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桃太郎伝 ~追放された元神は、きびだんごの絆で鬼を討ち、愛しき仲間たちと世界を救う~  作者: ざつ


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第十二話:天岩戸の洞窟へ -3

嵐の結界に対し、八重と黒鉄が力と剣で風に抗いながら前進した。


八重は「剛力・金剛身」で風を切り裂き、黒鉄は「双剣・犬牙乱舞」で風の渦をいなす。

彼らの動きは、まるで嵐の中で舞う二つの刃のようだった。

琥珀は影移動で風を避け、偵察に回る。彼女の小柄な体は、風の激流の中を、まるで魚のように軽やかに泳いでいく。



「【剛力・金剛身】!こんな風、ぶっ飛ばしてやるぜ!」


八重は、豪快な笑みを浮かべ、斧を振りかざした。その斧の一振りは、風を切り裂き、嵐の結界にわずかな亀裂を生み出す。その亀裂から、微かな光が差し込んだ。


「【双剣・犬牙乱舞】!若様の道を開く!」


黒鉄は、八重の動きに合わせ、二本の刀で風の渦を切り裂いた。彼女の剣舞は、流麗でありながらも力強く、嵐の猛攻を受け止める。刀身が風とぶつかり合い、甲高い音が響く。


しかし、風神颯馬の反撃は容赦なかった。結界の亀裂から、突如として鋭い風の刃が逆巻くように放たれ、一行を襲う。それは、まるで目に見えない無数の刃が、四方八方から彼らを切り裂かんと迫るかのようだった。


「ほう、やるではないか。だが、この程度で我の結界を破れると思うな!」


風神颯馬の声が響き、風の刃が太郎の槍を弾き、黒鉄の剣を押し返す。

八重の巨体すら、風圧で一瞬たたらを踏んだ。

風の刃は、太郎の頬をかすめ、黒鉄の腕の軽鎧を切り裂き、八重の肩に浅い傷を刻んだ。

彼らの体に、激しい痛みが走る。


天音は風の動きを読み、正確な矢を放つ。

彼女の矢は、風の魔力を帯び、風の流れを切り裂き、嵐の結界の核へと突き刺さる。

穂積は打ち出の小槌で防御壁を作り、葛は回復で仲間をサポートする。

彼らの連携が光り、嵐の結界に少しずつ亀裂が入っていく。



「風の流れを読み、弱点を突く!そこです、太郎殿!」


天音は、上空から指示を出す。彼女の白い羽が、風を切り裂き、矢の軌道を正確に導く。矢は、風の渦を縫うように進み、結界の深部へと向かう。


「【小槌・結界の祝福】!みんなを守るよ!」


穂積は、小槌を掲げ、黄金の光を放つ結界を太郎たちの周囲に展開した。結界は、嵐の猛攻を受け止め、彼らを風から守る。結界の表面に、風の刃が激突し、火花が散る。


『皆さま、ご無理なさらないで! 体力の消耗が激しいです。回復を急ぎます!』


葛の思考が、太郎の心に響いた。彼女は、魔法陣を展開し、仲間たちの疲労を回復させていく。彼女の冷静なサポートが、彼らの戦いを支えていた。


風神の猛攻は止まらず、太郎たちは徐々に追い詰められていく。

仲間たちが傷つき、疲弊していく姿を目の当たりにし、太郎の心に焦りと無力感が広がる。


彼の脳裏には、天界での破壊の光景が再び蘇り、力の暴走への恐怖が募る。かつて、自分の力が全てを破壊し尽くしたあの悪夢が、現実となって目の前に迫っているかのようだった。




「くそっ……!このままでは……!みんなが……! 俺のせいで、また……!」


太郎の声は、苦痛と絶望に満ちていた。彼の全身が、微かに震え始める。


その時、黒鉄が深手を負った腕を押さえながらも、太郎の前に立ち塞がった。

彼女の琥珀色の瞳は、涙を浮かべながらも、揺るぎない決意を宿していた。


「若様……! これ以上は……! 私たちが、若様をお守りします……! たとえ、この命に代えても……!」


黒鉄の言葉が、太郎の心の奥底に深く突き刺さる。仲間たちが、自分を信じ、守ろうとしてくれている。その強い絆が、彼の心の奥底に眠っていた力を呼び覚ました。




「みんな……! 俺は、もう誰一人、傷つけさせない……! この力は、みんなを守るためにあるんだ!」


太郎の叫びが、嵐の結界の中に響き渡る。彼の全身から、これまでとは比べ物にならないほどの、眩い桃色の光が迸った。

それは、彼の内なる神の力が、仲間の絆に呼応して、ついに真の覚醒を遂げた証だった。


光は、嵐の結界を打ち破るかのように、洞窟全体を照らし出す。

それは、単なる力の解放ではなく、彼の心が、過去の呪縛から解き放たれ、真の使命を受け入れた瞬間でもあった。


「【桃源郷の鼓舞】!」


太郎の叫びが、嵐の結界の中に響き渡る。彼の全身から放たれる桃色の光が、仲間たちを包み込み、彼らの能力を限界以上に引き出す。

光の粒子が、彼らの傷を癒やし、疲労を吹き飛ばし、その全身に活力を満たしていく。


「若様の力が……! こんなにも……!」


黒鉄は、驚きに目を見開いた。彼女の剣の動きは、これまで以上に鋭く、速くなっていた。彼女の琥珀色の瞳は、太郎の神々しい姿に釘付けになっている。


「うおおおお!力がみなぎる~!これなら、どんな嵐だってぶっ飛ばせる!」


琥珀は、元気いっぱいに叫んだ。その瞳は、興奮でキラキラと輝いている。彼女の体が、まるで羽が生えたかのように軽やかに動く。



「……これが、彼の真の力。私たちの絆が、彼をここまで強くするのですね……感無量です」


天音は、静かに呟いた。彼女の白い羽が、感動に微かに震える。その瞳からは、一筋の涙がこぼれ落ちていた。


「お兄ちゃん、すごい! 穂積も頑張るよ!」


穂積は、太郎の袴の裾をぎゅっと掴み、純粋な笑顔で励ます。彼女の小槌が、太郎の光に呼応するように、黄金の輝きを増した。


「へっ、最高だぜ、若造! あんたの力、存分に貸しやがれ!」


八重は、豪快な笑みを浮かべ、斧を握りしめた。彼女の全身から、漲る力が感じられた。

『皆さまの力が、限界を超えて増幅されています。太郎殿の鼓舞は、まさに奇跡……!』


葛の思考が、太郎の心に静かに響いた。彼女は、魔法陣の光をさらに強め、仲間たちを後方から支えた。


太郎の覚醒した力と、仲間たちの増幅された能力が合わさり、嵐の結界に一気に突破口が開かれる。太郎は、仲間の力を束ね、槍に集中させた。


槍の穂先が、桃色の光を放ち、風神の力の源である結界の核を正確に貫いた。結界は、まるでガラスが砕けるかのように、音を立てて崩壊し、光の粒子となって洞窟の入り口から消え去った。


「ぐっ……まさか、この我の結界を……! 見事だ、太郎よ……!」


風神颯馬の声が、驚きと、しかしどこか満足げな響きを帯びて響き渡った。彼の姿は消えず、洞窟の奥へと一歩踏み出す。


「外なる障壁は乗り越えたようだな。だが、真の試練はここからだ。さあ、我の真の領域へ足を踏み入れるがいい。お前たちの絆が、どこまで通用するか……見せてもらおうか!」



風神颯馬の声が、洞窟の奥へと誘うように響き渡る。外側の嵐の結界は霧散し、彼らの目の前に洞窟の入り口が開かれた。

しかし、洞窟の奥からは、依然として強烈な風の唸り声が響き渡っていた。それは、結界の奥に広がる、風神の真の領域だった。





結界を突破した一行は、さらに奥へと足を踏み入れた。

洞窟内には、先ほどまでと変わらぬ強烈な風が唸り声を上げて吹き荒れ、足元には岩が転がっていた。

彼らの顔には、一つの試練を乗り越えた達成感と、目の前に広がる新たな風の猛威への覚悟が浮かんでいた。


「みんな……ありがとう。お前たちがいてくれたから、外の結界を乗り越えられた」


太郎は、仲間たち一人ひとりの顔を見つめ、心からの感謝を伝えた。彼の瞳には、仲間への深い信頼と愛情が宿っている。


「当然のことです、若様。私たちは、どこまでも若様にお供いたします」


黒鉄は、太郎の言葉に、迷いなく応えた。彼女の琥珀色の瞳は、太郎の背中を見つめ、その決意を支えるかのように輝いている。



「へへっ、まだまだこれからだね! この風、まだ強いけど、きっと次も乗り越えられるよね!」


琥珀は、元気いっぱいに叫んだ。彼女の好奇心は、この予測不能な風の空間へと向かっていた。


「……さあ、進みましょう。この風神の力が渦巻く空間の先に、雷神の試練が待っているでしょう」


天音は、静かに頷き、洞窟の奥へと視線を向けた。その瞳は、新たな強敵との戦いを予見しているかのようだった。


「お兄ちゃん、頑張ろうね!穂積もずっと一緒だよ!」


穂積は、太郎の袴の裾をぎゅっと掴み、純粋な笑顔で励ます。その小さな体は、もう恐怖に震えてはいなかった。


『皆さまの絆が、何よりも強固な力ですね。この先に、太郎殿の真の覚醒が待っている』


葛の思考が、太郎の心に静かに響いた。彼らの足取りは、希望に満ちていた。洞窟の奥深くへと続く道は、彼らにとって、新たな物語の始まりを告げていた。


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