#34 魔物大発生
仮眠室にはいなかったので、レディリカの案内のもと五号棟の所長室へ向かいます。
所長室は建物の一番上にあるようで、階段を上っていました。すると、何やら急いでいる所員の方々がわたし達を抜いていきます。
「何かあったのかしら」
「風魔法で送る余裕もないということは、緊急の可能性がありますね」
レディリカ曰く、風魔法で指示なり伝達事項なりを送るには、それなりの時間が必要なようです。
以前見たリアム様の芸当は、リアム様だからこそできたとのこと。
わたし達は急いでいた所員の方々を追い、所長室へ向かいます。
到着すると、所長室から何人もの所員の方々があふれていました。どうにか道を譲ってもらい、中へ進みます。
「総員、各研究所へ緊急配備! 魔物大発生が発生するぞ!!」
聞き覚えのない単語が聞こえ、首を傾げます。
ですがわたし以外の方々は、レディリカも含めてざわついていました。
「マジェン! よく来た! 指示は聞いていたな? マジェンも対応してくれ」
「ですが、そうなるとダスティ様の護衛ができなくなります」
「ノルマは一日百体。マジェンが対応してくれた方が迅速に終わる。結果として、その方がスータレイン嬢を守れるだろう」
「かしこまりました。それではリアム様。私がいない間、ダスティ様をお願いします」
「承った。迅速な行動を期待する」
リアム様に頭を下げると、レディリカは所長室の窓から飛び降りました。
慌てて駆け寄ると、レディリカはずば抜けた身体能力を活かし、壁を走って行きます。ひとまず落下死はしないようだと、一安心しました。
ですが、レディリカが向かった先には、何かが生み出されそうな黒い空間があります。
「あそこから、魔物が大量に出てくるんだ」
「えっ!? それは大丈夫なのでしょうか」
「あれは魔物大発生といって、ほぼ毎月あるんだ。でも今月は、その時期が早い」
わたしの隣に来て、リアム様は教えてくださいました。
一ヶ月の魔物の討伐数が千体を超えると、魔物大発生が起こるそう。そしてそれから七日間、魔物が出続けるというもの。
リアム様が指示を出していたように、一日の討伐数が百体を超えると、一度落ち着くらしいです。
「魔物大発生が終わったら、次は魔物発生期に移行するんだ。ここでは七日間、食料系の魔物しか出なくなる」
「なるほど……マジャティマの期間は、一日の討伐数は決まっているのでしょうか」
「いや。無作為だね。数が多いときもあれば、数体しか出ないときもある」
「それは……何というか、大変ですね。討伐しないというわけにもいかないですし、討伐することで、また魔物大発生が起こってしまうのですね」
「それが、そうじゃないんだ。アンペニ山脈の地下にマナ大結晶があるんだけど、魔物大発生時の討伐数はカウントされないとわかっているんだ」
マナ大結晶が、魔物を発生させているのでしょう。
それならばマナ大結晶を壊せば魔物がいなくなるのではと思いましたが、すぐに気づきます。
以前見たスヴェラのように、食料を落とす魔物がいるのです。魔物は三十種いますが、食料系魔物だけ出すということはできないのでしょう。
食糧事情を考えると、魔物を討伐していくことが最良の方法なのだと思います。
「英級、絶級のスキル保持者が訓練するのは、こういう事態に備えているのですね」
「そうだね。鑑定を受けてから、戦闘要員は十八ヶ月、国のために働いてもらっている。その後も討伐を続ける人もいれば、家に戻る人もいる」
「なるほど。そうして、討伐人員を生み出しているのですね」
黒い空間から、次々と魔物が出てきました。
レディリカの抗議を受けて、魔物の姿と名前は一致しています。それでも判別がつかないほどの大量の魔物が、研究所の周囲にあふれていました。
「こんなところでも魔物大発生が起きるなんて、国を挙げて討伐人員を確保する必要性がわかります」
「納得してくれているところに申し訳ないけど、研究所島の訓練場は、アンペニ山脈にある洞窟を再現しているんだ。マナ大結晶の一部を採取して、研究所島の地下に埋めてある」
「えっ。なぜ、わざわざそんな危険なことを」
「実戦が一番身につくからね。現地は突いた瞬間から魔物との戦闘が始まる。対処を学ぶためには、実戦を経験しないと」
以前、教育課程が厳しくて逃げ出す人もいるのかと思いました。ですが今の話を聞くと、そればかりではないのかもしれないです。
わたしのように、魔物の存在を知らない人も多くいるでしょう。そんな中、戦闘訓練として実戦するのは、かなり大変だと思います。
「とはいえ、魔物大発生のときは出没地域に関係なく出てくるんだけどね!」
リアム様は話しながら、鷲に乗った骸骨に攻撃魔法を放ちました。
何てことはないようにしていますが、リアム様は魔法を放つと寿命を縮めてしまいます。再び魔法を放とうとしたリアム様の右腕を、抱きかかえて止めました。
「ス、スータレイン嬢!? 何を……」
「リアム様は、蓄積されたマナの放出方法を見つけるまで、魔法を使ってはいけません」
「ああ、ネイサンが話したのか」
言いながら、今度は左腕で魔法を放とうとします。
わたしはリアム様の両腕を抱き込むようにして止めました。
「ス、スータレイン嬢! う、腕を放してもらえないかな」
「ダメです! 放したら、リアム様はまた魔法を使うでしょう?」
「い、いや……その、む、胸が」
「むねが……っ!? も、申し訳ありません!! 決して、わたしの胸を押しつけたわけでは!!」
真っ赤になっているリアム様に指摘され、ようやくわたしも理解しました。
リアム様に魔法を使わないようにさせるためとはいえ、わたしったらなんて下品なことをしてしまったのでしょう。
ま、まぁ? 実家時代の少ない食事の栄養は、女性としては高い方の身長に行きましたし? 魅力的なものではないと思いますが。
勝手に自分を励まし、勝手に落ちこみます。
そんなわたしを見たリアム様が、グッとわたしの肩を寄せました。
「スータレイン嬢、こっち!」
「きゃぁっ」
再び、スケークラがやってきたようです。開いた窓から錆びた剣を投げつけてきました。リアム様に庇われていなかったら、壁に突き刺さっている剣はわたしを貫いていたかもしれません。
命の危険があった。そう考えてしまうと、心臓がバクバクと忙しなく動きます。
一向に落ち着く気配のない心臓は、リアム様にまた引き寄せられてさらに跳ね上がりました。
「申し訳ありません! 討ち漏らしました」
レディリカがスケークラを討伐し、また視界から消えました。
再び危険に襲われないように、リアム様が開けられたままの窓を閉めます。
「窓さえ閉めれば、魔物の攻撃は届かないよ」
「そ、そうなんですね。それは、良かったです」
危険は去ったと聞き、ようやく心臓が落ち着こうとしたとき。リアム様に抱きしめられたままだと気づきました。




