#40 魔力を増やす
木桶風切り株を抱えたまま所長室を出たわたしは、冷めない熱を下げようと廊下を走っていました。それでも顔の熱はすぐには引きません。
ようやく熱が引いたと思えたのは、わたしが一階に到着してから。魔物大発生の討伐を終えた人達が、それぞれの健闘を称えています。
その中に見知った顔を見つけ、駆け寄りました。
「レディリカ! お疲れ様」
「ダスティ様。労いのお言葉、ありがとうございます」
あれだけ大量の魔物を討伐するため動いていたというのに、レディリカは他の人達と比べて疲労感がありません。軽い運動をしたぐらいのような、そんな様子です。
レディリカが木桶風切り株に目を向けたので、わたしは内緒話をするように顔を寄せました。そして、所長室であったことを人命救助の一件だけ省いて伝えます。
「なるほど、器……」
「ねぇ、レディリカ。陛下から任されているということもあるし、回数だけこなせば魔描用板の大きさを変えられるじゃない? そのために魔力を早く上げていきたいんだけれど」
「良いですね! ちょうど、魔物大発生が終わったばかりです。明日から魔物発生期が始まります。食べ物系の魔物しか出なくなるので、毎日新鮮な状態を提供できます」
「……あれよね。生のブロッコリーとかニンジンとか」
生野菜を食べるときは何も考えずに食べよう。そう思っていると、レディリカから嬉しい提案を聞きます。
「普段であれば、マンペラぐらいしか持ち運びできません。ですが魔物発生期は違います。普段であればダンジョンを模した場所でないと発生しない魔物も、発生しますよ」
「ブロッコリーとか、ニンジンとか、生で食べなくても良いってこと?」
「そうですね。三つ叉で銀色の水草であれば、普段は水の中でしか生息できない魔物なのですぐに討伐できます。それに茶色い縁取りがある蝶、吸盤をつけた巨大花あたりがよく好まれますね」
サルジェントは、パプリカを落とす魔物。水草の長さによって落とす数が変わり、赤、黄、橙のどれかの色を落とすとされています。
ヴァンファルは、面積の多い部分の色が何色かによって戦利品が変わると学びました。白ならば白胡椒。赤ならば赤胡椒。黒ならば黒胡椒が粒で獲得できます。
胡椒粒単体では食べられたものではないですが、サラダや肉の味付けとして使えば料理の味を変えられますね。
動物系の魔物は五種類中、肉を落とす種類が三種類います。猪肉、鶏肉、熊肉。
猪肉に胡椒。食べたことがないはずなのに、口の中に唾液が広がります。
トーフィーは、ダンジョンで出会って戦利品を獲得したくない魔物でした。
戦利品の数は、トーフィーがこれまで餓死させた人の数とされています。新たに出る場合は、一つが確定なのでしょうか。それとも、戦利品のリンゴ、メロン、グレープ、ピーチのどれかは出ないのでしょうか。
一つが確定として出るのであれば、これほど嬉しいことはありません。生で食べるのならば、抵抗がないものの方が良いですから。
「魔物発生期は、ダスティ様のように魔力を上げたい方々も現場へ行きますよ」
「なるほど。自分の魔力向上のために、自分で仕留めるのね」
「そういう方もいらっしゃいますが、スキルの中には戦闘には不向きなものもあります。その場合は、戦闘のスキルを持つ方が動き、食料を提供していますね」
「それでは、戦う方が大変で不平等ではない?」
「戦闘スキルに関しては、座学よりも実戦の方が感覚を掴みやすいと思います。私は防御特化ですが身体能力が上がるため、戦闘スキルに分類されます。ですが実戦を経てからの方がより自分のスキルを知ることができました」
「なるほど……。そういう利点もあるのね」
チェイミベル様の「記憶・全、記載・全」のように、スキルを活用する方法は人それぞれ。戦闘スキルの人を助けるようなことも、あるかもしれない。
持ちつ持たれつ、という感じなのかしら。
「明日から、ということだけれど。各訓練生は、自分が所属する場所での戦闘をするのかしら」
「そうですね。初日にどの研究所に所属するのか伝えられるため、そのようになります」
「……三号棟にいる訓練生も、そうなのかしら」
「妹様ですね。基本的に三号棟は反省房があるだけなので、その期間が明けるまでは外へ出しません。ですが反省度とスキルによっては、魔物発生期に貢献してもらうこともありますね」
レディリカは、わたしが聞きたいことをすぐに察してくれる良い侍女だわ。
自分のことで手一杯だったけれど、やはりジュリーがどうなったのかは気になるところ。
レディリカにジュリーが参戦するかどうか確認してもらうように頼み、その答えによってわたしが行く研究所を決めようと思いました。




