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桃太郎伝 ~追放された元神は、きびだんごの絆で鬼を討ち、愛しき仲間たちと世界を救う~  作者: ざつ


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第七話:かぐや姫の館、翁の最初の試練 -3

翁は、中庭に広がる満開の桜を眺めながら、その優しい眼差しを太郎へと向けた。彼の声は、柔らかな風のように響く。


「太郎殿、見事な力を示されました。この枯れ木に桜を咲かせる試練は、単に強大な力を試すものではございません。


かぐや姫様が求められるのは、破壊の力だけではなく、生命を育み、穢れを清める、調和の心と、その制御された神力。まさしく、あなたの示された『浄化』の力は、その真髄でございました。


あなたの内に宿る力は、かつて天界で猛威を振るったものとは、異なる様相を見せ始めています。かぐや姫様は、真に調和の取れた神の力を、この地で目覚めさせることを望んでおられるのです」


翁の言葉は、太郎の心に深く響いた。

彼は、きびだんごが黒鉄の傷を癒やした時の光景と、今回の桜の奇跡が、自身の力の新たな側面を示していることを改めて実感した。


破壊だけでなく、創造と癒しの力。

それは、彼が天界で恐れた「厄災」としての力とは真逆の性質だった。


「翁殿…私の力が、そのような意味を持つとは…」


太郎は、驚きと、そして微かな希望を込めて翁を見つめた。


「ええ。かぐや姫様の試練は、あなたの内なる本質を呼び覚ますためのもの。真の強さとは何か、その答えを、あなた自身で見出すための道筋となるでしょう。次の試練も、また、あなた方の絆と、心のありようが試されることと存じます」


翁は、そう言って、館の廊下へと歩き出した。彼の言葉は、太郎の心に深く刻まれる。


試練は突破され、翁は太郎たちを称賛し、次の試練への道を示す。


館の廊下は、柔らかな灯りに照らされ、静かに続いている。木目の床は磨き上げられ、足音が静かに響く。

廊下の壁には、歴代の試練の絵が飾られており、その中には、枯れ木に桜を咲かせようと苦心する人々の姿も描かれている。翁は、杖を突きながら、ゆっくりと廊下を進んでいく。


「最初の試練、見事乗り越えられました。次なる試練は、さらに困難なものとなるでしょう。心して挑んでください」


翁の声は、静かに、しかし重々しく響いた。その声には、彼らへの期待と、試練の厳しさが込められている。


「どんな試練でも、乗り越えてみせます。この力と、仲間たちと共に」


太郎は、翁の言葉に、迷いなく答えた。彼の顔には、新たな試練への覚悟が刻まれている。その瞳は、前を見据えている。


「え~、また難しいの~?もう疲れたよ~!」


琥珀は、不満げに頬を膨らませた。その声は、廊下に響き渡る。彼女の足取りは、わずかに重そうだ。


「…」


館のどこか、闇の中に、翁の側近の一人が静かに佇んでいた。彼の瞳は、太郎たちの成長を静かに見守っている。その表情は、翁と同じように穏やかだった。


しかし、太郎は力の制御ができないことに改めて恐怖を感じ、黒鉄にその悩みを打ち明ける。


館の喧騒から離れた、人気のない廊下の隅。月明かりが差し込み、二人の影を長く伸ばす。太郎は、膝を抱え込むように座り込み、その顔には、安堵とは異なる、深い不安の影が落ちていた。


「俺の力は…本当に制御できるのか?ある程度はできた。だが、あの鬼との戦いでは、また暴走しかけた。いつ、どんな時に、完璧に制御できるのかが分からない。また、誰かを傷つけてしまうのではないか…?あんな力、本当に俺のものなのか…」


太郎の声は、不安に震えていた。桜を咲かせた奇跡の裏側で、彼の中には、制御不能な力への深い恐怖が残っていた。彼の心臓は、恐怖で微かに脈打っている。


黒鉄は、静かに彼の話を聞いた。彼女は、太郎の傍らにそっと膝をつき、彼の背中に手を置いた。その手は、冷たいが、温かい優しさに満ちている。彼女の琥珀色の瞳には、太郎への揺るぎない信頼が宿っている。


「若様…ご心配なさらないでください。若様には、私がおります。そして、琥珀も、天音も。若様の力は、私たちを守るためにあるのです。若様が迷われた時は、この黒鉄が、必ずやその御心を支えましょう」


黒鉄の声は、静かに、しかし確かな響きを持っていた。彼女の言葉は、太郎の不安を、少しずつ溶かしていくようだった。


「鈴蘭…」


太郎は、その名を呼んだ。黒鉄の言葉は、彼の心に、温かい光を灯した。


夜になり、館の一室で休む太郎たち。

館の部屋は、豪華絢爛ながらも落ち着いた雰囲気で、彼らの心を安らがせる。

畳の匂いが微かに漂い、障子越しの月明かりが、部屋に柔らかな影を落としている。


「今回の試練、まさか枯れ木に桜を咲かせるとは思いませんでしたね。若様の力は本当に…」


天音が、茶を淹れながら静かに口を開いた。彼女の白い羽が、照明の光を受けて微かに輝く。


「まーねー!太郎兄ちゃん、超びっくりだったよ!あれって、若様の神様の力なのかな?」


琥珀が、好奇心いっぱいの瞳で太郎を見つめる。彼女は、床に座り込み、きびだんごの残りを眺めている。


「恐らくは、そうでしょう。翁殿のお話を聞くに、若様の力は破壊だけでなく、生命を育む力も持っておられるようです。しかし、その力…」


黒鉄は、太郎の槍を静かに見つめていた。

その切っ先から放たれる微かな桃色の光は、桜を咲かせた時と同じ光だ。

彼女は、その光が、太郎の力の真の姿であると感じていた。

彼女の琥珀色の瞳は、太郎の横顔をじっと見つめている。


「(心の声)本当に、俺のこの力は…」


太郎は、静かに槍を見つめ、その切っ先から放たれる微かな桃色の光を凝視していた。

彼の心には、未だ拭えない不安の影が落ちていた。


桜を咲かせた奇跡は喜ばしいが、あの鬼との戦いで暴走しかけた己の力への恐怖は、まだ完全に消え去ってはいない。


「ねぇねぇ、次の試練ってどんなのだろ?お宝探しの試練とかだったら嬉しいな~!」


琥珀が、呑気に尋ねる。


「どのような試練であろうと、油断は禁物です。かぐや姫様の試練は、力ずくでは乗り越えられないものばかりでしょう。そして、それは、私たちの内面を試すものになるかもしれません」


天音は、冷静に忠告した。その声には、わずかな緊張が混じっている。彼女は、茶器を丁寧に片付けながら、次の試練への考察を巡らせていた。


「(太郎の背中を見つめながら)若様…必ず、私が守ります。たとえ、この身がどうなろうと」


黒鉄は、心の中で強く誓った。

彼女の瞳には、太郎への深い忠誠と、そして、彼を守り抜くという固い決意が宿っていた。



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