#44 結晶花
進むリアム様の後を追っていると、案内されたのは地下空間でした。
家の真下、階段を降りた先にあったのは地面を掘ったかのような痕跡。洞窟のようなその空間の最奥に、紫の結晶が置かれていました。
そして、その前には同じ色の、結晶でできているかのような薔薇。それが三本あります。
「これは、結晶花というんだ」
「綺麗ですね」
わたしの腰の辺りまで背丈がある結晶花は、ランタンの光を受けて発光しているようにも思えます。
結晶花に見惚れるわたしに、リアム様は説明してくださいます。
魔物が討伐されると、その残滓が紫の結晶に回収される。この結晶花は、回収時にその残滓がかすめたものだと。
そして、恐らく何でも願いが叶うものだと。
「っ、それなら、この結晶花を使えば、リアム様の症状を無くせるのではっ」
「どうかな。前に大きな願いを叶えてもらったけど、どんな願いでも聞いてもらえるかどうかわからないんだ」
「それでも、三本あります。試してみる価値は充分あると思います」
「んー……それなんだけど、この結晶花は、スータレイン嬢だけに使いたいんだ」
「……なぜ?」
わたしが質問すると、リアム様は慈しむようなお顔をされます。ですが、答えてはくれません。
「これから、スータレイン嬢は様々なことを体験すると思う。困ったときに、この結晶花を思い出してほしいんだ」
にこり、と微笑みます。しかしその微笑みは、まるでリアム様の寿命が残り僅かということを示唆しているように感じました。
「結晶花のことは、おれとスータレイン嬢しか知らない。他の誰かに知られたら、すぐに使われてしまうと思うから」
「で、ですが。なぜ、わたしには教えてくださったのですか」
「……スータレイン嬢は、おれの希望だ。その希望の星が陰らないように、伝えたかった」
答えのようでいて、答えではありません。上手にはぐらかされたような気がします。
けれど、それをもっと深く追求するのは躊躇われました。まるで自分の死期を悟っているかのような、そんな表情をされていたので。
「……リアム様の意思は尊重したいです。ですが、わたしの意見は採用してもらえないのでしょうか。わたしだけに使いたいということは、わたしの願いであれば良いということではないでしょうか」
「スータレイン嬢自身の願いならね。おれに関わることは駄目だ」
「そんな……」
さあ帰ろう。そうわたしを促すリアム様を躱し、わたしは結晶花の元へ駆け寄ります。
「リアム様の症状を無くしてください!!」
叫びましたが、リアム様に変化はあったでしょうか。
少なくとも、わたしの願いは聞いてもらえたようです。右端の結晶花がサラサラと砂のようになくなりました。
わたしは、リアム様を振り返ります。しかし、すぐに顔から血の気が引きました。リアム様が、首を振ったのです。
「残念ながら、身体に変化はないよ」
「そんなっ……貴重な一本を、無駄にしてしまいました」
「おれの事を考えてくれてありがとう。参考になったよ。願う人自身の願い事でなければ、叶わないと」
「ま、待ってください! もしかしたら、何か対策があるかもしれません」
「スータレイン嬢。聞き分けてくれないか。これ以上、スータレイン嬢のための結晶花を無駄にはできない」
「それは……」
リアム様の意思を無視して、暴走しました。これ以上、リアム様を困らせるわけにはいきません。
今度こそ、わたしはリアム様に促されて地下を出ます。
三階の客室まで送ってくださったリアム様にお礼をし、部屋に入ります。
力なくベッドに座り、呆然としました。
わたしの暴走のせいで、貴重な一本を無駄にしてしまいました。自戒のため、せめてなぜ願いが届かなかったのかを考えます。
答えはすぐに出ました。
願いを叶えてもらうためには、きっと具体性が足りなかったのです。
リアム様の症状を無くしてと願う。
まず、リアム様とは誰のことなのか。
わたしの中ではリアム様は一人ですが、この世界には幾人も存在します。リアム様は王兄。陛下や、そのご家族もリアム姓でしょう。
次に、症状とは。
リアム様のマナ過剰症を無くすのか、寿命削るということを無くすのか。はたまた、寿命を延ばすのか。
寿命に関しては無くすではなく延ばす、になりますが、言い換えれば寿命を無くすとも取れます。
リアム様を不老長寿にしたいわけではなく、八十年とか、本来の人間としての寿命を全うしてほしいのです。
先走って暴走して、具体性にかけた願いを叫んだ。だから、曖昧な願いは叶わず、結晶花だけなくなってしまった。
では、具体的にとは。
「……ケレイブ・リアム様のマナ過剰症を無くしてほしい、ですかね」
今は真剣に考えなければいけないのに、リアム様の名前を呼んだことで心が弾みました。
散々ジュリーに注意したのに、お名前を呼びたいという衝動に駆られてしまいます。恋人でも何でもないのに、ケレイブ様と。
解決するかどうかはわかりませんが、具体的に願いを考えてみました。ですが、それは叶えられないでしょう。
リアム様のご尊名を、呼べるわけがないです。何より、あの地下へ行くためにはリアム様の許可が必要。リアム様の意思は固いように思えました。
リアム様は、リアム様のためにあの場所に行くことを許可してはくれないでしょう。
もしかしたらリアム様を助けられるかもしれない方法。それが利用できないと予測できてしまい、肩を落とします。
ですが、落ちこんでばかりではいられません。
原点に立ち戻りましょう。
わたしには、もしかしたらリアム様を救済できるような力があるかもしれないのです。
使用者の力次第で何でも召喚できる、魔描召喚士というスキルが。
土日はお休みをいただきます。
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