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桃太郎伝 ~追放された元神は、きびだんごの絆で鬼を討ち、愛しき仲間たちと世界を救う~  作者: ざつ


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第三話:嵐の洞窟、追放の記憶と向き合う -1

挿絵(By みてみん)



洞窟の奥から響く嵐の音が、二人の会話を包み込む。


ひんやりとした湿気が肌を撫で、土と岩の匂いが混じり合う。外の荒れ狂う風が、洞窟の入り口で唸り声を上げ、時折、雷鳴が地響きのように洞窟の奥深くまで響き渡る。

その度に、暗い洞窟の壁に、稲妻の青白い光が一瞬だけ閃き、不気味な影を踊らせた。


太郎は、深手を負い、体温を失いつつあった黒鉄の傷を案じていた。その顔は、焦燥と後悔に歪んでいる。彼は、腰に携えた小さな包みを、震える指先で解いた。

中には、母が旅立ちの際に持たせてくれた、残り少ないきびだんごが収まっている。


その一つを、大切に、しかし迷いなく取り出した。

きびだんごは、太郎の神の力が無意識にこもっているためか、暗い洞窟の中で微かに桃色の光を放っていた。その光は、まるで絶望の淵に灯る、かすかな希望の灯火のように揺れる。


「鈴蘭…これを。母上がくれたきびだんごだ。これを食べれば、少しは楽になるはずだ」


太郎の声は、嵐の音に掻き消されまいと、優しさに満ちていた。彼の視線は、ひたすらに黒鉄の顔に注がれている。その瞳には、彼女の苦痛を取り除きたいという、切実な願いが宿っていた。


「きびだんご…?ですが、若様の貴重な…」


黒鉄は、その桃色の光を放つきびだんごを見て、かすかに目を見開いた。旅の途中で、食料がいかに貴重であるか、そして、このきびだんごが太郎にとってどれほど大切なものであるかを知っていたからだ。


彼女の細い指が、きびだんごに触れるのを躊躇うように宙を彷徨う。

その顔には、遠慮と、しかし微かな期待が混じっていた。


「いいから。俺を信じろ。お前を傷つけたのは俺の力だ。だから、俺が、お前を癒やす」


太郎は、黒鉄の震える手にきびだんごを握らせた。その瞳には、黒鉄への深い信頼と、自らの力への責任感が宿っていた。彼の言葉は、まるで呪文のように、黒鉄の心を解き放った。

彼女の指先が、きびだんごの柔らかな感触を確かめるように、そっと触れた。


黒鉄がきびだんごを口にすると、その瞬間、不思議な光が彼女の体を包み込んだ。


桃色の光が、黒鉄の全身を駆け巡り、まるで生命の息吹を吹き込むかのように、彼女の顔に血の気が戻り始める。青白かった頬に、微かな赤みが差し、唇の色も戻っていく。


腹部の傷口は、みるみるうちに塞がり、痛みも疲労も、まるで幻であったかのように消え失せていくのがわかる。体中に温かい血が巡り、内側から活力が漲るのを感じた。致命傷であったはずの傷が、跡形もなく消え去ったのだ。


きびだんごの驚くべき力に、太郎も黒鉄も、しばらく呆然と目を見開いた。洞窟の薄暗い空間に、きびだんごから放たれた桃色の光が満ち、二人の顔を照らす。


その光景は、まるで古の神話の一場面、あるいは奇跡そのものだった。


「これは…!体が軽くなる…傷も…塞がっていく…!なんて不思議な力でしょう!」


黒鉄は、驚きと感動の声を上げた。その琥珀色の瞳は、きびだんごから放たれる光に照らされ、輝いている。彼女は、恐る恐る腹部に触れ、傷が完全に消えていることを確認した。その指先が、まだ信じられないといった様子で、何度も同じ場所をなぞる。


「母上のきびだんごに、こんな力が宿っていたなんて…俺の力が影響しているのか…?」


太郎は、きびだんごの持つ力に、自身の神の力の片鱗を感じ取っていた。その言葉には、驚きと、わずかな困惑が混じっていた。自身の力が、破壊だけでなく、癒やしをもたらす可能性に、彼は戸惑いを覚える。彼は、かつて天界で全てを破壊した自分の力が、このような温かい力を持つことに、深い疑問を抱いていた。


「若様の力が…?」


黒鉄は、太郎の言葉に、さらなる驚きを隠せない。彼女の顔には、元気を取り戻した安堵と、この不可思議な現象への戸惑いが浮かんでいた。彼女は、太郎の持つ力の深淵を、改めて垣間見た気がした。


元気を取り戻した黒鉄は、弾かれたように立ち上がり、笑顔で太郎を見つめた。


その笑顔は、洞窟の暗闇を照らす光のように、太郎の心に安堵をもたらした。彼女の瞳には、太郎への揺るぎない信頼と、共に戦うことへの喜びが宿っている。彼女の体からは、先ほどの疲弊が嘘のように、活力が漲っているのが見て取れた。


「若様がこんなに優しくしてくれたんだから、早く元気になって鬼を倒しに行きましょう!若様ならできます!私は、もう大丈夫です!」


黒鉄の声は、力強く、迷いがなかった。その言葉に、太郎は心からの感謝を伝えた。


「ああ…!ありがとう、鈴蘭。お前がいてくれて、本当に良かった」


太郎は、黒鉄の言葉に、心からの感謝を伝えた。その言葉には、彼女の存在がどれほど自分にとって大きいかという、率直な気持ちが込められていた。彼の表情には、安堵と、そして、黒鉄の無事への深い喜びが浮かんでいた。



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