第十一話:かぐや姫の真意、そして新たな旅 -3
かぐや姫は、広間の空間に、映像のように鮮明なビジョンを映し出した。
それは、太郎を追放した風神颯馬と雷神雷牙が待つ「天岩戸」の姿だった。
荒々しい岩肌に囲まれた巨大な洞窟。その奥には、二柱の神の巨大な影が見える。
そのビジョンは、太郎にとっての「真の試練」であり、過去と向き合い、真の力を手に入れる場所だと告げた。
「あなたの真の試練は、己の過去と向き合うこと。天界へと続く道、天岩戸があなたを待っている。そこで、あなたを追放した風神颯馬と雷神雷牙が…あなたを待っている」
かぐや姫の声が、静かに、しかし重々しく響き渡る。ビジョンの中の風神と雷神の姿が、太郎の脳裏に焼き付く。
「天岩戸…風神…雷神…!?」
太郎は、その名を聞き、全身が凍りついたかのように硬直した。天界での追放の記憶が、鮮明にフラッシュバックする。あの破壊の光景、そして制御できない己の力への恐怖が、再び彼の心を襲う。
「追放の…真実…!まさか、若様は…!」
黒鉄は、太郎の反応と、かぐや姫の言葉から、若様の隠された過去、そして神としての正体に気づき、息を呑んだ。その瞳は、驚きと、そして悲しみに揺れる。
「え?追放?どういうこと?太郎兄ちゃん、神様だったの!?」
琥珀は、驚きに目を丸くした。彼女の無邪気な好奇心が、この場の重苦しい空気をわずかに乱す。
「なんだそりゃ!?追放された神様って、太郎のことか!?へぇ~、面白ぇじゃねぇか!」
八重は、驚きと、しかし新たな発見への興奮を隠せない。その瞳は、太郎への好奇心で輝いている。
「…まさか。あの時の魔力と、翁殿の言葉…全て繋がっていたのですね」
天音は、冷静な表情を保ちながらも、その瞳には、深い驚きと、この世界の真実への戸惑いが浮かんでいた。
『彼の真実が、明かされた…』
葛の思考が、太郎の心に直接響いた。彼女は、一歩前に進み出た。
突然の事実に、太郎は動揺し、天界での追放の記憶と、制御できない自身の力の恐怖が再び鮮明に蘇る。
彼の精神は不安定になり、膝をついて苦悶の表情を浮かべた。
彼の体が、微かに桃色の光を放ち始める。
それは、彼の内なる神の力が、感情の揺らぎに呼応して、暴走しかけている証だった。
広間の神々しい光が、太郎の苦痛を際立たせる。
「うっ…頭が…!また…またあの時のように…!俺は…破壊神…!俺は…怪物だ…!」
太郎の声は、苦痛に満ちていた。彼の脳裏には、破壊された宮殿、苦しむ神々の姿が、鮮明に蘇る。
「若様!?しっかりしてください!何があったのですか!」
黒鉄が、太郎の傍らに駆け寄り、その肩を支えた。彼女の琥珀色の瞳には、若様への深い心配と、どうすることもできない焦りが浮かんでいる。
「お兄ちゃん、大丈夫!?怖いよ~!」
穂積は、太郎の袴の裾をぎゅっと掴み、泣き出しそうな声で叫んだ。
「え、なにこれ!?太郎兄ちゃん、なんか光ってるよ!?」
琥珀は、驚きと恐怖に目を丸くした。その顔は、真っ青になっている。
「力が…不安定に…!このままでは、若様の心が…!」
天音は、冷静に状況を分析しようとするが、太郎の放つ不安定な魔力に、彼女の白い羽が微かに震える。
「おい、若造!そんなところで膝をつくな!立てよ、太郎!あんたは、そんな弱ぇ奴じゃねぇだろ!俺が認めた若造だぞ!」
八重は、豪快な声で太郎を叱咤した。その声には、彼への信頼と、奮起を促す気持ちが込められている。
『彼の魂が、揺らいでいる…深い闇に囚われようとしている…』
葛の思考が、太郎の心に直接響いた。彼女は、一歩前に進み出た。
パチン!
乾いた音が、広間に響き渡った。
黒鉄は、太郎の頬を思いっきり叩いていた。その手は、震えていなかった。彼女の琥珀色の瞳は、普段の優しさとは異なり、厳しい光を宿している。その顔には、太郎の目を覚まさせようとする、年上の女性としての決意と、深い愛情が明確に刻まれていた。
太郎の顔が、わずかに横を向く。叩かれた頬は、熱く、じんじんと痛んだ。その痛みは、彼の混乱した意識を、一瞬にして現実へと引き戻した。
「若様!」
鈴蘭の声は、厳しく、しかし芯には揺るぎない忠誠と、太郎への叱咤が込められていた。
「いつまで過去に囚われているおつもりですか!今の若様は、私たちの若様です!破壊神などと、弱音を吐いてはなりません!」
鈴蘭は、そう言い放った。
その言葉は、太郎の心の奥底に深く突き刺さる。
他の仲間たちは、黒鉄の突然の行動に、驚きに目を見開いていた。
琥珀は息を呑み、穂積は目を丸くする。八重は、黒鉄の行動を、ある種の敬意をもって見つめていた。
天音は、静かに状況を見守る。葛は、ただ静かに、太郎の心の変化を捉えていた。
「…鈴蘭…」
太郎は、叩かれた頬に手を当て、茫然と黒鉄を見つめた。その瞳には、混乱と、そして、黒鉄の言葉の意味を理解しようとする光が宿り始めていた。
仲間たちは太郎の苦悩に寄り添い、彼を支えようと決意する。
黒鉄は太郎の肩をしっかりと掴み、その瞳を真っ直ぐに見つめた。
天音は冷静に周囲の霊気の乱れを警戒し、琥珀と穂積は心配そうに太郎を見つめる。
八重は太郎を叱咤し、彼の背中を押す。
七人の絆が、太郎を包み込む。
「若様、大丈夫です!私たちがお供いたします!どんな過去であろうと、今の若様は、私たちの若様です!」
黒鉄の声は、揺るぎない忠誠と、深い愛情に満ちていた。その言葉は、太郎の心に、温かい光を灯す。
「(苦悶の声)…俺は…破壊神…だ…」
太郎の声は、弱々しく、絶望に満ちていた。彼の瞳には、過去の光景が焼き付いている。
「へっ、破壊神だかなんだか知らねぇが、今のあんたは、俺たちと一緒にいるただの太郎だ!俺は、今のあんたしか知らねぇ!立て、若造!」
八重は、豪快な声で太郎を鼓舞した。彼女の言葉は、太郎を現実へと引き戻す。
「太郎兄ちゃん、頑張って!みんな、太郎兄ちゃんのこと大好きだよ!」
琥珀は、不安な顔をしながらも、太郎を励ます。
「お兄ちゃん、怖いけど、穂積がお兄ちゃんのそばにいるよ!」
穂積は、太郎の袴の裾をぎゅっと掴み、小さな体で精一杯支えようとする。
「焦りは禁物です。その感情が、力を乱します。私たちは、あなたを信じています」
天音は、冷静な声で、太郎に語りかけた。その声には、太郎への確かな信頼が込められている。
『あなたの『光』は、闇を打ち払います。過去の影に囚われてはなりません。私たちと共に…』
葛の思考が、太郎の心に、静かに、しかし力強く響いた。
仲間たちの言葉と温もりが、太郎の心を包み込み、彼の体の光の乱れが、少しずつ収まっていく。




