第十五話:試練の真実、和解、そして神の力の覚醒 -4
太郎の覚醒した力は、ただ破壊するだけでなく、穢れたものを清め、生命を育む性質を持つことが示される。洞窟の奥から、微かな光と共に、小さな草花が芽吹き始める。
岩肌の隙間から、緑の芽が顔を出し、清らかな水が流れ始める。かつて荒々しかった洞窟が、まるで生命の息吹を取り戻したかのように、穏やかな空間へと変貌していく。
「この力は……破壊のためじゃない。清め、育むための力だ。この世界に、新たな命を……。俺は、この力で、この世界を桃源郷のようにする!」
太郎は、芽吹き始めた草花を見つめ、静かに呟いた。その瞳には、温かい光が宿っている。
「お兄ちゃん、お花が咲いたよ! 見て見て、綺麗だね! 穂積、お花が大好き!」
穂積は、目を輝かせ、芽吹き始めた草花を指差した。
『これは……生命の力……! 太郎殿の力が、この洞窟に生命を吹き込んだ……! まさに、創造の神……!』
葛の思考が、太郎の心に響いた。
◆
太郎の浄化魔法により、天岩戸の洞窟は清らかな光に満たされ、かつての闇が払われる。
これは、アマテラスが岩戸から出て世界に光が戻った神話の一場面を彷彿とさせる。洞窟全体が、まるで桃源郷の一部のように美しく輝く。清らかな空気が満ち、鳥のさえずりが微かに聞こえてくるようだった。
「(清められた洞窟を見渡し)……これが、俺の真の力。この光を、世界に……。この光で、世界を救う……」
太郎は、静かに呟いた。
「なんと……美しい……。まるで、天界のよう……。若様の力は、本当に……」
黒鉄は、感嘆の声を上げた。その瞳は、清められた洞窟の美しさに目を奪われている。
「まるで、神話の世界のようです。太郎殿の力は、まさに奇跡……。この光が、世界を照らすでしょう」
天音は、静かに呟いた。彼女の白い羽が、感動に微かに震える。
太郎は、自分の力が持つ真の意味を理解し、その力を仲間や世界のために使うことを改めて誓う。彼の瞳には、未来への希望が宿っている。
「この力は、もう誰かを傷つけない。この世界を、鬼から守るために使う。みんなと共に。俺は、この力で、この世界を救う! 必ず、成し遂げてみせる!」
太郎の声は、力強く、迷いがなかった。その声は、広間全体に響き渡る。
「おう!その意気だぜ、若造! 俺たちがついてるぜ! どこまでもついていくからな! 雷神と風神も、きっと喜んでるぜ!」
八重は、豪快な笑みを浮かべ、斧を肩に担いだ。その顔には、太郎への信頼と、闘志が宿っている。
風神と雷神は、太郎の成長を見届け、満足げな表情を浮かべる。彼らは太郎に、鬼ヶ島への道が「竜宮」を通ることを教え、乙姫を訪ねるよう促す。彼らの姿は、光の粒子となって、徐々に薄れていく。
「見事だ、太郎よ。お前は、我らの期待を遥かに超えた。その力、存分に使うがいい。この世界の未来は、お前に託された」
風神颯馬の声が、静かに、しかし温かく響いた。
「鬼ヶ島へは、竜宮を通るがよい。乙姫が、お前たちを待っていよう。彼女が、お前たちを導くだろう。我らは、お前の行く末を見守ろう……」
雷神雷牙の声が、豪快に響き渡る。その声には、太郎への深い信頼が込められている。
「竜宮……乙姫……! ありがとうございます、風神様、雷神様! 必ず、この使命を果たします!」
太郎は、二柱の神に深々と頭を下げた。
二柱の神は、太郎が新たな時代の神として地上で生きることを選択するだろうと予感している。
そして、「もし、お前が本当に道を失い、助けが必要になった時は、我々が力を貸そう」と約束し、光となって静かに姿を消す。彼らの存在が完全に消え去ると、広間には、清らかな光だけが残された。
「我々は、お前の行く末を見守ろう。困った時は、いつでも呼べ。我らの力、惜しまぬぞ。太郎よ……」
風神颯馬と雷神雷牙の声が、遠くから聞こえてくる。
「風神様!雷神様!」
太郎は、消えゆく光に向かって叫んだ。その声には、感謝と、新たな決意が込められている。
天岩戸を後にした太郎たち一行。新たな地図を手に、鬼ヶ島を目指す旅を再開する。
夕暮れ時。
旅の途中で、太郎はきびだんごの包みが残りわずかになっていることに気づく。
母の愛情と、きびだんごがもたらした仲間たちとの絆の重みを改めて実感する。
「(きびだんごの包みを見つめ、微笑む)きびだんごは、もうほとんどないのか……。
でも、母上の愛情と、みんなとの出会いは、ずっとここにある。この絆こそが、俺の宝物だ。きびだんごがなくても、俺たちはもう一人じゃない……!」
太郎は、静かに呟いた。彼の瞳には、温かい光が宿っている。
「若様……」
黒鉄は、太郎の傍らに立ち、その横顔を見つめた。彼女の琥珀色の瞳には、太郎への深い愛情が宿っている。
「お腹すいた~! きびだんご、まだちょっと残ってるかな~! でも、お魚食べたいな~!」
琥珀は、腹をさすりながら、少し残念そうに呟いた。
「へっ、次は竜宮か!楽しみだぜ! 海には美味い魚がたくさんいるはずだ! 俺が全部捕まえてやる!」
八重は、豪快な笑みを浮かべ、斧を肩に担いだ。彼女の瞳には、新たな冒険への期待が宿っている。
彼らの足取りは、希望に満ちていた。
鬼ヶ島へと続く道は、彼らにとって、新たな物語の始まりを告げていた。




