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桃太郎伝 ~追放された元神は、きびだんごの絆で鬼を討ち、愛しき仲間たちと世界を救う~  作者: ざつ


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第三話:嵐の洞窟、追放の記憶と向き合う -2

太郎は、外の激しい雨音に耳を傾けた。土砂降りの雨は一向に止む気配がなく、雷鳴も轟き続けている。洞窟の入り口から吹き込む風が、冷たい水滴を運んできた。その冷気が、彼の頬を撫でる。


「しかし、この雨では、今夜はこの洞窟に身を隠すしかないだろう。それに、さっきの鬼だ。ただの鬼ではない。どう戦うべきか、もう一度考え直す必要がある」


太郎は、真剣な表情で黒鉄に語りかけた。鬼の恐ろしさと、自身の力の暴走への懸念が、彼の思考を支配していた。彼は、ただ力任せに戦うだけでは、再び同じ過ちを繰り返すのではないかと危惧していた。

黒鉄は、太郎の言葉に静かに頷く。彼女もまた、先ほどの鬼の圧倒的な力と、太郎の力の危険性を肌で感じていた。


「はっ。若様のおっしゃる通りです。あの鬼は、これまでの鬼とは格が違いました。若様の力が暴走しかけたのも、その証拠でしょう。この洞窟で、策を練りましょう」


二人は、洞窟の奥へと進み、冷たい岩肌に背を預けるようにして座った。外の嵐の音は、洞窟の奥まで響き渡り、彼らの心を不安にさせる。

しかし、互いの存在が、その不安を和らげていた。

太郎は、黒鉄の傍らにいることで、わずかながらも心が落ち着くのを感じていた。


疲労困憊の二人は、寄り添うようにして横になった。


洞窟の冷たい空気が肌を刺すが、互いの体温が、わずかな温もりを与え合う。外の嵐の音は、まるで遠い世界のことのように、次第に意識の彼方へと遠ざかっていった。

黒鉄は、太郎の腕の中で、静かに寝息を立て始める。その顔は、安堵と、微かな幸福感に満ちていた。彼女の規則正しい寝息が、太郎の耳に心地よく響く。


しかし、太郎は眠りにつくことができなかった。

疲労と、黒鉄の温もりを感じながらも, 彼の心は、先ほどの戦闘での自身の力の暴走、そして、黒鉄が傷ついた光景が、繰り返し脳裏をよぎっていた。目を閉じれば、あの鬼の醜悪な顔と、血を流して倒れる黒鉄の姿が鮮明に蘇る。


その時、彼の意識は、抗いようもなく、再び深い闇へと引きずり込まれた。


彼の心の中には、天界での破壊の記憶が、雷鳴と共に断片的に鮮明によみがえっていた。眩い光、耳をつんざくような轟音、崩れ落ちる巨大な構造物、そして、その中心で膨れ上がる、自身の制御できない力の感覚――。

それらが、脈打つように彼の脳裏を駆け巡る。激しい頭痛が彼を襲い、冷や汗が背中を伝う。膝を抱え込み、沈黙する太郎の顔に、その影が深く刻まれる。その表情は、絶望と自己嫌悪に歪んでいた。


「俺のせいで…俺の力が…また…黒鉄を…!俺は…また、誰かを傷つけてしまうのか…?」


太郎の声は、絶望に満ちていた。その声は、洞窟の壁に反響し、彼の苦しみを増幅させる。


「この力は…本当に、俺のものなのか…?それとも…ただの厄災なのか…?」


太郎は心の中で問いかける。その問いは、答えの見つからない深い闇へと彼を引きずり込もうとしていた。彼の全身が、微かに震えている。



「若様…?」


黒鉄の弱々しい声が、太郎の耳に届いた。彼女は、太郎の震える背中にそっと手を置いた。

その手は、冷たく、震えていたが、温かい優しさに満ちていた。太郎の背中から伝わる微かな震えに、黒鉄の琥珀色の瞳には、深い心配の色が浮かんだ。

彼女は、太郎の苦しみに寄り添うように、さらに身を寄せた。


「若様は…一人ではありません。私が…いますから。どんな時も、若様の傍に。若様は、優しい方です。その力は、きっと、誰かを守るためにあるはずです」


黒鉄の言葉が、太郎の絶望に満ちた心に、静かな波紋を広げた。彼女の指先から伝わる微かな体温と、そのひたむきな優しさに触れた瞬間、太郎の胸に、これまで感じたことのない熱が込み上げた。


それは、単なる仲間への感謝や、守るべき者への責任感とは異なる、もっと深く、甘やかな感情だった。彼女を失うことへの、強烈な恐怖。この温かい手を、二度と離したくないという、切実な願い。


太郎は、黒鉄の言葉と、背中に感じる温もりの中で、ゆっくりと呼吸を整えた。荒れ狂っていた彼の心に、まるで静かな湖に波が収まるかのような平穏が訪れる。

そして、その平穏が、彼の内なる力の暴走を、少しずつ鎮めていくのを感じた。心の奥底から、温かい光が満ちてくるようだった。


「そうか……俺の力は、心が乱れると暴走する。だが、お前が傍にいてくれると、心が落ち着く。この平穏が……俺の力を、制御する鍵なのか…」


太郎は、静かに呟いた。その声には、驚きと、そして、確かな発見の喜びが混じっていた。彼は、黒鉄の存在が、自身の力の制御に深く関わっていることを、はっきりと自覚したのだ。


「なるほど…若様の力は、若様の御心に強く影響されるのですね。そして、私が、その御心を支える力強い剣となる…」


黒鉄は、太郎の言葉を咀嚼し、自らの役割を再確認するように呟いた。その声には、新たな使命感と、太郎を支えることへの揺るぎない決意が込められている。彼女は、太郎の傍らに立つことを、何よりも誇りに思っていた。


「ああ。だから、次の戦いでは、お前が俺の傍で、俺の心を支えてほしい。俺は、その力を最大限に引き出して、鬼を討つ。そして、お前の剣術と俺の槍術で、連携して戦うんだ。お互いを信じ、力を合わせれば、どんな強敵も打ち破れるはずだ」


太郎は、黒鉄の手を握り返した。その手は、もう冷たくはなかった。二人の絆は、この試練を乗り越えたことで、さらに確固たるものになった。互いの手のひらから、確かな信頼と、未来への希望が伝わり合う。


「はい、若様。どこまでも、お供いたします。若様が望む限り、この黒鉄は若様の剣となり、若様の道を切り開くでしょう」


黒鉄は、力強く応えた。

その瞳には、太郎への揺るぎない忠誠と、共に歩む決意が宿っていた。


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