表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桃太郎伝 ~追放された元神は、きびだんごの絆で鬼を討ち、愛しき仲間たちと世界を救う~  作者: ざつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/71

第十話:舌切り雀の葛と子安貝の試練 -1

挿絵(By みてみん)



「あれが…最後の試練の場所」


黒鉄の声が、巨大な木の威容に飲まれるかのように、わずかに震えた。


一行は、最後の試練の地へと到着していた。彼らの目の前に広がっていたのは、かぐや姫の館の敷地内にありながら、その常識を超越した広大な空間。まるで天空へと続くかのようなその空間の中央には、天を貫かんばかりにそびえ立つ一本の巨木があった。その頂上には、異様なほど巨大な燕の巣が、黒々とした塊となって確認できる。


周囲には、この試練に挑んで敗れたのであろう強者たちの亡骸が、朽ち果てた武具や魔道具と共に散乱しており、試練の過酷さを物語っていた。風が吹くたびに、亡骸の傍らに咲く草花が、悲しげに揺れる。


「空気が、張り詰めています」


天音の白い羽が、微かに緊張に震える。その瞳は、巨木の頂を見据え、その場の重々しい霊気を肌で感じ取っていた。


「うわ~!なんか、すごい木だね!おっきい!あそこに巣があるんだ~!」


琥珀は、巨木を見上げて目を輝かせた。その好奇心は、この場の死の気配すらも凌駕するかのようだった。


「お兄ちゃん、なんだか怖いよ~…なんだか、あの巣、大きくて怖い…」


穂積は、太郎の袴の裾をぎゅっと掴み、不安げな声で呟いた。彼女の小さな体は、恐怖に微かに震えている。


「へっ、あの燕をぶっ飛ばせばいいんだろ?簡単じゃねぇか!俺の斧で一刀両断だぜ!」


八重は、豪快な笑みを浮かべ、肩に担いだ斧を握りしめた。その瞳には、強敵との戦いへの闘志が宿っている。


「気を引き締めろ、みんな。ここが、かぐや姫様の最後の試練だ。翁殿も、並大抵の試練ではないと仰っていた」


太郎は、槍を固く握りしめた。彼の表情は、真剣そのものだった。巨木から放たれる威圧感が、彼らの胸にのしかかる。


その時、翁の使いが、彼らの傍らに静かに現れた。その白い装束は、風もないのに微かに揺らめく。翁の使いの声は、老齢ながらも透き通るように響き、最後の試練の目的を告げた。


「最後の試練は、子安貝。あの木の頂上に巣食う巨大な燕が守護しております。その燕が産んだ『子安貝』を手に入れること。それが、かぐや姫様がお課しになった試練でございます」


翁の使いは、そう言って、巨木の頂上の巨大な巣を指差した。その巣からは、巨大な燕の姿が微かに見えている。


「子安貝…!」


太郎が、その名を呟いた。それは、伝説に語られる、願いを叶えるという宝具の一つ。


「あの燕、尋常ならざる速さです。私の矢でも、捉えるのは困難かと。風の魔力を操っているようです」


天音が、上空の燕を見上げ、冷静に分析した。彼女の瞳は、燕の動きの全てを捉えようとするが、その速さに追いつけない。


「空を舞う燕…我々には、不利な状況ですね。地上の剣では、空の相手には…」


黒鉄が、眉をひそめた。彼女の常識では、空を自在に舞う相手に、地上の武士がどう立ち向かえば良いのか、容易に想像できない。


太郎たちは燕に挑むが、燕は驚くほど素早く、空を自在に舞い、巨大な鎌のような爪で襲いかかってくる。


燕は、巨木の頂上から一瞬で地上へと滑空し、鋭い風の刃を纏った爪を振り下ろしてきた。その速さは、視界で捉えるのが困難なほど俊敏だ。


「速い…!見えない…!まるで風のようだ…!」


太郎の声は、焦燥に満ちていた。槍を構え、燕の猛攻を捌こうとするが、その速さに翻弄される。彼の槍が風を切るが、燕の体には届かない。


「くっ…この風圧…!刃が届かぬ…!」


黒鉄が、燕の爪を両手の刀で受け止める。甲高い金属音が響き渡り、彼女の足元が深く抉れる。燕の攻撃は、彼女の刀を焼き焦がすかのような熱気を帯びていた。腕に走る痺れに顔を歪ませながらも、彼女は一歩も引かない。

しかし、燕は彼女の防御を物ともせず、一瞬で体勢を立て直し、太郎の背後へと回り込もうとする。


「八重殿、右です!燕が回り込みます!」


天音が上空から冷静に警告を発する。しかし、燕の速度は天音の予測をわずかに上回っていた。


「ちっ!しぶとい奴め!こんなの、全然当たんねぇじゃねぇか!」


八重が、斧を振りかざし、燕へと斬りかかるが、燕は八重の斧撃を軽やかにかわす。その巨体からは想像できない俊敏さだ。


「全然当たらないよ~!分身してるみたい~!」


琥珀は、幻惑の魔法を連発するが、燕には効果がない。幻影が燕の周囲に現れるが、燕はそれらを意に介することなく、一直線に太郎たちへと迫る。琥珀は、自身の無力さに歯噛みし、額にはうっすらと汗が滲んでいる。


「お兄ちゃん、危ないよ~!燕が、速いよ~!」


穂積は、太郎の袴の裾をぎゅっと掴み、不安げな声で呟いた。彼女の小さな体は、恐怖に微かに震えている。


「燕の動きは読めますが、私の矢では、決定打を与えられません。風の魔力で矢の軌道を捻じ曲げられています…!」


天音は、冷静に状況を分析した。彼女の白い羽が、焦燥に微かに震える。


燕は、鋭い風の刃で反撃を開始した。空気を切り裂く「ヒュン、ヒュン」という音が連続して響く。風の刃は、目に見えないほど高速で、四方八方から太郎たちを襲いかかる。


「くそっ…!この風の刃は避けきれない…!」


太郎は、槍で風の刃を受け流そうとするが、その数はあまりにも多い。次々と繰り出される風の刃が、太郎の袴の裾を切り裂き、彼の頬をかすめる。肌に走るヒリヒリとした痛みに、彼の顔は苦痛に歪む。


「ぐっ…!この風圧、刀ごと吹き飛ばされそうだ…!」


黒鉄は、両手の刀を交差させ、風の刃の猛攻を防ぐ。

しかし、彼女の堅牢な刀身にも、風の刃の衝撃が伝わり、腕に激痛が走る。

防ぎきれなかった風の刃が、彼女の腕の軽鎧を切り裂き、その下の肌に浅い傷を刻んだ。鮮血が、制服の紺色に滲み出す。


「ちっ…!こんな攻撃、斧じゃどうにもなんねぇ!」


八重は、巨大な斧を盾のように構え、風の刃を受け止める。その怪力をもってしても、風の刃の衝撃は大きく、彼女の体が何度も後退させられる。地面が彼女の足元で砕ける。額には、脂汗が滲み出ていた。


「キャー!琥珀も風の刃が怖いよ~!どこにいるのかも分からないのに!」


琥珀は、身軽な動きで風の刃をかわすが、その数はあまりにも多く、彼女の小さな体は、風の刃の渦の中で翻弄される。頬を掠める風の刃に、彼女は悲鳴を上げた。


「お兄ちゃん、もうやだ~!風が、冷たいよ~…!」


穂積は、太郎の袴の裾をぎゅっと掴み、泣き出しそうな声で叫んだ。彼女の小さな体は、恐怖に微かに震えている。


「燕の動きは読めますが、この風の刃は…!燕は、この広大な平原の領域から、決して外に出ようとはしません!しかし、この領域にいる限り、私たちに逃げ場はない…!」


天音は、冷静に状況を分析し、太郎に伝えた。彼女の白い羽が、焦燥に微かに震える。

燕は、鋭い風の刃で反撃し、黒鉄と八重が防御するも防ぎきれず、何人かの仲間が負傷してしまう。黒鉄の腕に、天音の白い羽に、浅い傷が刻まれた。


太郎が仲間たちの負傷に焦りを感じる中、燕の猛攻は止まらず、一行は追い詰められていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その他の作品もぜひ!
ガイア物語(代表作)
 壮大な異世界ファンタジーサーガ 同時並行的に複数のストーリーが展開します
異世界グルメ革命! ~魔力ゼロの聖女が、通販チートでB級グルメを振る舞ったら、王宮も民もメロメロになりました~(週間ランクイン)
 魔力ゼロの落ちこぼれ聖女が、B級グルメへの愛だけで本当の聖女になっていく話
ニャンてこった!異世界転生した元猫の私が世界を救う最強魔法使いに?
 猫とリスの壮絶でくだらない、そして世界を巻き込んだ戦いの話
時間貸し『ダンジョン』経営奮闘記
 異世界でビジネススキルを使い倒す異色ファンタジー!
幻想文学シリーズ
 日常に潜むちょっとした不思議な話。ちょっと甘酸っぱい話。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ