第六話:新たな仲間と、かぐや姫の噂 -1
四人の仲間たち(太郎、黒鉄、琥珀、天音)と共に、旅を再開した太郎は、森の奥深くへと足を進めていた。
朝の光が木々の間から差し込み、地面にまだらな模様を描く。
鳥のさえずりが響き渡り、清々しい空気が肺を満たす。彼らの足取りは軽やかで、それぞれの役割が徐々に明確になっていくのを感じる。
太郎が先頭を歩き、黒鉄がその右隣で周囲を警戒する。
琥珀は時折、木に登っては先行し、天音は上空から静かに彼らを見守っていた。
「若様、この先の道は、少々険しいかと存じます。獣道が続いているようです」
黒鉄が、地図を広げながら太郎に告げた。彼女の琥珀色の瞳は、地図の細部を正確に捉えている。
「ふむ、そうか。琥珀、何か情報はあるか?このあたりで、近道になりそうな道は?」
太郎が、琥珀に声をかける。
「え~?近道?うーん、この辺はあんまり使われてない道が多いからねぇ。でも、ちょっと小耳に挟んだ話だと、この先に、昔の峠道があるらしいよ?もしかしたら、そこを通れば早いかも?」
琥珀は、木の枝にぶら下がりながら、首を傾げた。彼女の表情は、どこか掴みどころがない。
「確かな情報ではないようですね。危険を冒すべきではありません」
天音が、上空から静かに告げた。彼女の白い羽が、微かに風を切る音を立てる。
「はは、大丈夫だ。琥珀の勘は、意外と当たるんだ。それに、俺たちは急いでいる。少しでも早く、次の鬼の元へ向かいたい」
太郎は、天音の言葉に苦笑いを浮かべながらも、琥珀の提案を受け入れた。彼の瞳には、人々を救いたいという強い使命感が宿っている。
道中、彼らは琥珀が提案した「昔の峠道」を進んでいた。
しかし、その道は想像以上に険しいものだった。獣道は細く、足元は滑りやすく、絡み合う木の根が彼らの行く手を阻む。鬱蒼とした森の木々が日光を遮り、昼間だというのに薄暗い。時折、不気味な獣の鳴き声が響き渡り、彼らの警戒心を高めた。
「まったく…琥珀殿、本当にこの道で合っているのですか?道なき道とはこのこと。若様の御足元が…」
黒鉄が、泥で汚れた袴の裾を払いながら、琥珀に不満げな声を上げた。彼女の額には、うっすらと汗が滲んでいる。
「え~、黒鉄ちゃん、ブーブー言わないでよ!近道だって言ったでしょ?忍者の勘は当たるんだから!」
琥珀は、木の枝から枝へと軽やかに飛び移りながら、黒鉄をからかうように笑った。その身軽な動きは、険しい道などものともしない。
「しかし、琥珀殿。この道のりは、予想以上に体力を消耗させます。私も、徒歩では二度と通りたくありません」
天音もまた、冷静な声で琥珀に忠告した。彼女の白い羽は、木の枝に引っかからないよう、慎重に畳まれている。その声には、冷静さの中に、わずかな疲労が滲んでいた。
「大丈夫だってば!ほら、もうすぐ着くって!美味しいお団子が待ってるよ~!」
琥珀は、根拠のない自信に満ちた笑顔で、さらに先へと進んでいく。太郎は、そんな三人のやり取りを苦笑しながら見守っていた。確かに道は険しいが、彼らの間に流れる賑やかな空気が、旅の疲れを和らげてくれるようだった。
ようやく峠を越え、視界が開けた。
彼らの目の前には、かつて琥珀が言った通り、小さな集落と、その入り口に佇む一軒の風情のあるお茶屋が見える。軒先には色とりどりの暖簾が揺れ、香ばしい茶の香りが漂ってくる。
旅の疲れと、険しい道のりでの緊張が、その香りに誘われるように解けていくのを感じた。
「ほら~、言ったでしょ?ちゃんと着いたじゃん!忍者の勘、外れないんだから!」
琥珀が、得意げに胸を張り、黒鉄と天音を振り返って笑った。その顔には、達成感と、わずかな優越感が浮かんでいる。
「ふん。たまたま、でしょう。若様、このような道は二度と…私も、徒歩では二度と通りたくありません」
黒鉄は、泥だらけの袴を見下ろし、不満げに呟いた。彼女の琥珀色の瞳が、琥珀をじろりと睨む。しかし、その声には、先ほどまでの苛立ちはなく、どこか安堵の色が混じっていた。
「…無事到着できて、何よりです。しかし、琥珀殿の勘も、時には役に立つようですね。私も、正直なところ、この道のりは予想以上でした。足の疲労が…」
天音も、微かに口元を緩めた。彼女の白い羽には、森の枝葉が少しだけ絡まっていた。その声には、冷静さの中に、わずかな疲労が滲んでいた。




