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第一話:追放された元神、武士の家で育つ -1

読者の皆様へ。


この物語は、古くから語り継がれる「桃太郎」の物語を、新たな視点で紡ぎ直したものです。かつて天界で破壊神として恐れられ、地上へと追放された若き神・太郎。彼は己の力を制御できず、孤独と絶望の中にいました。しかし、現世の母が持たせてくれた「きびだんご」が、彼の運命を大きく変えていきます。


きびだんごを分け与えることで出会った個性豊かな仲間たち――忠義の剣、機転の忍、冷静な弓使い、無邪気な妖精、豪快な怪力、そして癒やしの治癒師。

彼らとの絆こそが、太郎が真の力を覚醒させ、己の過去と向き合い、世界の混沌を鎮める鍵となります。


これは、一人の神が人間として成長し、愛しき仲間たちと共に世界を救う、壮大な旅の記録です。彼らが織りなす絆の物語が、皆様の心に温かい光を灯すことを願っています。


挿絵(By みてみん)



天界の宮殿が、いま、崩れ落ちていく。


それは、遥か高み、雲の彼方に築かれた、光と霊気に満ちた神々の居城であった。白く輝く柱には精緻な彫刻が施され、床には天の川を模した宝石が散りばめられ、その全てが神聖な光を放っていたはずだ。

しかし、いま、その壮麗な宮殿は、激しい光と轟音に包まれ、まるで巨大な岩が砕けるかのように崩壊の渦中にあった。雷鳴が耳をつんざき、光の粒子が嵐のように舞い散る。


その破壊の中心で、若き神は膝をつき、苦悶の表情で全身を震わせていた。彼の内から迸る、制御不能な神の力が、周囲の空間を歪ませ、宮殿の堅牢な柱を根元から砕き、玉座の間に深い亀裂を走らせる。その力は、ただの神力にあらず、万物を砕く武の極致であった。

しかし、いまは制御を失い、周囲の空間を歪ませ、彼の瞳は金色に明滅し、口からは、己の力を抑えきれない絶叫が漏れる。


「う、うあああああああ!やめろ…この力…!俺は…俺は…!」


己の意志とは裏腹に、全てを破壊していく感覚が、若き神の精神を蝕む。脳裏には、過去に引き起こしたであろう、幾度もの破壊の光景が走馬灯のように駆け巡っていた。


その傍らで、風神颯馬と雷神雷牙が、その瞳に苦渋と深い悲しみを浮かべ、彼を見つめていた。彼らの表情には、重い決断を下した者の苦悩が刻まれている。


「彼の力は、あまりにも強大すぎた」


重々しい颯馬の声が、宮殿の崩壊音に掻き消されまいと、天界に響き渡る。その声には、神としての理と、彼への親愛が複雑に絡み合っていた。


「このままでは、天界すらも滅ぼしかねない。故に、我々は彼を地上へと追放するしかなかったのだ…地上へ、彼を追放する、と」


眩いばかりの光の柱が、天高くから降り注ぎ、若き神を包み込む。その光は温かくも、同時に抗いがたい力を持ち、彼を天界から引き離していく。若き神の体が、意思に反して宙へと引き上げられる。


「…必ず、真の力を見出すのだ、若き神よ。その魂の輝きを、信じているぞ。我らの願い、決して忘れるな」


深く、そしてどこまでも響く雷牙の声が、遠ざかる若き神の耳に届く。その声には、厳しさの中に、未来への希望が込められていた。


「どうか、この選択が…間違いでありませんように」


颯馬は、光の柱が完全に消え去った虚空を見上げながら、心の中で静かに、しかし強く呟いた。彼の胸には、若き神の未来への一縷の願いが残されていた。


嵐が去った後の山奥は、しっとりとした静寂に包まれていた。


先ほどまでの雷鳴や轟音は嘘のように消え失せ、森は深い闇と、雨上がりの土と湿った木の葉の匂いに満ちていた。

杉や檜の巨木が天を突き、その足元には苔むした岩が点在する。時刻は深夜。月明かりが木々の間からわずかに差し込み、葉が風にそよぐ音だけが、神秘的な調べのように響く。ひんやりとした夜の空気が肌を撫で、静寂が五感を研ぎ澄ませる。


その森の奥深く、木の根元で、微かに桃色の光を放つ赤子が横たわっていた。赤子は桃色の光に包まれ、まるで柔らかな繭の中にいるかのように、安らかに眠っている。


「なんと…こんな山奥に、赤子が…月明かりに照らされて、まるで桃のようではないか」


通りかかった武士の夫が、その光景に目を見張り、驚きに声を漏らした。彼の足元には、しっとりとした土の感触が伝わる。


「まあ、なんて愛らしい…!この子も、きっと何かの縁。神様が私たちに授けてくださったのかもしれません。この子を、大切に育てましょう」


妻は、武士の夫の傍らに膝をつき、その小さな命を慈しむように抱き上げた。赤子の肌は驚くほど滑らかで、その小さな手のひらが、妻の指をそっと握り返す。夫婦の顔には、温かい愛情が満ち溢れ、その小さな命の輝きに心を奪われていた。


「うむ…そうだな。この子の名は…この地で拾った縁にちなんで、太郎としよう」


夫が穏やかに言うと、妻も優しく頷いた。


「太郎…良い響きです」


赤子は桃色の光に包まれたまま、夫婦の腕の中で安らかに眠り続けていた。その光は、暗い森の中で、ささやかな希望の灯火のように揺れていた。


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