#41 魔物発生期
ジュリーは二号棟の魔物討伐をするそう。
レディリカからその情報を聞き、わたしは煉瓦造りの家から出た後、レディリカと一緒に二号棟へ向かう馬車に乗りました。今回の馬車はそこそこ人数が多く、立っている人もいます。
そんな中、席を確保したレディリカが前に立つわたしは人目を引きました。
えぇ、そうです。侍女を連れるような貴族は馬車を貸し切るか、極少ない人数で馬車に乗ることが一般的となっています。そんな中、ぎゅうぎゅう詰めという表現が合う馬車の中で侍女を連れているわたしは、目立つのです。
コロルボックスは膝の上にありますので、それも目立つ要因かと思います。
ちらちらと感じる視線を気にしないようにしながら、移動時間を過ごしました。
「おぉ……」
研究所二号棟に着くと、さながらお祭りのような賑わいがありました。
早めの馬車で来ましたが、すでに魔物発生期は始まっているらしく、先に討伐を進めていた訓練生達が倒した魔物が山積みになっています。
ダンジョンを模した場所から魔法で魔物を運んでくる訓練生、魔物を捌いたり、料理をしたり。研究者のような格好をしている人もいますが、大抵は訓練生のようです。
スキルには色々あるらしく、包丁が浮いていたり、突然戦利品の肉が細切れになったり。
貴族と思われる訓練生は、屋根付きの食事場所を確保しているようです。
わたしはどこで食事をしようか迷いました。レディリカはわたしの侍女です。そのため他の貴族のように個人的な空間を作り出した方が良いか、それとも他の方々と一緒に腕がぶつかるような場所で食べるかどうか。
どこで食べようかと思っていると、一画だけ人気のない場所がありました。
訓練生の制服は白地に金ボタンですが、そこにいたのは黒地に金ボタンの制服を着た、ジュリー。なるほど、研究所の三号棟に所属する訓練生は、見てわかるようになっているのですね。
ジュリーと一緒にいるのは、世話をしてくれているという審問官の方でしょうか。
わたしはジュリーの元へ行き、コロルボックスを置いて席に着きました。
今日は髪を耳の下辺りで二つに纏めているジュリーは、雰囲気が柔らかくなったような気がします。
「久しぶりね、ジュリー」
「お姉様も食事に?」
「そう。ジュリーは、休憩かしら」
「何回もスキルを使ったから。今は魔力を充填しているの」
わたしとジュリーが話す様子を見たレディリカは、離れても大丈夫と判断したのでしょう。食事を取ってくると行って傍を離れました。
そして審問官の方も、気を利かせてくれたようです。レディリカを追うようにその場を離れました。
「魔物を討伐するの、ジュリーのスキルだったらある程度の数を一掃できそうね」
「灼熱の太陽光線は一点集中型だから、魔物を一列に誘導しないといけないけど」
「それは大変なんじゃない?」
「まぁね。でも、楽しいわ。上手くできたらセインも褒めてくれるし」
ジュリーの頬がほんのり染まっているような気がするのは、きっとわたしの見間違いではないでしょう。貴族籍を剥奪され、両親という呪縛から逃れたジュリーは、まるで憑き物が落ちたかのように穏やかです。
そんなジュリーが、わたしに頭を下げました。
「お姉様。改めて、家でのこと、本当にごめんなさい」
「ジュリーからの謝罪はすでに受けたわ」
「そうなんだけど……セインに世話をしてもらいながら色んな家事をしてみて、お姉様がどれだけ大変なことをしていたのかわかったの」
「そう……」
ジュリーの手を見てみれば、記憶の中の綺麗な手とは程遠かった。あかぎれのような切り傷、左手の包帯。
言葉の通り、ジュリーは今、更生のために様々なことを自分でできるように努力しているのね。
妹の成長を初めて見たようで、わたしはじーんとしてしまいました。
妹の変化に感動していると、ジュリーがそっと身を寄せます。
「ねぇ、お姉様。お姉様はリアム様とどうなったの?」
「な、何よ、急に」
「お姉様がリアム様と恋人なら、相談したいことがあるの」
「こっ……!? も、申し訳ないけれど、リアム様とはそのような関係ではないわ」
「そうなの? でも、お姉様ちょっと様子が変よ。何かあったの?」
「な、何も!? 何もないわよ!?」
何かはあった。
人命救助。しかしそれはお互いに意識のある状態。わたしが酩酊状態だったとしても、人命救助をしたときの記憶はしっかりと残っています。
リアム様の唇の感触も。
「お姉様が取り乱すなんて、怪しい! 絶対何かあったでしょ!」
「そっ……。そんなことないわ。あぁ、ほら。レディリカ達が食事を運んできてくれたわよ」
また慌てそうになり、深呼吸をしてから平静を装いました。そして話題をそらそうと、目に入ったレディリカ達を引き合いに出します。
ジュリーはまだ納得していないような顔をしていましたが、審問官のセイン様を見てパッと顔を華やげました。
先程言っていた、相談したいこととは恋愛絡みでしょうか。
もしそうなら、それは楽しみです。わたしが助言できることはそう多くないですが、ジュリーとそんな他愛のない話をできる日が来るかもしれない。
そう考えるだけで、普通の姉妹のようになれるかもしれないと思えるのです。
それからわたしは、今まで貯めたコロルキューブを使って魔描用板に描きました。
木杯風切り株を出して、魔力充填して。
切り株風をどうにかできないかと挑戦してみて失敗し、また魔力を充填して。
魔描用板に描けるだけのコロルキューブを使い果たしてしまったために、魔描用板をただ出し続けたり。
わたしがスキルを使っていると、ジュリーは休憩を終えて魔物が出る現場へ戻って行きました。ジュリーは三号棟所属。監視のためだと思いますが、セイン様も一緒に移動していきました。
ジュリーを見送り、また魔力を高めるために食事をします。
わたしは大食らいではなかったと思いますが、それだけスキルを使うのは魔力を消費するのですね。
猪肉の胡椒炒め、パプリカのサラダ。
鶏肉の山羊乳煮込み、パプリカとブロッコリーのサラダ。
リンゴ二つ、グレープ一房。
魔力が上がる食材を食べる度、わたしの中のマナを貯める器が大きくなっていくような気がしました。
そこでまた、リアム様を思い出します。
わたしはこうして地道に器を大きくできていますが、リアム様はそうじゃない。寝ていても蓄積されてしまうマナが増えすぎて、苦しい思いをしている。
その救援を、わたしは頼まれた。それはとても名誉なことで、同時に、大きな責任が伴うことでもあるわ。
確実にマナを貯められるようなものを作らなければ、リアム様に戻ってしまう。それはリアム様の寿命を縮めてしまうことと同じ。
リアム様は、初めからわたしに優しくしてくださいました。
人として、とても善良な方です。そんな方を、亡くすわけにはいきません。
魔物発生期の七日間。
わたしはひたすら魔力向上に努めました。同時に色集めにも力を入れ、魔物発生期の最終日。
わたしはついに、魔描用板の大きさが小から中になりました。




