#28 効率の悪いスキル
※血が出ます。苦手な方はさっと読み流してください。
初めての召喚が終わり、まだまだ課題がたくさんあるとわかりました。
召喚で使った分のコロルキューブは、半透明の箱には戻らずそのまま消費されてしまうようです。これはさらなる色の探求をしなければいけません。
チェイミベル様はすでにネックレスを服の中にしまっていますが、宝石からも色を学べます。宝石だけでなく、世の中に存在する全ての物から学ばないといけません。
回数を重ね、一番大きな魔描用板を使ったら、宝石はもっと光り輝くのでしょうか。というより、宝石を召喚できるかもしれない。それは、控えめに言ってすごいことでは?
初めて召喚したガーネット擬きは、いつまでも消えません。召喚したら、ずっと存在し続けるということです。
コロルが、前に言っていましたね。魔描用板で作り出した食べ物を食べれば、魔力を少し補填できると。
「コロ、ル……」
「ダスティ様!?」
「スータレイン嬢!?」
コロルに食べ物を召喚できるのはどの大きさの魔描用板かを聞こうとした瞬間、くわんと視界が揺れました。椅子に座っていたわたしは、そのまま机に突っ伏してしまいます。
レディリカが身体を支えてくれているようですが、身体が熱いです。一度だけ風邪を引いたことがありますが、その熱ではありません。
もっと、何も考えられなくなるようなふわふわとした感じです。
「ダスティ様。お身体が非常に熱いです。すぐに、寝室へお連れします」
わたしを心配するレディリカの声が、どこか遠くに聞こえます。
レディリカのスキルは、身体能力の向上と相性が良いと言っていました。だから、レディリカがわたしを抱き上げてくれても、何も違和感を覚えません。
それにしてもやけにがっしりとした腕ですね。そう思い、重たい瞼を上げました。
「……?」
「マジェンには他の準備をしてもらっている」
目を開けると、レディリカではなくリアム様がいました。つまり、今わたしを抱き上げているのはレディリカではなくリアム様ということ。
それを自覚すると、急激に身体がカッと熱くなりました。
「スータレイン嬢。すぐにベッドへ運ぶから。もう少しの辛抱だ」
恥ずかしさと、よくわからない感情と。
リアム様に抱き上げられたまま、わたしは寝室へ行きました。
ベッドに寝かされ、心配されているかのように額を撫でられます。
「熱が高い。急性マナ超過症か」
「リアム様。ご用意しました」
レディリカが持ってきたのは、荒く削られた木の串。そして渡したらすぐに、部屋を出ていってしまいました。
リアム様は木の串の尖った先を、躊躇いなく自分の指先へ刺します。ぷくっと、リアム様の指先から血が出てきました。
「なにをしてるのぉ?」
「説明は後だ。スータレイン嬢。今は何も考えず、おれの指先に顔を近づけて」
王兄のリアム様に向かって何て言葉を。
そう思っても、ふわふわとした浮ついた気持ちに、理性はありません。
ぼやけた視界の中では、リアム様の指先がとても魅力的に思えました。そしてあろうことか、わたしは大きな口を開けてパクッと食いつきます。
「っ、そう。そのまま、魔力を吸って」
リアム様の指先から出る血は、とても甘いような気がしました。空腹時に吸った、花の蜜よりも甘い、魅惑的な味。
それを余すことなく味わおうと、わたしはリアム様の右手を両手で掴み、力の限り吸い込みます。
……わたし、どうしてこんなことを?
わたしがほんの少し、理性を取り戻した頃。
部屋の外からレディリカと争っているチェイミベル様の声が聞こえました。
そして段々と、元の思考が戻ってきます。
自分の状況を自覚し、サーッと青ざめながらリアム様から離れました。
「申し訳ありません!!」
「あ、落ち着いたね」
「ケレイブ様!!!!」
細くて小さなチェイミベル様が、身体能力が高いレディリカをどうやって抜け出したかわかりません。
チェイミベル様は部屋に入ってくるなり、ご自身の手巾を使ってリアム様の右手を――もっと言ったら、わたしが銜えた指先を拭っています。
わたしは今、睨まれているのですがそれも当然でしょう。
片思いをしているチェイミベル様を差し置いて、リアム様にとんでもないことをしてしまったのですから。
それにしても、執拗すぎませんか。いえ、確かに口に入れましたけども。
「……そこまで拭くのならば、いっそのこと手を洗った方が良いのでは」
「酔っ払いが言うことじゃない」
「チェイミベル。手を洗うから離れて」
リアム様の言葉に従ったチェイミベル様は、手巾を握りしめつつわたしを睨みます。
そしてリアム様は、チェイミベル様を安心させるためでしょう。水の魔法を使って手先を洗いました。
「! ケレイブ様、ダメ!!」
チェイミベル様が叫ぶのとほぼ同時に、リアム様はふらついて壁に背を預けたまま座り込んでしまいました。




