#42 器捜し
魔描用板が小から中になり、大きさは32×32となりました。小で出せた無機物に加え、植物も召喚できるようになっています。
木杯だったり木桶だったり、わたしがそうであると考えたものはその大きさで出てきました。木杯は何も装飾なし、木桶は金具のようなものを付け足すなどして、それらしく見せる必要があります。
それはわたしの想像力と、再生力にかかってくるでしょう。
それらの力を鍛えるため、わたしはレディリカと一緒に馬車乗り場周辺にあるお店に足を伸ばしました。
煉瓦造りの建物群域以外の区画であれば、住居の周辺に最低限の店はあるそうです。
ですが馬車乗り場周辺は、段違い。ここが研究所島という島であることを忘れるような賑わいがあります。
二階建ての建物はなく、全てが四階以上。一つ一つの建物が大きく、複合施設がいくつもあるような場所です。
一階には何屋かわかるような展示がされている店が多く、歩く足取りも弾みます。
わたしは色集めも並行しながら、いくつかの店を回りました。
花屋、雑貨屋、飲食店。そこで働く人々や訓練生の様子も観察します。
「……ねぇ、レディリカ。リアム様のマナを放出するための器って、器じゃないとダメかしら」
「と、いうと?」
「いくつかのお店を見ていて思ったのだけれど、花弁の多いお花なんてどうかなって」
「花弁を……? 申し訳ありません、ダスティ様。私には想像がつきません」
「やっぱり難しいかしら。植物を召喚できるようになったから、思いついたのだけれど」
「私は想像できませんが、リアム様は違うかもしれません。リアム様のためのことですので、ご本人に相談してみましょう」
そう言うと、レディリカは食材を注文してわたしの家に配送するように頼みました。
そしてわたしと一緒に家に戻ると、リアム様に予定を確認するため出かけます。
夕食までに戻ってきたレディリカから、明日の夕方であればリアム様の時間を取れると聞きました。
翌日の夕方。
リアム様との約束のため、わたしはレディリカと一緒にリアム様の家へ向かいました。
レディリカが一泊用の荷物を持っていますが、まさか、泊まらないですよね?
リアム様とは、人命救助の一件から久々にお会いします。あの日のことは二人だけの秘密となっていますので、レディリカにもばれないようにしなければいけません。
緊張しながらリアム様の家に向かうと、こちらも久々の、チェイミベル様がいらっしゃいました。
レディリカが軽く伝えてくれていたそうで、スキルのため記録係として呼ばれたそうです。
……これは、ますますあの日のことがばれるわけにはいきませんね。
普通にしようと思いつつ、リアム様が視界に入るとカッと身体が熱くなってしまいます。不自然じゃないように目をそらすのに、リアム様をまた見てしまう。
そんな動きは明らかに不審で、チェイミベル様からの視線がわたしを責めているように感じてしまいます。
弁明をしようとすると墓穴を掘ってしまうような気がしたので、すぐに本題に入ります。
「リアム様。レディリカから軽く聞いたかと思いますが、マナを貯める器をお花にするというのは可能でしょうか」
「それね。おれもマジェンから聞いて考えたんだけど……もしかして、花弁の一枚一枚にマナを貯める感じ?」
「そうです! そして、外側の花弁を散らすことで魔法を使うようなイメージです」
「なるほどね。確かにそれならより多くのマナを貯められそうだ」
リアム様とイメージの共有ができて良かったです。
リアム様は四属性持ち。人よりも遥かに多くのマナを保有します。リアム様でなければ、繊細な魔力の練り上げは難しいでしょう。
さすがはリアム様。
そう思っていると、目が合いました。
「っ……」
リアム様が微笑みます。その表情をまともに見てしまったわたしは息を呑み、すぐにチェイミベル様のことを思い出しました。
確認してみると、チェイミベル様は今にも泣き出しそうなお顔をされています。好きな人の笑顔は、独占したいですよね。わかりますよ。
チェイミベル様の気持ちがわかります。そう、わかってしまうのです。わたしも、リアム様のことが好きだと思っているので。
人命救助の一件から、リアム様の唇を見てしまいます。
いえ、あれはキスではありません。人命救助です。
そうやって自分に言い聞かせても、あのふっくらとしたリアム様の唇の感触が忘れられません。忘れられるわけも、ありません。
あれは人命救助で、わたしのファーストキスなので。
わたしはリアム様から目をそらし、下を向きます。
そうすると、リアム様の優しい声音が降ってきました。
「それで、スータレイン嬢。器にする花は決めたの?」
「えぇと……どの花にしようか、検討中です。魔描用板に描くのはわたしの想像力と再生力が必要なので、表現が難しいと召喚できないと思うのです」
「もしかしたら、いかに簡略化できるかというのも重要かもしれないね」
考えもしなかった案を出されたため、思わず顔を上げました。
「簡略化、ですか?」
「そう。当然スータレイン嬢の想像力と再生力は必要だ。でも、魔描用板の大きさは決まっている。だから定められた大きさの中でどれだけ簡略化し、表現できるかってことだと思うんだ」
「なる、ほど……」
わたしがまだ納得できないでいると、リアム様は紙と筆記具を取り出しました。
そして、上から見た二種類の薔薇を描きます。
一つは、花弁を細かく写実したもの。
そしてもう一つは、まるで図形の組み合わせのような薔薇です。円を描き、その中に数本の線を描いたもの。
「これでどうだろう?」
「すごいです! 簡略化されていても、薔薇だとわかります!」
「スータレイン嬢の力になれたようで良かった」
「っ……」
人命救助のことは、リアム様とわたしだけの秘密です。
ですが、リアム様はばれても良いのではと思っている節があります。そんな、魅力全開の笑顔を向けられたら、何かあったと言わんばかりの行動です。
いえ、もしかしたら幼い頃から一緒にいるチェイミベル様とレディリカしか他に人がいないから、気を許しているのかもしれません。
ですが、このままではわたしが耐えられないかもしれないです。
わたしはリアム様だけに聞こえるよう、小声で伝えます。
「リアム様。魅力的すぎる笑顔は、控えてもらえないでしょうか」
「ん? どういうこと?」
「い、いえ、その……こんなことを言うのは憚られますが、先程から表情が柔らかすぎます。わたし達の間に何かあったと思われてしまいますよ」
わたしからの指摘に、リアム様は驚いたようなお顔になります。
まさかとは思いますが、あれだけ破壊力抜群の笑顔をされていたのに無自覚でしょうか。
「おれとしては、態度を変えていないつもりなんだけど……。もしかして、スータレイン嬢の受け取り方が変わった、とか?」
「えっ……」
指摘され、そうかもしれないと思います。
わたしがリアム様を異性として意識しているから、今までも魅力的だった笑顔の威力が上がっているのかもしれません。
気づかされたことに思わず顔が熱くなります。そんなわたしを見たリアム様も、少し照れたように口元を自身の手で隠しました。




