#45 器の形
リアム様に客室まで送ってもらったわたしは、早く陛下やレディリカからの願いを叶えたいと考えました。
結晶花を前にして話すリアム様は、生き延びたいという生への渇望が希薄だったように思います。
目の前に恐らく何でも願い事が叶うとされる結晶花があるのに、その貴重な力をご自身のために使わない。その意思が、固いように見えました。
人間、誰しも長く生きたいと思うものではないでしょうか。わたしは、長生きしたいです。人並みの寿命で、それなりに楽しく人生を送りたいと思っています。
ですが、リアム様は違うのかもしれません。十歳の頃にスキル鑑定を受けました。王族の方にとっては、国へ貢献するために心の準備をさせるため。
それが結果として、リアム様の寿命を蝕む時期を早めてしまった。
十歳の頃から十六年。自分の寿命は短いと知る人生は、確かに楽しめないでしょう。何か楽しいことを見つけても、どうせ死ぬのだからと考えてしまうと思います。
魔力の譲渡をすれば、という話もありました。
想い人へ渡すときに魔力が甘くなるとも。
わたしは、リアム様からの魔力譲渡の際、甘く感じました。なのでそれを聞いたレディリカが、リアム様はわたしが好きなのだと言います。
ですが、それは本当でしょうか。
研究されているとはいえ、どこまで信じられるものなのでしょうか。
わたしがリアム様を好きだから、甘く感じたのではないでしょうか。
そう考えると、辻褄は合うような気がします。
わたしだったら、好きな人と付き合って、恋人同士の甘い雰囲気を体験してみたいと思ってしまいます。
ですが、リアム様はわざわざその言葉を否定した。それはすなわち、リアム様に気持ちがないということでは。
……でも。
リアム様は、貴重な結晶花をわたし自身のために使ってほしいと教えてくださいました。
わたしは、リアム様に何をしたのでしょう。なぜ、そこまでしてわたしを助けようとしてくれるのでしょうか。
もしそれが、わたしへの気持ちならば。
これもまた、辻褄は合うのです。わたしのことを好きだから、色々と気にかけてくれると。
「……難しいことは、後で考えるべきね。まずは、リアム様のマナ過剰症の緩和が優先。どの花にしようか決めないと」
今は、手元に図鑑がない状態。何もできないため、ひとまずベッドに横になりました。
どんな形にしよう。花弁の数が多くないとダメ。リアム様なのだから、見栄えも重要。
そんなことを考えていたら、いつの間にか眠っていました。
翌朝。
朝食と取るより前に、リアム様の家を後にしました。そして、レディリカに花の図鑑がないか聞き、馬車乗り場の近くに図書館があると聞いて、早速そこへ向かっています。
レディリカが手続きをしてくれたので、わたしは図鑑が置かれている棚を捜しました。
植物図鑑と花図鑑を手に、閲覧席へ向かいます。
パラパラと図鑑を捲っていき、いくつかの候補を見つけました。
花弁が多く、リアム様が持ったときに見栄えがするものとは。
まず、ダリアを候補に出しました。
ダリアは花びらが多く、見栄えもする。まさにうってつけでしょう。
難を挙げるならば、魔描用板で表現するのは大変ということぐらいでしょうか。簡略化しすぎてしまうと、いくらわたしの想像次第としても違う花になってしまう可能性があります。
次に、ボタン。
大輪でふわっとした花弁が描かれています。見栄えはしますが、ダリアと比べてしまうと花弁の数が少ないですね。
ボタンよりも、ダリアという感じでしょうか。
続いて、薔薇。それも、八重咲きのものです。
これは花弁が多く、煌びやかで豪華です。見栄えもするし、リアム様っぽさもあるような気がしました。
最後に、シャクヤク。
ボタンに似たふんわりとしたお花です。見栄えはしますが、やはりダリアや薔薇と比べると花弁の数は少ないように思います。
結論からすると、ダリアか八重咲きの薔薇ですね。
薔薇の簡略化はリアム様に教えていただきましたので、恐らくできるでしょう。
「レディリカ。決まったわ。家に戻って、簡略化の練習をするから紙と筆記具をお願い」
「かしこまりました」
図鑑を戻し、レディリカと一緒に図書館を出ました。そして途中で紙と筆記具を買い、家に戻ってから練習を始めます。
丸形を基本とした簡略方法。菱形を基本とした簡略方法。
八重の部分の表現方法は、三角を増やすか、ヒダのような線を増やすか。
薔薇以外の物に見えてはダメ。少なくとも、魔描用板を使うときにわたしが薔薇と認識できるものでないといけない。
様々な形を試し、紙に魔描用板と同じマス目を描いて練習しました。
その結果、菱形でヒダを増やすという形に落ち着きます。こうすると、八重咲きの薔薇を簡略化したような絵になりました。
この形を際立たせるため、あとは使う色捜しでしょうか。




