第八話:小さな妖精と打ち出の小槌 -3
太郎は穂積に言われるがまま、小槌を使いながら槍を振るう。
小槌を握ったまま、槍の柄を握りしめ、巨大な岩に向けて渾身の一撃を放った。
すると、太郎の槍は驚くべき速さで巨大化し始めた。槍の柄が太くなり、穂先が岩壁を覆い尽くすほどの大きさに膨れ上がる。黄金の光を放つ巨大な槍が、一撃で岩を粉砕した。
「【小槌・巨大化の祝福】…!」
太郎の号令が、森に響き渡る。轟音と共に岩が砕け散り、岩の破片が周囲に飛び散る。道が大きく開かれた。
「うわー!槍が大きくなった~!すっげー!」
琥珀は、驚きに声を上げた。その瞳は、巨大な槍に釘付けになっている。
「なんて力…!あの小槌に、そのような能力が…!」
天音は、冷静な表情を保ちながらも、その瞳には、驚きと、信じられないといった色が浮かんでいた。
太郎と仲間たちは、穂積の持つ打ち出の小槌の力に驚きと感銘を受ける。
穂積は得意げに笑い、太郎の足元に駆け寄る。
「すごい…こんな力が…!ありがとう、穂積!君の小槌のおかげだ!」
太郎は、穂積の頭を優しく撫でた。その瞳には、感謝の気持ちが満ちている。
「まさか、あんな小さな小槌に、これほどの力が…!若様、この小槌は一体…」
黒鉄は、驚きに目を見開き、穂積の小槌を凝視した。その小さな見た目からは想像できない、圧倒的な力だった。
「えへへ~!お兄ちゃん、すごいでしょ!穂積の小槌は、なんでも大きくできるんだよ!」
穂積は、得意げに胸を張った。その顔は、まるで褒められた子供のように、喜びで輝いている。
「ねぇねぇ、穂積ちゃん!私もその小槌触ってみたい!どんなものも大きくできるってこと!?」
琥珀が、穂積に駆け寄った。彼女の瞳は、好奇心で輝いている。
「穂積殿、一つお尋ねしたい。なぜ、このような人里離れた森の奥に、あなたのような幼い方が一人でいらっしゃるのですか?」
天音が、穂積の純粋な笑顔を見つめながら、静かに尋ねた。その声には、彼女の安全を気遣う気持ちが滲んでいる。
「穂積はね、お花さんとお話しするのが好きなんだよ!この森には、穂積のお友達がいっぱいいるんだ!だから、一人じゃないもん!」
穂積は、屈託のない笑顔で答えた。彼女の言葉は、まるで森の精霊のように、自然と一体になっているかのようだった。
「お花さんとお友達…?ふむ、なるほど。翁殿のおっしゃっていた『助けとなる者』とは、あなたのような存在のことだったのかもしれませんね」
太郎は、穂積の答えに納得したように頷いた。彼女の言葉に嘘偽りがないことを感じ取ったのだろう。黒鉄も、穂積の無邪気な様子を見て、警戒を少し緩めた。
岩が砕かれた先に開けた道は、巨大な洞窟へと続いていた。洞窟の入り口は、砕かれた岩の破片で埋め尽くされている。
洞窟の奥からは、微かに水の音が聞こえ、冷たく湿った空気が漂ってくる。
その空気は、深い海の底へと続く道の始まりを告げているようだった。
「若様、宝玉の気配がします。ですが、あの奥から、尋常ならざる魔力を感じます」
天音が、洞窟の奥を見つめ、警戒しながら告げた。彼女の白い羽が、微かに緊張に震える。その瞳は、暗闇の奥に潜む存在を探ろうとする。
「龍宮の宝玉を護る番人、といったところでしょうか。穂積殿、あの魔力に対して、あなたの小槌は…」
黒鉄が、槍を構える太郎の隣で、穂積を見つめた。穂積の小槌の力が、この魔力に通じるのか、試すような眼差しだ。彼女は、太郎と穂積の連携に期待を寄せていた。
「えへへ、穂積の小槌、もっとすごいこともできるよ!みんなのお役に立てるかな?」
穂積は、純粋な笑顔で小槌を握りしめた。その瞳には、仲間たちを助けたいという健気な願いが宿っている。
「よし、穂積!頼んだぞ!琥珀、天音、黒鉄!行くぞ!」
太郎は、穂積の言葉に確信を得た。彼は槍を構え、洞窟の奥へと足を踏み出した。
その瞳は、新たな強敵との戦いへの決意に満ちている。仲間たちは、太郎の背中を追うように、緊迫した表情で洞窟の奥へと進んでいく。足元からは、微かな潮の香りが漂ってきた。




