第十二話:天岩戸の洞窟へ -2
洞窟の入り口には、人ならざる姿の風神颯馬が待ち受けていた。
彼の体からは、圧倒的な神気が放たれ、周囲の空気を歪ませる。
その瞳には、太郎を試すような光が宿っている。雷神雷牙の姿は見えないが、洞窟の奥から微かに響く雷鳴が、彼の存在を示唆していた。
その雷鳴は、まるで大地が唸るかのように重く、彼らの心臓に直接響き渡る。
「よくぞ来た、太郎よ」
風神颯馬の声は、風の囁きのように静かだが、その中に確かな威厳が宿っていた。彼の白い衣が、風もないのに微かに揺らめく。
「お前が神としての資格を取り戻せるか、ここで見定めさせてもらう。雷牙は、この奥で待っている。まずは、我の風を乗り越えてみせるか?」
風神颯馬の声が、洞窟全体に響き渡った。その言葉は、太郎だけでなく、その仲間たち全員を試すかのように響いた。
その言葉の後に、洞窟の奥から一段と重い雷鳴が響き、雷神雷牙の圧倒的な存在感を匂わせた。
「風神……!」
太郎は、その名を聞き、全身が硬直した。彼の脳裏には、天界での追放の記憶が鮮明に蘇る。
「(刀に手をかけ)若様、警戒を!この霊気……尋常ではありません! まるで、空間そのものが歪んでいるようです……!」
黒鉄は、刀に手をかけ、警戒を強めた。
彼女の琥珀色の瞳は、風神の放つ神気を捉え、その圧倒的な力に戦慄していた。
風神颯馬が巨大な嵐の結界を作り出し、太郎たちを阻む。
その嵐は、太郎の心に潜む「力の制御への恐怖」を具現化したかのように、彼を飲み込もうとする。
風が唸り、雷が轟く。嵐の結界は、彼らの進路を完全に塞ぎ、その中からは、風神颯馬の嘲るような声が聞こえてくる。結界の表面は、まるで生きているかのようにうねり、彼らを飲み込もうと脈動していた。
「さあ、試練の始まりだ。この嵐を乗り越えられぬ者に、真の力は与えぬ。お前たち、その仲間たちと共に、我の風を乗り越えてみせるか?」
風神颯馬の声が、嵐の結界の中から響き渡る。その言葉は、太郎だけでなく、その仲間たち全員を試すかのように響いた。
「くっ……この嵐は……! まるで、俺の心を映しているかのようだ……」
太郎は、嵐の結界の前に立ち尽くした。彼の心には、再び力の暴走への恐怖がよぎる。
結界の風が、彼の心の奥底にある不安を揺さぶるように感じられた。
「うわ~!風が強くて目が開けられない~!飛ばされそう~!」
琥珀は、強風に煽られ、目を閉じながら叫んだ。彼女の小柄な体が、風に大きく傾ぐ。
「なんて風だ!これでは、前に進めねぇ! 体が押し戻される……!」
八重は、足を踏ん張り、風に抗おうとするが、その巨体すらも微かに揺らぐ。彼女の足元で、岩が微かに砕ける音がした。
「風神の力が、まだこの空間を支配している。この嵐は、単なる風ではありません。精神にも影響を及ぼします。心が乱れれば、動きが鈍る……」
天音は、冷静に分析するが、その白い羽も強風に煽られ、その体勢を保つのに苦労していた。彼女の瞳は、嵐の結界の内部に潜む魔力の流れを捉えようとしていた。
『皆さま、風に体力を奪われています。このままでは、結界を突破できません。この風は、精神力も削り取ります』
葛の思考が、太郎の心に響いた。
彼女は、強風の中で魔法陣を展開しようとするが、風圧に阻まれ、その光が揺らぐ。
「若様、危ない!この風は、まるで生きているかのようです! 隙を見せれば、すぐに飲み込まれてしまいます!」
黒鉄は、太郎を庇うように前に立ち、強風に抗った。彼女の武士の装束が、激しく風になびく。彼女の琥珀色の瞳は、嵐の動きを警戒深く見据えていた。
◆
太郎は「僕たちは一人じゃない!」と仲間たちを鼓舞する。
彼の言葉は、嵐の結界の中で苦戦する仲間たちの心に、温かい光を灯した。
皆の眼差しが太郎に集中し、彼もまた仲間たちの存在に勇気づけられる。彼の全身から、桃色の鼓舞の光が放たれ、仲間たちの能力を限界以上に引き出す。
「みんな!怯むな!僕たちは一人じゃない!力を合わせれば、どんな嵐だって乗り越えられる!」
太郎の号令が、嵐の結界の中に響き渡る。その声には、迷いがなく、確かな自信が漲っていた。彼の瞳は、金色に輝き、その光が仲間たちへと伝播していく。
「はい!若様! この身、若様のために!」
黒鉄は、力強く応えた。彼女の瞳は、太郎への揺るぎない忠誠で輝いている。彼女の全身に、活力が満ちていくのを感じた。
「おう!太郎兄ちゃん! 任せてよ!」
琥珀は、元気いっぱいに叫んだ。その顔には、恐怖よりも、太郎への信頼が浮かんでいる。彼女の体が、風の中でも軽やかに動くのを感じた。
「彼の言葉が、力をくれる……! この感覚は……!」
天音は、驚きに目を見開いた。彼女の白い羽が、太郎の鼓舞の光を受けて、より一層輝きを増す。
彼女の弓を持つ腕に、新たな力が漲るのを感じた。




