#49 器と告白①
少々眠気がありつつ、充実した翌日。
わたしは最低限の器数を召喚しました。
無機物と植物を召喚できる、現在の魔描用板。無機物だけだとどうしてもそれに合わせなくてはいけなかったので、見栄えも悪かったです。
けれど、今は。
机の上には両手の平大の八重咲きの薔薇が八つあります。
赤、橙、緑は単色で色の濃淡を表し。
黄色と黄緑でリアム様を表し。
その他足りない色ずつを組み合わせ、色とりどりの薔薇を召喚しました。
わたしがパピリア様と召喚作業をしている間に、レディリカがリアム様に連絡してくれていたようです。
本日夕方、研究所五号棟の所長室にてリアム様のマナ貯蓄作業をすると。
それまでわたしは生野菜を無の境地で食べ、休み、なるべく魔力を充填しました。
そして記録するパピリア様と、レディリカと、三人で五号棟へ向かいます。
パピリア様に宣言した通り、今日、八重咲きの薔薇という器で成功したら告白する予定です。
リアム様を救援できるかもしれないという期待。リアム様に告白するという緊張。
相反する気持ちは、わたしの足を重くします。強ばった身体を無理に動かして、肝心なところでケガをしては本末転倒です。
わたしは確実に、一段ずつ最上階へ向かいました。
そうして到着した、五号棟の所長室。
その部屋の扉を、ノックしました。
「どうぞ」
リアム様の声が聞こえ、わたしは息を呑みました。思わずパピリア様を見て、頷いてもらいます。
リアム様への告白は、八重咲きの薔薇の器の成功を確認してから。
自分がやるべき事を再確認してから、所長室に入りました。
「よく来てくれたね。それが、器だね」
背負っていた、コロルボックス。スキルの一部であるコロルは、いつでも移動時に一緒です。
そんなわたしの負担にならないためか、レディリカが八つの八重咲きの薔薇を入れてある箱を持ってくれていました。
レディリカが、その箱を机の上に置きます。
「これは……綺麗だ」
「ありがとうございます。リアム様には、この花弁一枚一枚にマナを貯めるようにしてもらえたらと思います」
「了解した。じゃあ、早速やってみようか」
リアム様は、箱の中から灰がかったローズと薄い緑の薔薇を取りました。
わたしは思わず、声を出してしまいそうになります。密かに入れていたその薔薇は、わたしの色と似せたもの。
ダスティローズのような色合いの赤みと、薄い緑の組み合わせ。似た色合いで組み合わせているものの、全体を見たらわたしと似た色のもの。
それをリアム様が両手で持ち、目を閉じています。きっと今、八重咲きの薔薇にマナを貯めているのでしょう。
リアム様のマナを貯めていく器は、中心から徐々に色が濃くなっていきます。
それはまるで、わたしがリアム様に染められていくようで。
……ちょっと待った! この思考は危ないわ。
危ない思考になりかけたのをどうにか止め、リアム様の貯蓄作業を見守ります。
リアム様は一つ目の器に貯蓄し終えると、次はご自身の色と同じ組み合わせの器にマナを貯めていきます。
リアム様のマナは思っていた以上に多かったらしく、三つ目、四つ目、五つ目と濃くなった八重咲きの薔薇が机に置かれていきました。
そして、作ってきた最大数の八つ目。その中央あたりで貯蓄作業が終わったようです。
前回のように器は壊れず、貯蓄を終える。それはすなわち、リアム様の身体の中に長年たまり続けたマナが器に移ったということでしょう。
リアム様は、ご自身の手を何度も握っています。何かの感覚を確認しているのでしょうか。
「……すごい。久しぶりに、自分の手が見えたよ」
「と、いうことは」
「成功だ。身体に羽が生えたみたいに軽い」
「やった!」
「ディー、ありがとう!!」
リアム様の感想を聞いた後、わたしは思わず隣にいたパピリア様と抱き合ってしまいました。
パピリア様は感動の涙を流し、レディリカも涙を抑えているかのような顔をしています。もちろんわたしも成功した喜びで胸が震え、安堵する声も震えました。
女性陣の喜びを見たリアム様が、指をちょいちょいと動かして八重咲きの薔薇達をご自身の背後へ浮かせます。
「すごい。魔法を使っているのに、快適だ」
「これで、マナ過剰症は緩和されましたよね? リアム様の、寿命も延びますよね?」
八重咲きの薔薇達をくるくると回転させるリアム様は、まるで少年のような笑顔を見せます。久しぶりに手を見た、ということですから、普段は過剰に貯まっていたマナで手元もぼやけていたのかもしれません。
さぁ次は告白だ。
そう思って深呼吸をする視界の外で、パピリア様がレディリカを促して部屋の外へ行くのが見えました。
二人きりにしてくれた配慮に感謝しつつ、呼吸を調えてからリアム様を見ます。
……何か、変?
器の薔薇達で遊ぶリアム様は、夢中になっていて気づかないのかもしれません。
魔法を使う度にヒラヒラと外側の花弁が舞っていく八重咲きの薔薇が、いつの間にか六つに減っています。
それに気づいてからも、花弁はどんどん散っているように見えました。数は四つに減り、三つ、二つと急激に減っていきます。
大量の花弁が舞う中心いるリアム様。用意した八重咲きの薔薇は、最後の一つ。
どうか間に合って!!
わたしはリアム様の元へ駆け寄り、両頬を持って口を塞ぎました。
熱く冷たく、爽やかで頑強なマナが、わたしの中に流れてきます。
どこか焦点が定まっていなかったようなリアム様の目が、わたしを見ました。驚いたように目を見張り、困惑しているかのように泳ぎます。




