表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桃太郎伝 ~追放された元神は、きびだんごの絆で鬼を討ち、愛しき仲間たちと世界を救う~  作者: ざつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/71

第十三話:風神の試練、嵐の結界 -1

挿絵(By みてみん)



外なる嵐の結界を突破した太郎たち一行。


しかし、洞窟内部はまだ風神颯馬の力が渦巻く、予測不能な空間となっていた。それは、結界の奥に広がる、風神の真の領域だった。


洞窟の壁は荒々しく、岩肌がむき出しになっている。

その空間全体を支配する強烈な風が、唸り声を上げて吹き荒れ、足元には剥がれ落ちた岩が転がっていた。


風の音は、まるで生き物が咆哮しているかのように、洞窟の奥深くまで響き渡る。彼らの足元は不安定で、一歩進むごとに体が風に押し戻される。

視界は常に風によって歪められ、まるで無限に続くかのような錯覚に陥る。


「結界は突破したが……まだ風が強い! まるで、壁のようだ……! 一歩も進めない……!」


太郎の声が、風の唸り声に掻き消されそうになる。

彼は槍を固く握りしめ、前方の見えない壁のような風を見据えた。

風圧が彼の全身を押し付け、呼吸すら困難に感じられた。

彼の袴の裾が激しく翻り、髪が顔に張り付く。


「この風は、まるで生きているかのようです。若様、気を付けてください。意志を持っている……まるで、我々を試しているかのように、どこまでも追い詰めてくる……!」


黒鉄が、太郎の隣に立ち、風に抗いながら周囲を警戒した。

彼女の武士の装束が、激しく風になびく。風の唸り声が、彼女の耳元で囁くように響き、精神を揺さぶる。刀の柄を握る手が、白くなるほど強く握りしめられていた。


「うわ~!飛ばされそう~! 琥珀、もうダメ~! 風が体の中に入ってくるみたい! 息ができないよ~! これ、本当に進めるの!?」


琥珀は、悲鳴にも似た声を上げ、風に煽られ、思わず太郎の腕に抱きついた。彼女の小柄な体は、風の力に翻弄され、足が宙に浮きそうになる。恐怖に顔を青ざめさせながらも、必死に太郎の袴にしがみつく。


「風神の力が、まだこの空間を支配している。これは、単なる風ではありません。魔力そのものが、形を成しているようです。この強大さ……並大抵の攻撃では、突破は困難でしょう。我々の魔力も、風に吸い取られているような……」


天音は、白い羽を広げ、風の流れを読み取ろうとするが、その強大さに顔をしかめた。彼女の冷静な分析も、この状況では焦りの色を帯びていた。風の魔力が、彼女の羽を激しく打ち付ける。弓を持つ腕が、微かに震えていた。


「へっ、こんな風、俺の怪力で吹き飛ばしてやるぜ! 邪魔だ! どけぇ! 俺の斧で道を切り開いてやる! 見てろ、風神!」


八重は、豪快な笑みを浮かべ、斧を構えた。

彼女の巨体すら、微かに揺らぐほどの強風だが、その瞳には闘志が宿っている。

彼女の足元で、岩が微かに砕ける音がした。

斧の刃が風を切り裂くたびに、洞窟内に轟音が響き渡る。



風の壁が突然目の前に現れたり、地面から強烈な突風が吹き上がったりと、一行は常に翻弄された。

彼らの進路は常に風によって阻まれ、時には隊列が分断されそうになる。強烈な風圧は、彼らの体力を容赦なく奪い、精神を疲弊させていく。


仲間たちはそれぞれ自身の能力を最大限に活かし、連携を取りながら進もうとするが、風の唸り声が洞窟全体に響き渡り、彼らの声さえも掻き消されそうになる。


「くっ、穂積! そっちへ行くな! 危ない!」


太郎が叫んだ瞬間、穂積の足元から突如として強烈な突風が吹き上がり、彼女の体が宙に浮き上がる。小さな体が風に舞い上げられ、岩肌に叩きつけられそうになる。


「キャー! お兄ちゃん! 助けて~!」


穂積の悲鳴が、風の音に掻き消されそうになる。

八重が間一髪で彼女の腕を掴み、地面に引き戻した。

その腕には、風圧でできた赤い跡が残る。


「危ねぇな、ちっこいの! 気をつけろって言っただろ! 俺の背中から離れるんじゃねぇぞ!」


八重の怒鳴り声が、洞窟に響く。その声には、心配と、わずかな苛立ちが混じっていた。


「ご、ごめんなさい……! 八重お姉ちゃん、ありがとう……」


穂積は、恐怖に顔を青ざめさせた。目に涙を浮かべながら、八重の背中にしがみつく。


「その程度の力で、この風を乗り越えられると思うか? お前たちの絆など、この風の前には無力だ! 所詮、人間ごときの脆い繋がりよ! すぐに引き裂かれて、散り散りになるだろう!」


風神颯馬の声が、洞窟のどこからともなく響き渡った。

その声は、嘲るように、そして彼らの心を揺さぶるように、彼らの耳に届く。


その言葉は、まるで風そのものが語りかけているかのようだった。

彼の言葉が、太郎の心に微かな疑念を植え付けようとする。


「くっ……!こんなところで足止めを食らっているわけにはいかない! もっと奥へ進まなければ……! 父上、そしてみんなのためにも……! この風に、俺たちの進路を阻ませるわけにはいかない! 必ず、突破する!」


太郎は、風に抗いながらも、前へと進もうと足を踏み出した。

彼の瞳には、焦燥と、しかし揺るぎない決意が宿っている。風圧に押し戻されながらも、彼は一歩、また一歩と踏みしめる。

全身の筋肉が軋み、汗が滲み出る。


『皆さま、風に体力を奪われています。このままでは、結界を突破できません。この風は、精神力も削り取ります。このままでは、皆さまの心が折れてしまう……。一刻も早く、この状況を打開しなければ……! 太郎殿、何か策を……!』


葛の思考が、太郎の心に響いた。

彼女は、強風の中で魔法陣を展開しようとするが、風圧に阻まれ、その光が揺らぐ。

彼女の額には、うっすらと汗が滲んでいた。回復魔法の光も、風に掻き消されそうになる。


風神の試練は、単なる風の障壁ではなかった。

それは、一行の連携と信頼を試す、巧妙な罠でもあった。不意打ちの突風が、彼らの隊列を乱し、仲間が分断されそうになる場面も。


黒鉄は太郎を庇い、八重が仲間を支える。風の唸り声が、彼らの耳元で囁くように響き、精神を揺さぶる。彼らの心に、微かな疑念と、疲弊が忍び寄る。


「若様、危ない! この風は、若様を狙っています! 集中を! 私が盾になります! この命に代えても、若様をお守りいたします!」


黒鉄が、太郎の前に飛び出し、風の猛攻を受け止めた。彼女の武士の装束が、激しく風になびく。彼女の刀が風を切り裂くが、その風圧は彼女の腕を痺れさせる。足元が風に抉られ、体がわずかに浮き上がる。


「おい、そこのちっこいの!飛ばされるなよ! 俺の背中に隠れろ! しっかり掴まってろ! 俺が守ってやる! どんな風でも、俺が受け止めてやるぜ!」


八重は、穂積の小さな体を庇うように、その巨体を前に出した。穂積は、八重の背中にしがみつき、風の猛攻に耐える。八重の足元が、風圧でわずかに滑る。彼女の筋肉が、風圧に抗うように隆起する。


「わわわ! 八重お姉ちゃん、ありがとう! 助かったよ~! 八重お姉ちゃん、強いね! 頼りになる!」


穂積は、恐怖に声を震わせながらも、八重に感謝を伝えた。彼女の小さな体が、風に打ち付けられるたびに震える。


「みんな、離れるな! 連携を崩すな! この風は、俺たちを分断しようとしている! 個々で戦っていては、突破できない! 力を合わせるんだ!」


太郎は、仲間たちに呼びかけた。彼の声は、風の唸り声に掻き消されそうになるが、その意志は仲間たちに届いた。彼の瞳は、風の動きを捉えようと、鋭く光る。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その他の作品もぜひ!
ガイア物語(代表作)
 壮大な異世界ファンタジーサーガ 同時並行的に複数のストーリーが展開します
異世界グルメ革命! ~魔力ゼロの聖女が、通販チートでB級グルメを振る舞ったら、王宮も民もメロメロになりました~(週間ランクイン)
 魔力ゼロの落ちこぼれ聖女が、B級グルメへの愛だけで本当の聖女になっていく話
ニャンてこった!異世界転生した元猫の私が世界を救う最強魔法使いに?
 猫とリスの壮絶でくだらない、そして世界を巻き込んだ戦いの話
時間貸し『ダンジョン』経営奮闘記
 異世界でビジネススキルを使い倒す異色ファンタジー!
幻想文学シリーズ
 日常に潜むちょっとした不思議な話。ちょっと甘酸っぱい話。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ