#32 【甘い魔力】の譲渡方法
※レディリカが血を出します。苦手な方はさっと読み流してください。
陛下にスキルを披露した後、陛下からお願いをされてしまいました。
そして生じた、一つの疑問。わたしが食べていた生野菜は、どこから入手したのか。
「……レディリカ。一つ、教えてくれるかしら。わたしが食べていた生野菜は」
「リアム様が持ってきてくださいました」
「そうよね。そうなるわよね。それならもしかして……というより、わたしのマナが枯渇した後も、リアム様は倒れていたのかしら」
わたしからの質問に、レディリカは応えません。それは、リアム様の名誉に関わることだからでしょう。
けれど、沈黙が答え。
わたしは、知らなかったとはいえリアム様に相当な負担をさせてしまっていたのですね。それは、チェイミベル様に睨まれるわけです。
「……リアム様にこれ以上の負担をかけないためにも、わたしが思っている以上に魔力向上を早急にしないといけないようね」
わたしが倒れるたび、リアム様は身体を酷使して魔物を持ってきてしまう。その優しさに溺れていたら、リアム様の命を縮めることになる。
十歳の頃に鑑定され、スキルを自覚し。
リアム様は、今どれくらいの寿命が削られているのでしょう。
「レディリカ。リアム様のお年は?」
「現在二十六歳でいらっしゃいます」
「ということは、すでに十六年も……」
四属性のスキルを自覚したときから、蓄積され続けるマナ。
リアム様が身体を鍛えているのは、もしかしたら少しでも器を大きくするためかもしれません。身体が頑健であれば、内包する器も丈夫になるでしょう。
ですが、それでも十六年。どれだけ鍛えても、過剰に蓄積されるマナを消費する術が自分の寿命を削るしかないとすれば、それはつらいことです。
「……リアム様がわたしを気にかけてくださるのも、ご自身の命がもう長くないと感じているからでしょうね」
「いえ、それは違います」
「やけに即答するわね」
「甘い魔力は、希望の兆し。ダスティ様は、リアム様から恋愛対象として思われています」
「……ん? どういうことかしら」
四属性のスキルは、寿命を削る。それは、強大な魔力と、蓄積されるマナが身体に負担をかけるから。どうにか安全な方法で、マナを放出する機会があれば。
レディリカから言われたことが理解できなくて、思わず教わったばかりのことを復習してしまいました。
「研究所では、様々なことを研究しています。甘い魔力もその一つで、まだ解明されていませんが、一つの仮設が立てられています」
「その仮設とは?」
「甘い魔力は、譲渡する相手に好意を抱いていると」
「……え、いや、まさか。そんなことってある?」
「試してみましょうか」
そう言うと、レディリカは躊躇いなく自身の爪で手の甲を傷つけました。短く切られていた爪なのに、レディリカの手の甲からは線状の血が滲み出ています。
「匂いを嗅いでみてください。リアム様との違いがわかると思います」
そう言われ、怪我の手当をする前にレディリカの献身が無駄にならないように鼻を近づけます。
無臭。神経を集中させて嗅覚を研ぎ澄ませれば、これが血の匂いかとわかる程度。
リアム様のように、我を忘れるような魅力は感じません。例え酩酊状態になっていたとしても、同じような感想を持つと思います。
確認が終わりました。レディリカは手巾を取り出しし、片手なのに器用に手巾を左手に結びます。
「私は、人としてダスティ様を好いています。ですがそれは恋愛とは異なりますので、こうして違いが現れます」
「……違いは、わかったけれども。なぜ、リアム様がわたしを?」
「リアム様の心情までは、わかりかねます。ですが、恋というものはいつも突然なのではないでしょうか」
「そ、そういもの?」
「といっても、リアム様の場合はダスティ様から甘いと申告があってから本格的に意識したと思われますが」
恋について聞こうとして、絶妙にそらされたような気がします。レディリカとしては、恋について追求されたくないのでしょうか。
「……今日のリアム様も、これまでと変わらなかったわよ?」
「ダスティ様の元へいらっしゃらない、空白の時間で体調を整えたのだと思います」
「え、いや、それにしても……」
リアム様がわたしのことを、恋愛対象として見ている。
そう告げられたところで、わたしはどうすれば良いのか。
貴族籍がなくなる寸前の男爵令嬢と、王兄。どう考えても、立場が違いすぎます。
「チェイミベル様は? あの方の気持ちを無視してどうにかなるつもりもないわ」
「チェイミベル補佐官に関しては、本人が望んであの位置にいるので気にされなくて良いかと」
「いや、気にするでしょう!? わたしはチェイミベル様の恋路を邪魔したくないわ」
わたしは、当然の主張をした。
したと、思っていたのに。
レディリカが、リアム様を思うように表情を曇らせます。
勘違いだとわかるまでは、レディリカのそんな表情をリアム様への好意だと思ったままだったでしょう。ですが今は、幼馴染みのリアム様への情だとわかります。
「リアム様のお命は、正直あとどれくらいかわかりません。なので、私からもお願いしたいです。ダスティ様。リアム様の寿命を延ばしてくれませんか」
「そうは言っても、毎日リアム様の血を吸うわけにはいかないでしょう?」
寿命が短いと思われる、リアム様。救うためだとしても、そんな相手の血を毎日見ないといけないのは精神的につらい。
陛下からも、兄を思う弟としてお願いされています。幼馴染みのレディリカからも、お願いされました。
ですが、わたしに何ができると言うのでしょう。
優しく接してくれていますし、初めて誕生日を祝ってくれた方です。わたしだって、できるならリアム様を救いたい。
けれど、立場が。
思い悩むわたしに、レディリカは血を流さない魔力譲渡の方法を教えてくれます。
経口譲渡と。
土日、お休みをいただきます。
また月曜日に投稿を再開します。
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