#37 ▲予想外の幸せ①▲
長くなってしまいました。
三つに分けます。
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木桶風の切り株を抱えたダスティを見送ったケレイブは、一人になった所長室で頭を抱えた。その顔は赤く、先程起きたことを反芻している状態だ。
(……スータレイン嬢の唇は、柔らかくて……あ、いや)
思わず自分の唇を指でなぞってしまったケレイブは、どれだけ乙女的な反応なのだと自分を笑う。
しかし、ケレイブとしては先程のことは予想外だった。
ケレイブは、一度死んでいる。
それがなぜ今も生きているのかといえば、結晶花のおかげだ。
結晶花は、マナ大結晶の近くで咲く花。魔物を倒すとその残滓がマナ大結晶に戻り、また魔物が産まれる。
その過程で、残滓がマナ大結晶に戻る前にかすめる花が、結晶花となっていた。そのかすめる回数が多いほど、願いを叶える力が大きくなる。
ケレイブが死に戻りをするほどの、大きな力を。
一度目の人生時、ケレイブは二十七の誕生日を迎える前に死んでいる。寿命の短さで半ば自暴自棄になっていた、一度目の人生。
どうせ死ぬのならば綺麗な物を汚して死のうという意味不明な思考になっていた。
王都のサダリアでは、弟の過剰な心配が逆に申し訳ない状態で。
それならば目の届かない所でと訪れた、二つ隣の街ドワド。
そこでケレイブが死に戻りをする前のダスティが、娼婦をしていたのだ。
娼婦といっても、身体を売るものではなかった。
ダスティは以前も、家族から虐げられていたのだ。その生活の中で培われてしまった、状況判断能力。それはやがて話術へと進化したらしい。
娼婦とは名ばかりの、口の硬い相談相手のような立ち位置だった。
娼婦なのに身体を使わない。そんな、綺麗事あるわけないだろう。
そんな気持ちで、以前のケレイブは大分腐った性根をしていた。絶対に身体を使わせてやると、よくわからない目標を立てていたのだ。
適当に作った話で良いだろう。同情を誘うような内容にすれば、簡単に身体を使わせられるだろう。
そんな風に思っていたケレイブは、自分の容姿に絶大なる自信を持っていた。
しかし。
ケレイブが一週間通っても、一ヶ月通っても、ダスティは決して身体を使おうとはしなかった。
それどころか、作り話を真に受けて本気で心配してくれていた。罪悪感で押し潰されそうになっていた時、ダスティに懺悔した。すると、その時に言っていたのが。
「いいえ、問題ないですよ。リアム様だって人間ですから、そんなときもあります」
という言葉。
汚れなき魂は、いつでも綺麗なままらしい。
二十六の冬。ケレイブはダスティに陥落した。
ダスティは娼婦だ。しかし買い上げるには違うと思った。ケレイブが心を掬い上げられたように、他の誰かもダスティに助けを求めているかもしれない。
その時は、独占欲はなかった。ただダスティの生活向上のため、毎日ダスティに金を落とした。
ケレイブはローブを着て、自覚のある整った顔立ちを隠している。しかし立ち振る舞いや声、金の使い方からダスティの同僚から目をつけられてしまっていた。
ケレイブはダスティ一筋。身体を売っているのにダスティの人気を抜けない他の嬢達の恨みが、ダスティに行ってしまった。




