第五話:空を舞う弓使い、天音 -3
四人の連携が、ボス鬼に挑む。
太郎は、再び仲間の鼓舞の能力を発動させた。彼の全身から放たれる桃色の光が、黒鉄、琥珀、天音の体を包み込み、彼らの能力を限界以上に引き出す。
黒鉄の刀は、風を切り裂くように鋭く、琥珀の動きは、まるで影そのもののように予測不能に。天音の矢は、まるで雷のように、正確かつ強力になった。
彼らの全身から、活力が漲り、疲労が吹き飛んでいく。
太郎の瞳は、金色に輝き、その視線は、一点の曇りもなくボス鬼を捉えていた。集落の荒れ果てた大地に、彼らの決意が満ちる。
「ははは!小賢しい真似を!その程度の力で、この我に敵うと思うか!まとめて塵にしてくれるわ!貴様らの命、この一撃で終わらせてくれる!」
ボス鬼の咆哮が、集落を揺るがす。その巨体は、まるで山が動くかのように、地響きを立てて太郎たちへと突進してきた。巨大な腕が、大地を砕くほどの風圧と轟音を伴い、四人へと振り下ろされた。
その爪は、まるで鋭利な岩盤を削り取るかのように、凄まじい殺意を放っている。地面がひび割れ、瓦礫が舞い上がる。その衝撃波が、四人へと襲いかかる。
「くっ…!【双剣・犬牙乱舞】!若様、下がって!」
黒鉄が叫び、瞬時に体勢を低くし、両手の刀を交差させて鬼の腕を受け止める。甲高い金属音が耳をつんざき、彼女の足元が深く抉れるが、彼女は一歩も引かない。
その体は、若様を守る鋼鉄の盾と化していた。腕に走る痺れに顔を歪ませながらも、彼女は鬼の攻撃を耐え抜く。刀身が軋み、火花が散る。
「【猿影斬】!こっちだよ、おデブちゃん!目が回るでしょ!」
黒鉄が鬼の攻撃を受け止めている隙に、琥珀が素早く鬼の死角へと回り込んだ。影の中を移動し、一瞬で鬼の背後へ。その動きは、あまりにも素早すぎて、鬼は琥珀の存在に気づくことすらできない。
琥珀は、腰に携えたクナイを抜き放ち、鬼の背中に連続で突きを放つ。クナイが鬼の分厚い皮膚を抉り、鮮血が飛び散る。同時に幻惑の魔法を発動させ、鬼の視界に無数の幻影を出現させた。
「ぐあああ!どこだ、貴様!目障りな虫けらめ!」
鬼が苦痛に叫び、混乱したように周囲を見回す。その巨体が、怒りに震えている。幻影に惑わされ、鬼の動きが一瞬だけ止まる。
「【追尾の矢・翼閃】!狙いは外しません!鬼の左目、そこです、太郎殿!」
天音が上空から冷静に叫び、弓を構える。彼女の白い羽が大きく広がり、風を掴む。
風の魔力を帯びた矢が、まるで意思を持っているかのように、鬼の左目めがけて五月雨のように放たれる。一本、また一本と、鬼の知性を宿す瞳に深く突き刺さり、激しい痛みを伴わせる。
「ぐおおおおお!目が…!貴様ら…!何という連携だ…!」
鬼は激痛にのたうち回り、その巨体が大きく揺らぐ。左目から鮮血が流れ出し、視界が歪む。その隙を太郎は見逃さなかった。
「今だ、黒鉄!【真槍・桃紋閃】!」
太郎が叫び、槍に神の力を集中させる。桃色の光を帯びた槍が、鬼の心臓めがけて、渾身の一撃を放たれる。槍の切っ先が、鬼の分厚い皮膚を容易く貫き、その心臓を深く抉る。槍から放たれる桃色の光が、鬼の体内を侵食していく。
「ぐあああああああ!な、なんだと…!?この力が…!まさか…天界の…!」
鬼は断末魔の叫びを上げ、その巨体を揺らして崩れ落ちる。その瞳には、恐怖と、そして太郎の力の正体を見抜いたかのような驚愕の色が浮かんでいた。
鬼の体は、ゆっくりと光の粒子となって消滅していく。
その瘴気は、朝日に照らされ、清らかな光に変わっていくようだった。
集落に、再び静寂が戻った。
しかし、鬼の断末魔の叫びは、まだ終わっていなかった。
消滅しかけていた鬼の巨体から、突如として禍々しい闇の波動が迸った。それは、集落全体を覆い尽くすほどの範囲攻撃であり、四人へと容赦なく襲いかかる。
「くそっ!まだだというのか!」
太郎が叫ぶ。
「若様、危険です!【忠義の結界】!」
黒鉄は、瞬時に両手の刀を交差させ、太郎の前に飛び出した。
彼女の体から、琥珀色の光が放たれ、透明な結界が展開される。
鬼の闇の波動が結界に激突し、結界がミシミシと音を立てて歪む。
黒鉄の顔には、苦痛の色が浮かんでいた。
「黒鉄ちゃん、大丈夫!?」
琥珀が叫ぶ。
「天音ちゃん、上空へ!奴の動きを止める!」
琥珀は、素早く身を翻し、鬼の残骸から放たれる闇の波動をかわす。彼女は、鬼の闇の波動の発生源へとクナイを投げつけ、幻惑の魔法で鬼の残存意識を撹乱しようとする。
「ぐあああ!小賢しい!」
鬼の残骸から、苦痛の呻き声が漏れる。
「【風切りの一矢】!鬼の核を狙います!」
天音は、上空へと舞い上がり、弓を構えた。
彼女の白い羽が、風を切り裂く。風の魔力を帯びた矢が、鬼の残骸の中心へと、正確に放たれる。
その矢は、闇の波動を切り裂き、鬼の最後の抵抗を打ち砕こうとする。
「くそっ…!しぶとい奴め!だが、もう終わりだ!」
太郎は、槍を構え、鬼の残骸へと駆け寄る。彼の瞳は、金色に輝き、その全身から、神気が漲っている。
「【真槍・浄化閃】!」
太郎は、槍から桃色の光を放ち、鬼の残骸へと突き刺す。その光は、鬼の闇の波動を浄化し、完全に消滅させていく。鬼の残骸は、完全に光の粒子となり、集落の空へと昇っていく。
「はぁ…はぁ…終わったか…」
黒鉄が、結界を解き、息を整える。その体は、疲労困憊だった。
「やったー!完全に倒したね!」
琥珀が、元気いっぱいに叫ぶ。
「…無事でしたか、太郎殿」
天音も、地上へと降り立ち、安堵の表情を見せた。




