第五話:空を舞う弓使い、天音 -4
倒した鬼を前に、太郎たちは安堵と疲労の表情を見せる。
天音は、太郎たちへの誤解が解け、彼らの真意を理解する。彼女の瞳には、太郎たちへの警戒の色は消え失せ、尊敬の念が宿っていた。
「…誤解していました。あなた方は、鬼の尖兵などではなかったのですね。私の早とちりでした。申し訳ありませんでした」
天音は、静かに太郎たちに頭を下げた。その声には、後悔と、そして彼らへの感謝が込められている。
「いいんだよ~!仲直り!」
琥珀は、天音の肩を叩き、無邪気に笑った。
戦闘後、空腹を訴える子供たちを見た太郎は、腰に携えたきびだんごの包みをそっと取り出した。
残り少ない、貴重な食料。しかし、太郎は迷いなく、子供たちに分け与えようとする。子供たちは目を輝かせ、きびだんごを受け取る。その小さな手で、きびだんごを大切に握りしめる。
「これを食べなさい。少しだけど、元気が出るはずです」
太郎の優しい声に、子供たちは安堵の表情を浮かべた。
「きびだんご!わーい!ありがとう、お兄ちゃん!」
子供たちの元気な声が、荒れ果てた集落に、かすかな希望の光を灯す。
「本当に…ありがとうございます…!これで子供たちも…」
村人の一人が、涙を流しながら太郎に深々と頭を下げた。
上空から見ていた天音が静かに地上に降り立ち、太郎の優しさと圧倒的な力に触れる。
彼女の冷静な表情の中に、微かな感動が見て取れる。太郎が子供たちにきびだんごを分け与える姿は、彼女の心に深く刻まれた。
「あなたの力は危険なほど強大ですが、その優しさは本物なのですね。鬼を討つだけでなく、村人まで救うとは。私が知る鬼とは、全く違います」
天音の声には、驚きと、そして太郎への深い敬意が込められていた。
太郎は天音にもきびだんごを渡す。食べた天音は、力が漲るのを感じ、戦闘中に受けた力もこのきびだんごから来ていると確信する。彼女の瞳は、きびだんごの持つ不思議な力に、好奇心で輝いていた。
「この団子…不思議な力。そして、あなたの力…その可能性を、私も見届けたいのです。あなたの旅に、私も同行させてください」
天音は、太郎の力を見届けるため、仲間になることを決意した。その声には、迷いがなかった。
「本当ですか!?ありがとう、天音!心強い!」
太郎は、天音の申し出に、心からの喜びを露わにした。彼の顔には、新たな仲間を迎えることへの期待が満ちている。
「…はい」
天音は、静かに頷いた。彼女の口元には、微かな笑みが浮かんでいた。
◆
新たな仲間と共に、一行は村で一夜を過ごす。
荒れ果てた集落の片隅で、焚き火がパチパチと音を立てて燃えている。
夜空には、満天の星が輝き、彼らの旅路を照らしているようだった。クールな天音だが、太郎の優しさに触れ、彼への興味が特別な感情に変わり始めていることが描写される。
「ねぇねぇ、天音ちゃんもきびだんご食べたでしょ!どうだった?美味しいでしょ?」
琥珀が、焚き火のそばで天音に話しかける。
「…悪くありません。力が湧いてくるというのは本当のようです」
天音は、素っ気なく答えながらも、きびだんごの包みを大切そうに握りしめていた。
「また一人…若様の周りに…賑やかになるのは良いことですが…少し、複雑な気持ちです」
黒鉄は、太郎の隣で、琥珀と天音のやり取りを眺めながら、心の中で呟いた。彼女の琥珀色の瞳は、太郎の横顔をじっと見つめている。
「みんな、今日はありがとうございます。お前たちがいてくれるから、俺は強くなれます」
太郎は、焚き火の炎を見つめながら、静かに呟いた。その声には、仲間たちへの深い感謝が込められていた。
「太郎兄ちゃん、照れてますね~!」
琥珀が、太郎をからかうように笑った。
「あなたこそ、私たちの光です」
天音は、静かに太郎を見つめ、その言葉を口にした。その瞳には、太郎への深い信頼と、未来への希望が宿っている。
夜空の下、太郎を囲んで談笑する仲間たち。焚き火の炎が優しく揺れ、彼らの笑顔を照らす。
彼らの絆は、新たな仲間が加わるごとに、より一層強固になっていく。
明日の旅路に、希望の光が差し込んでいた。




