐のための船を用意を進めていた。
その船は、竜宮の技術の粋を集めたような、見たこともないほど美しい船だった。
船体は真珠のように輝き、帆には海の紋様が描かれている。広間の奥にある水門が開き、巨大な船が光と共に現れる。
「さあ、太郎殿。海坊主討伐の準備をいたしましょう。この竜宮の全てが、あなた方のためにあります。海の精霊たちも、あなた方を応援しているでしょう。海の民の希望を、どうか叶えてください」
乙姫は、優雅な手つきで、太郎たちを船へと案内した。
「うわ~!すっごい船だ~! キラキラしてる~! 乙姫様、ありがとう!」
琥珀は、目を輝かせ、船に飛び乗ろうとした。
「キラキラしてる~! 穂積、こんな船、初めて見たよ!」
穂積は、純粋な好奇心で船を見上げた。
出航の準備を整える間、乙姫はそっと太郎に近づく。
彼女の表情には、太郎への個人的な好意がにじみ出ており、他の黒鉄たちはその様子を密かに牽制し合う。
乙姫の優雅な立ち振る舞いは、他の黒鉄たちとは異なる、成熟した魅力を放っていた。
「太郎殿……あなたの力、そしてそのお優しさ……忘れられません。この旅の成功を、心から願っております」
乙姫の声は、優しく、しかしどこか切なげだった。彼女の瞳には、太郎への深い想いが宿っている。
「乙姫様……?」
太郎は、乙姫の言葉に、わずかに戸惑った。
「(乙姫を睨みながら)……何をしている。若様に馴れ馴らしいぞ、この海の女……!」
黒鉄の心の声が、彼女の心臓に熱く響いた。彼女の琥珀色の瞳は、乙姫を鋭く見据えている。
「ねぇねぇ、乙姫様って何歳なの~? そんなに綺麗なのに、旦那さんいないの~?」
琥珀は、乙姫に抱きつき、無邪気に問いかけた。
その言葉に、乙姫は微かに微笑んだ。
乙姫は太郎に、意味深な視線を送り、別れの言葉を告げると、水の中へと消えていく。
船は鬼ヶ島へ向けて静かに滑り出す。乙姫は、太郎たちの旅の行方を案じているようだ。
彼女の姿が完全に水中に消えると、海面は穏やかな波紋を残すだけだった。
「ありがとうございます、乙姫様。必ず、この使命を果たします」
太郎は、水中に消えた乙姫に向かって深々と頭を下げた。
「(微笑み)……あなたの旅が、実り多きものとなりますように。太郎殿……」
乙姫の声が、海の彼方から聞こえてくるようだった。




