第六話:新たな仲間と、かぐや姫の噂 -3
天界の、かつて若き神が破壊した宮殿の修復された一室。
白く輝く柱は、以前の傷跡を微かに残しつつも、真新しい光を放っていた。風神颯馬と雷神雷牙が、静かに向かい合って座っている。彼らの間には、重厚な空気が漂っていた。
「羅生門の鬼は未だ健在のようだが、あの若き神は、着実に成長しておるな、颯馬よ。あの娘(黒鉄)との絆が、彼の心の楔となり、力の暴走を抑えている」
雷神雷牙が、豪快な笑みを浮かべ、金棒を床に軽く叩きつけた。その声には、太郎への深い信頼と、満足感が込められている。
「ええ、雷牙。先の集落での戦いも、見事な連携でした。彼が新たな仲間を得るたびに、その力は安定し、増幅している。しかし、この世界の混沌は、我らが想像していた以上に深く、広がりを見せています。彼の力だけでは、いずれ限界が来るでしょう」
風神颯馬が、静かに頷いた。彼の瞳は、遠い地上の太郎を見守るかのように、優しく光っていた。
「ふむ…ならば、次の段階に進むべき時か。あの若き神が、真に『武神』としての力を取り戻すには、さらなる試練が必要となる」
雷牙が、腕を組み、深く考える。
「ええ。そこで、かぐや姫の力を借りるべきかと。彼女は、試練を与えることで、真の力を引き出す術を知っています。我らが、彼らをかぐや姫の館へと導きましょう」
颯馬が、静かに提案した。
「かぐや姫か…あの気まぐれな姫が、我らの願いを聞き入れるか、だが…」
雷牙が、わずかに眉をひそめた。
「彼ならば、必ずや乗り越えるでしょう。彼の魂の輝きは、かぐや姫をも動かすはずです。使いを送り、彼らをかぐや姫の館へと導きましょう」
颯馬は、確信を持って告げた。
彼の視線は、遠い地上の太郎へと向けられていた。
彼らの間には、太郎の成長への確かな期待と、彼が背負うであろう未来への重みが漂っていた。
天界の静寂の中に、彼らの決意が響き渡る。
太郎の決意に、黒鉄は「若様の願いなら、どこへでもお供します」と忠誠を示した。
彼女は、太郎の隣に歩み寄り、その背中を支えるように立った。
「若様の御心に従います。どこまでも、この黒鉄、お供いたします!」
黒鉄は、力強く応える。その瞳は、太郎への揺るぎない忠誠で輝いていた。
「わーい!新しい冒険だ!かぐや姫ってどんな人かな~?可愛いかな?お宝とかあるかな?」
琥珀は、目を輝かせ、飛び跳ねた。彼女の好奇心は、新たな旅への期待に満ちている。
「…(静かに頷き、微かに微笑む)あなたの決意、私も信じます」
天音も、静かに頷いた。彼女の口元には、微かな笑みが浮かんでいた。彼らの間に、新たな目標への期待感が生まれる。
「しかし、かぐや姫様は、そう簡単に会ってくださる方ではありません。私の一族にも、かつてかぐや姫様に会おうと試みた者がいましたが、門前払いだったと聞いております」
天音が、静かに口を開いた。その声には、わずかな諦めが混じっている。
「え~、そうなの?じゃあ、どうするのさ?せっかくここまで来たのに、会えないなんてつまんないよ~!」
琥珀は、不満げに頬を膨らませた。
「天音殿のおっしゃる通りです。かぐや姫様は、並の者にはお目通りを叶えぬと聞きます。試練が課せられるとも…」
黒鉄も、眉をひそめた。
「ふむ…そうか。簡単には会えない、と。だが、それでも会うしかない。俺たちは、この世界を救うために、もっと強大な力を必要としているんだ。どんな試練が待っていようと、乗り越えてみせる」
太郎は、静かに頷いた。彼の瞳には、困難を前にしても揺るがぬ決意が宿っている。
「どうすれば、かぐや姫様に会っていただけるか、何か手掛かりはないか?」
太郎が、天音と琥珀に問いかける。
「うーん、そうねぇ…噂では、かぐや姫様は、特別な『導き』を待っているとか、いないとか…」
琥珀が、指を顎に当てて考える。
「『導き』…ですか。それは、どのような…」
天音が、思案顔で呟いた。
◆
時刻は夕暮れ。
空に満月が輝き始め、月光が地上に降り注ぐ。
その月光と共に、神秘的な光の粒子が集まり、不思議な使いが現れた。
使いは、白い装束を纏い、顔は光に包まれて見えない。その存在は、まるで月の精霊のようだった。
周囲の空気が一変し、神聖な雰囲気に包まれる。
「かぐや姫様が、あなた方をお待ちです。あなた方に強い興味を抱いておられます。これは、かぐや姫の館への地図。道は示されました」
月の使者の声は、静かで、しかしどこまでも響き渡る。使いは太郎たちに、神秘的な地図を渡した。地図は、月光を浴びて淡く輝いている。
「これは…!本当に、かぐや姫が…!」
太郎は、驚きに目を見開いた。その手の中で、地図が温かい光を放つ。
「月の…使者…?まさか、本物だと…!」
黒鉄は、信じられないといった表情で呟いた。彼女の常識が、目の前の光景によって覆されていく。その琥珀色の瞳には、警戒の色が強く浮かんでいる。
「うわー!すごい!本物のお姫様のお使いだ!ピカピカしてる~!」
琥珀は、興奮して飛び跳ねた。彼女の好奇心は、警戒心を上回る。
「…まさか、これほど早く、しかもかぐや姫様の方から導きがあるとは…できすぎているように感じます。何か裏があるのではと、警戒すべきかと存じます」
天音は、冷静な表情を保ちながらも、その瞳には、驚きと、この世界の神秘への畏敬の念が宿っていた。彼女の白い羽が、微かに震える。
「確かに唐突だ。だが、この状況で、かぐや姫が我らを導くというのなら…この好機に乗るしかない。どんな試練が待ち受けていようと、俺は進む!」
太郎は、天音の言葉に頷きながらも、地図を固く握りしめた。彼の顔には、困難を前にしても揺るがぬ決意が宿っている。
地図を手に、一行はかぐや姫の館を目指し、新たな旅に出る。
夕焼けに染まる空の下、彼らの背中には希望が満ちている。遠くに見える山並みと、その先に輝く月が、彼らの旅路を照らしている。彼らの足取りは軽く、決意に満ちていた。
「さあ、行こう!かぐや姫の元へ!新たな力を手に入れるために!」
太郎の声は、力強く、迷いがなかった。
「はい!若様!」
黒鉄は、力強く応える。
「レッツゴー!早くお姫様に会いたいな!」
琥珀は、元気いっぱいに叫ぶ。
「…」
天音は、静かに頷き、彼らの後を追った。
「みんな!この旅が、俺たちの真の力を見出す道となるだろう!」
太郎は、心の中で呟いた。彼の足取りは、希望に満ちていた。森の奥へと続く道は、彼らにとって、新たな物語の始まりを告げていた。




