第六話:新たな仲間と、かぐや姫の噂 -2
時刻は昼下がり。
木造りの簡素な店だが、縁側には、旅人たちが腰を下ろし、談笑している。
太郎たちは、木漏れ日が差し込む縁側で、湯気の立つ茶碗を前に、ホッと一息つく。
旅の疲れが、温かい茶の香りと共に、少しずつ癒やされていくのを感じた。
遠くからは、峠を越える馬の蹄の音が、のどかに聞こえてくる。
「ふぅ…一息つけますね、若様。この茶の香りが、心を落ち着かせます」
黒鉄が、茶碗を両手で包み込むようにして、静かに呟いた。
彼女の表情は、わずかに和らいでいる。険しい道のりでの不満も、この茶の香りの前では、一時的に忘れ去られたようだった。
「この茶は、旅の疲れを癒やす。上質なものだ」
天音も、茶を一口飲み、静かに頷いた。彼女の瞳には、茶の湯気が映り込んでいる。その冷静な表情にも、わずかな安堵の色が浮かんでいた。
「あ~、生き返る~!お団子まだかな~?早く持ってきてくれないかな~!」
琥珀は、茶を飲み干すと、すぐに団子をねだった。その声は、茶屋中に響き渡る。その元気な声が、茶屋の穏やかな雰囲気に、新たな賑やかさを加える。
「琥珀、もう少し待ちなさい。はしたないですよ」
黒鉄が、琥珀を窘める。その声には、呆れと、わずかな諦めが混じっていた。
「え~!黒鉄ちゃん、ケチ~!」
琥珀は、頬を膨らませた。そのやり取りは、まるで姉妹のようだった。
休憩中、お茶屋の店主が持ってきたきびだんご(商品)を前に、琥珀と黒鉄が最後の一個を巡って、互いに子供のような小競り合いを始めた。
「あ!このお団子、私が食べる!一番乗りー!」
琥珀が、素早く手を伸ばそうとする。
「何を言うか!若様がお持ちなのだから、私が預かる!勝手に手を出すな!」
黒鉄が、琥珀の手をぴしゃりと叩いた。その瞳には、若様のきびだんごを巡る、わずかな火花が散っている。
「(苦笑いしながら)まあまあ、二人とも…。喧嘩するな。お団子なんだから、仲良く食べよう」
太郎は、二人の小競り合いを見て、くすりと笑った。彼の顔には、呆れと、しかし微笑ましさが混じっていた。
「(静かに見守り、ため息をつく)…賑やかですね」
天音は、静かにその様子を観察していた。彼女の口元には、微かな笑みが浮かんでいる。
太郎は争いを仲裁し、そのお団子を黙って見守っていた天音に渡した。その行動に、天音は太郎の仲間への思いやりを改めて感じる。天音は少し驚いた表情で団子を受け取る。
「はい、天音。お前が食べなさい」
太郎が、天音にきびだんごを差し出す。
「…よろしいのですか?」
天音は、わずかに躊躇した。
「えー!ずるーい!天音ちゃんだけずるい!」
琥珀が、頬を膨らませて抗議する。
「若様がそうおっしゃるなら…仕方ありません。ですが、次は私が…!」
黒鉄は、不満げな表情を浮かべながらも、太郎の言葉に従った。
「(静かにきびだんごを口にし、心の声)…温かい。この方は、本当に…」
天音は、きびだんごを口にし、その温かい甘さに、太郎の優しさを感じ取っていた。
お茶屋の看板娘が、茶を淹れながら、最近隣村まで鬼の被害が及んでいると話した。
その話を聞いた太郎たちは、鬼の勢力が予想以上に広範囲に及んでいることを把握し、太郎は自分の力だけでは討伐は困難だと悟り、焦りの表情を見せる。
空には薄く雲が広がり、不穏な空気を暗示する。
「お客様、お茶のおかわりはいかがですか?それにしても、最近は物騒な世の中になりましたねぇ。隣村まで鬼の被害が及んでいるんですよ。本当に困ったものです」
看板娘は、心配そうに眉を下げた。
「(焦りながら、拳を握りしめる)羅生門の鬼の噂を聞いたばかりだというのに、さらに強大な鬼の存在、そして広がる被害を前に、彼は自身の力だけでは全てを救えない無力さを感じ始めていた」
太郎は、焦燥感に駆られていた。彼の脳裏には、壊滅した集落の惨状が蘇る。
「若様…?ご心配なさらないでください。私たちがおります」
黒鉄が、太郎の異変に気づき、心配そうに声をかける。
「鬼の活動範囲が広がっているのは事実。このままでは、いずれこの村も…」
天音は、冷静に状況を分析した。その瞳には、この世界の混沌への懸念が宿っている。
そんな太郎の様子を見ていた天音が、冷静に話し始めた。
彼女は、静かに茶碗を置き、太郎の瞳を真っ直ぐに見つめる。
「鬼を討伐するには、さらなる力が必要です。焦る必要はありません」
天音の声は、太郎の焦燥を鎮めるかのように、穏やかに響いた。
「このあたりでは、伝説のかぐや姫の館に、謎の使いがいるという話です。かぐや姫は、様々な試練を乗り越えた者に、願いを叶える力を与えるという噂があります」
天音は、かぐや姫の館にいるという謎の使いの話を始めた。その言葉は、太郎の心に、新たな希望の光を灯した。
「かぐや姫…?そんな伝説が、本当に存在するのか?」
太郎は、驚きに目を見開いた。その瞳には、わずかな疑念と、しかし確かな期待が混じっていた。
「へぇ~、そんな話があるんだ!お姫様かな?可愛いかな?お宝とかあるかな?」
琥珀は、目を輝かせ、身を乗り出した。彼女の好奇心は、尽きることがない。
「伝説の存在…まさか、本物だと?」
黒鉄は、眉をひそめた。彼女の常識では、かぐや姫は物語の中の存在だった。
「…鬼を倒すための力を手に入れる。その願い、かぐや姫様なら叶えてくださるかもしれません。試す価値はあるかと存じます」
天音は、確信を持って告げた。彼女の瞳には、揺るぎない信念が宿っている。
鬼を倒すための力を手に入れるという明確な動機を得た太郎は、強く決意を固める。
彼の瞳に、新たな希望の光が宿る。
「よし、かぐや姫を訪ねてみよう!俺たちの力だけじゃ、この鬼の勢力には太刀打ちできない。もっと強くなる必要がある!この世界を、鬼から救うために!」
太郎の声は、力強く、迷いがなかった。その声は、彼の内なる神の力を揺り動かす。




