第十話:舌切り雀の葛と子安貝の試練 -4
「なぜ、そこまで…私たちに協力してくださるのですか?かぐや姫様の命とはいえ、あなたの覚悟は並々ならぬものと感じます」
天音が、葛の真意を探るように問いかけた。
『私がこの地に来たのは、かぐや姫様の命。それは確かです。ですが、あなたとの出会いは、まさに運命としか言いようがありません。
あなたの持つ『光』は、この世界に調和をもたらすものです。あなたに惹きつけられるように、新たな仲間たちが集い、その力が重なり合う様を見て、私は確信しました』
葛の思考が、一行の心に響き渡った。
「穂積殿と八重殿の出会いも、かぐや姫様の思惑ですか?」
黒鉄が、冷静に問いかけた。
『穂積殿は、森の精霊に近い存在。かぐや姫様の森に住まう者であり、純粋な心を持つ者たちを導く役割を担っています。彼女との出会いは、まさに翁殿が言われた『助けとなる者』。
八重殿は、力強い魂を持つ挑戦者。彼女自身がこの迷宮に挑み、試練を乗り越えようとしていました。あなたに導かれて仲間となったのは、彼女自身の選択です。
しかし、それもまた、かぐや姫様が望む『真の力』を持つ者たちが集うという、大きな流れの一端でしょう』
葛は、穂積と八重について説明した。その言葉は、彼らの旅が、さらに大きな運命の渦中にいることを示唆していた。
「この旅の先にあるものを、私もこの目で見届けとうございます」
葛の最後の思考が、太郎の心に深く響いた。その瞳には、太郎への好奇心と、仲間になることへの揺るぎない決意が宿っている。
夜の野営。六人となった仲間たちは、迷宮の安全な場所で焚き火を囲んでいた。
葛が仲間たちの状態を観察し、的確なアドバイスを送る。クールな葛だが、太郎の優しさに触れ、彼への興味が特別な感情に変わり始める。黒鉄たちのアピール合戦も健在だ。
「八重殿、その傷は無理をしましたね。この薬を塗ってください。天音殿、魔力の消耗が激しいようです。このお茶をどうぞ」
葛は、冷静な思考を太郎の心に届けながら、八重と天音に薬とお茶を差し出した。
「おう!助かるぜ、葛!」
八重は、豪快な笑みを浮かべ、薬を受け取った。
「ありがとうございます、葛殿。的確な判断、見事でした」
天音も、静かに葛に頭を下げた。
「若様、葛殿は、本当に頼りになりますね。彼女がいてくれると、安心です」
黒鉄は、太郎の隣で、葛の働きを見守りながら、静かに呟いた。その声には、信頼と、わずかな安堵が混じっていた。
「はは、葛がいてくれて、本当に心強いな」
太郎は、葛の働きに感謝の言葉を述べた。
「ねぇねぇ、葛ちゃん、なんか面白いことやってよ~!治癒魔法以外に何ができるの?」
琥珀が、好奇心いっぱいの瞳で葛にねだる。
『…私は、治癒に特化していますので。しかし、薬草の知識ならば、誰にも負けません』
葛の思考が琥珀の心に響いた。
太郎は残りわずかとなったきびだんごを眺め、仲間が増えていく喜びを感じ、母の愛情と、きびだんごがもたらした仲間たちとの絆の温かさを噛みしめる。
焚き火の炎が優しく揺れ、彼らの笑顔を照らす。冷たい夜風が吹き抜けるが、焚き火の温もりと、仲間たちの存在が、彼らを優しく包み込んでいた。
「みんながいてくれるから、俺は強くなれる。本当に、ありがとう」
太郎は、焚き火の炎を見つめながら、静かに呟いた。その声には、心からの感謝が込められている。
「若様…」
黒鉄は、太郎の言葉に、感極まった表情で彼を見つめた。その琥珀色の瞳は、深い愛情で輝いている。
「太郎兄ちゃん, 照れてますね~!」
琥珀が、太郎をからかうように笑った。
「あなたこそ、私たちの光です」
天音は、静かに太郎を見つめ、その言葉を口にした。その瞳には、太郎への深い信頼と、未来への希望が宿っている。
「お兄ちゃん、大好き!」
穂積は、太郎の腕に抱きつき、満面の笑みを浮かべた。




