第十四話:雷神の試練、雷鳴の迷宮 -4
しかし、雷神雷牙は、さらにその力を一段階引き上げた。
迷宮全体に、これまで以上の重圧がのしかかる。雷撃は、一本一本が巨大な龍のようになり、迷宮の壁を粉砕しながら、彼らへと襲いかかる。雷の龍は、迷宮の通路を埋め尽くし、逃げ場をなくす。
「ははは! まだだ! まだ終わらんぞ、太郎よ! この雷撃を、凌ぎ切れるか! 我の真の力を見せてやる! これが、神の真髄だ! お前たちの絆など、この絶対的な力の前に、無力と知れ! 絶望するがいい!」
雷神雷牙の声が、迷宮全体に響き渡る。その声には、怒りではなく、純粋な力への渇望が込められていた。彼の瞳は、雷光を宿し、太郎たちを見据えていた。
「くっ……! なんて力だ……! これまでの雷とは、まるで違う……! 龍の形を成している……! 本当に、どうするんだ……! このままでは、飲み込まれてしまう……!」
太郎は、槍を構え、降り注ぐ雷の龍を見上げた。彼の全身に、再び緊張が走る。仲間たちの顔にも、焦りの色が浮かぶ。雷の龍の咆哮が、洞窟を揺るがす。
「若様、危険です! この雷は、防御できません! 避けるしか……! しかし、どこへ……! 迷宮の通路が……塞がれていく……! もう、逃げ場が……!」
黒鉄が叫んだ。彼女の刀が、雷の龍の放つ魔力に弾かれる。彼女の体は、雷の魔力で痺れ、動きが鈍くなる。
「ちくしょう! こんなもん、避けられるかよ! 八重お姉ちゃん、どうする!? もう、逃げ場がないよ~! 幻術は!?」
琥珀が、悲鳴を上げた。彼女の素早い動きも、雷神の雷撃の前には、無力だった。
「琥珀殿、落ち着いて! 幻術は、この広範囲攻撃には効果が薄い! 八重殿、雷龍の動きを止めてください! 黒鉄殿、太郎殿を!」
天音は、冷静な声で指示を飛ばした。彼女の白い羽が、雷の魔力で微かに焦げ付く。
「へっ、こんなもん、受け止めてやるぜ! 【剛力・金剛身】! 来い、雷龍! 俺の斧で、お前を叩き潰してやる!」
八重は、豪快な笑みを浮かべ、斧を振りかざした。彼女の全身から、漲る力が感じられた。
雷の龍の一撃を、斧で受け止めようとするが、その衝撃は想像を絶するものだった。斧の刃が、雷光に焼かれ、微かに溶け始める。八重の体が、雷撃の衝撃で大きく吹き飛ばされる。
「八重殿! 穂積! 結界を! 葛、回復を急げ! みんな、無事でいろ! 諦めるな!」
太郎は、仲間たちの窮地に、焦りの声を上げた。
太郎は、迷宮の雷の法則性を再び読み解いた。雷神の力が一段階上がったことで、そのパターンもより複雑になっていたが、太郎のチート級の洞察力は、その変化を瞬時に捉えた。
彼は、雷の龍の動きのわずかな隙間、そして雷神の力の流れの歪みを見出した。
それは、雷神自身が持つ、力の制御のわずかな綻びだった。
「穂積、結界を解除してくれ! 八重、黒鉄、俺に続け! 琥珀、天音、雷神の死角を狙え! 葛、回復は頼む!」
太郎の指示が、迷宮に響き渡る。彼の瞳は、雷の龍の動きの全てを捉え、その軌道を予測していた。
「はーい! お兄ちゃん、見ててね! 穂積の小槌で、雷龍の動きを止めてあげる! 穂積の力、見てて!」
穂積は、素早く結界を解除した。彼女の小槌が、黄金の光を放ち、雷の龍の動きをわずかに乱す。その光は、雷龍の魔力を一時的に弱める。
「おう!任せとけ! ぶっ飛ばしてやるぜ! 若様の道を開く! 黒鉄、行くぞ!」
八重は、豪快な笑みを浮かべ、太郎の背中を追った。黒鉄も、迷いなく太郎の隣に立つ。彼女の刀が、雷の龍の魔力をいなす。
「黒鉄、八重殿、雷龍の動きを止めてください! 穂積殿の小槌で、雷龍の動きが鈍くなりました! 天音殿、雷神の核を狙って! 琥珀殿、幻惑で雷神の目をくらませて!」
太郎は、さらに指示を重ねる。
「はっ! 若様の指示に、間違いはございません! この身、若様のために!」
黒鉄は、雷龍の側面へと回り込み、二本の刀で雷龍の体を切り裂こうとする。彼女の剣舞は、雷龍の動きを封じるかのように、素早く、そして正確だった。
「へっ、任せとけ! 俺の斧で、雷龍を叩き潰してやる! 雷神、覚悟しな!」
八重は、豪快な笑みを浮かべ、雷龍へと突進した。彼女の斧が、雷龍の体を叩き潰すかのように振り下ろされる。
「天音ちゃん、雷神の死角はどこ!? 琥珀の幻惑、今度こそ効かせてやる!」
琥珀は、雷神の死角へと素早く移動し、天音に問いかけた。
「琥珀殿、雷神の右側頭部! 一瞬の隙です! 【追尾の矢・翼閃】!」
天音は、正確な指示を出し、弓を構えた。彼女の白い羽が、雷の魔力を切り裂き、矢を放つ。矢は、雷神の右側頭部へと吸い込まれていく。
『皆さま、回復を急ぎます! この好機を逃してはなりません! 太郎殿、今です!』
葛の思考が、太郎の心に響いた。彼女の魔法陣の光が、仲間たちを包み込み、その力を最大限に引き出す。
太郎は槍に雷神の雷の力を吸収し、それを逆利用して雷神に返す。
これは、過去の破壊的な力を制御し、味方として利用できるようになった太郎の成長を示す。
雷神の幻影に、衝撃が走る。彼の槍は、雷光を纏い、まるで雷神自身の武器であるかのように輝いていた。
「お前の力は、もう俺を縛れない! 【真槍・雷光返し】!」
太郎は、槍から雷光を放ち、雷神の幻影へと突き出した。その雷光は、雷神自身の放ったものよりも純粋で、そして強大だった。
雷神の幻影を貫き、その巨体を大きく揺るがす。雷神の体が、内部から光を放ち、ひび割れていく。
「な、なんだと!? 俺の力が……!? まさか、我が力を逆用するとは……! この成長……! まさか、ここまでとは……! この若き神……! 見事だ……!」
雷神雷牙の幻影が、驚きに目を見開いた。その巨体が、雷光に貫かれ、大きく揺らぐ。彼の瞳からは、驚愕の色が消えない。
「若様……! なんて力だ……! 雷神の力を、自分のものに……! 若様は、本当に……! 神そのものだ……! この力があれば、どんな困難も……! 若様、お見事です!」
黒鉄は、感嘆の声を上げた。彼女の琥珀色の瞳は、太郎の神々しい姿に釘付けになっている。
雷神雷牙の幻影が消滅し、迷宮を支配していた雷鳴が収まる。
洞窟内には静寂が訪れ、太郎は安堵と共に深い呼吸をする。
彼の顔には、試練を乗り越えた達成感が満ちている。
全身から、微かな桃色の光が放たれ、その光が洞窟の空気を清めていくかのようだった。




