#27 初めての召喚
ジュリーの襲撃から二日。
ジュリーの侍女だったカリカは、鑑定を受けてスキルが確定したそう。
カリカのスキルは植育。その名の通り植物を育てるスキルです。使い方によっては危険もともなうため、植育は備級ですが、訓練要員だそう。
そのため、カリカもスータレイン家に戻るのは延期となりました。そして訓練生のため、わたしの侍女にもなりません。
ジュリーは、スキルの攻撃力が高く訓練は必須です。そしてわたしの殺害未遂のため、お父様の誕生日を迎えるよりも先に貴族籍剥奪となりました。
スキルの訓練をしつつ、庶民としての生活ができるように日常的な炊事洗濯などの家事も一人でできるようにしていくそうです。
審問室にいた審問官の方が、ジュリーが一人前になるまで傍で指導してくれるとのこと。
家事なんて一切やったことがなかった子ですから、わたしの予定に余裕があるときに様子を窺いに行った方が良いかもしれません。
カリカのことが決まり、住居変更が可能となりました。ですが、カリカはジュリーの世話をしていたときの住居にそのまま住むということで、わたしはそのまま煉瓦造りの一角に住んでいます。
というのも、訓練生となり教育課程上忙しくなるようですが、万が一ということを考えた結果だそう。
カリカのことと、ジュリーのことを伝えに来てくださったリアム様からの指示です。
そしてわたしは。
リアム様から聞いていた通り、魔描召喚士のスキルを陛下の前で披露する日を七日後に控えています。
ジュリー達のことがわかるまでの時間を、ひたすら魔力を上げることに努めました。そのおかげで、魔描用板を一日中出したままでもマナが枯渇しなくなっています。
ジュリー達の結果がわかり、これから初めての召喚をすることになりました。
昼食を終え、チェイミベル様もリアム様の補佐官としてスキルのことを描く準備を整えています。
リアム様もお忙しい中、わざわざ訪問してくださいました。
「では、やってみます」
コロルボックスを開き、半透明の箱が山なりになって現れました。そしてその中心に、16×16の大きさの魔描用板も出ます。
<ご主人! この大きさの魔描用板は、無機物を召喚できるよ>
「無機物?」
<生き物と関係なく存在しているやつ。水とか空気とか、石とか砂とか>
「なるほど……とはいえ、今貯めたコロルキューブでそれを表現できるでしょうか」
在庫のコロルキューブは、主に暖色系。野菜を食べて認識もしているので緑系もあります。けれど水を表現するような青は、そもそも半透明の箱の区分に入っていません。
使える色は、赤、橙、黄、黄緑、緑、深緑、紫、茶、白です。
何を召喚しようかと考えていると、チェイミベル様がおもむろに首元からネックレスを出しました。それを手に持ち、わたしに見せてくれます。
「ガーネット。これは赤だから表現できる」
「なるほど! 宝石ですね。拝見します」
チェイミベル様が金の台座を持ったまま見せてくれているのは、四色の宝石。それぞれがハート型にカットされています。
赤がガーネットで、水を連想させるような透き通った青みを帯びた宝石。それとはまた違った色味の、淡い青の宝石。これはどちらかと言えば、空を連想するような色です。これは風の印象を持ちました。
そこまで考え、ハッと気づきます。
ガーネットは火。水を連想させる宝石と、風の印象がある宝石。そして、もう一つの黒に近いような濃い褐色の宝石。これは恐らく、土。
つまりは、これだけで四属性を表しているのだと思います。
そして、その四属性を包む金。それすなわち、リアム様の金髪。
チェイミベル様が持っているネックレスのチェーンの長さを考えるに、恐らく心臓に近い位置の辺りまであるでしょう。
「……なんで、にやつく」
「あっ、申し訳ありません。うっかり、表情に出てしまいました」
指摘されても尚、表情が緩むのを止められません。
だって、こんな可愛いことってありますか?
四属性と金。リアム様を表すようなネックレスのチェーンを、心臓の辺りまで伸ばす。それはすなわち、チェイミベル様がリアム様を思う気持ちそのものではないですか!
どうしましょう。ニマニマが止まりません。
チェイミベル様の気持ちは確かめたので、わたしの推測は合っていると思います。
「不快。パピを見て笑わないで」
「申し訳ありません。自重します」
善意で出してくれたネックレスをしまわれそうになり、わたしは慌てて謝罪しました。
そして、チェイミベル様が持つネックレスにある、ガーネットを観察します。
立体的なハート型のガーネットは、見る角度によって色が変化していました。
赤、淡い赤、濃い赤。赤みを帯びた透明な部分と、黒みを帯びた赤。光の反射によっても色が変わります。
それらの全てを表現するには、まだコロルキューブの種類が足りません。ですが、これからするのは初めての召喚。そこまでこだわらなくても良いかもしれません。
チェイミベル様が見せてくださった宝石を参考に、赤の在庫からコロルキューブを魔描用板に嵌めていきました。
どうにかハート型を作れたものの、やはり宝石の輝きは表現をするのが難しいです。
<ご主人。これで完成なら、魔描用板に描いたものの縁をなぞって>
「わかったわ」
コロルの言うとおりに、ハート型に描いたガーネットをなぞります。
すると、ポンと煙が出てわたしの手元にガーネットのようなものが出てきました。但し光沢は一切なく、中途半端に立体的で、とても宝石とは呼べないような代物です。
大きさだけは、参考にしたガーネットぐらいになっています。
「……これは、難しいですね」
「スータレイン嬢が考える色もそうだし、大きさもざっくりとした感じの表現しかできないみたいだ」
「うーん……色の表現はこれからさらに勉強するとして、何とも言えないざっくりとした感じはどうにかならないものでしょうか」
<ご主人の技術レベルが上がれば、もっと表現できるよ!>
「それは朗報ね。コロル、具体的には?」
わたしが質問すると、コロルは魔描用板の状態を解除しました。
そして、コロルを模写しながら魔描召喚士のことを紙に書いていたチェイミベル様から筆記具を借ります。ですが身体の大きさ的に難しく、筆記具に潰されてしまいました。
不服そうな表情を浮かべるコロルに目を輝かせたチェイミベル様に、筆記具を返します。
そしてコロルは、魔描用板の進化を教えてくれました。
<魔描用板は、三つの大きさがあるんだ。ご主人が今使えるのは、一番小さなやつ。次が中。一番大きいやつは小の四倍大きいよ>
「なるほど。小が16×16だから、中は32×32。大は64×64の大きさということね。そこまで使えるようにするためにはどうすれば良いのかしら」
<ご主人が、ひたすら召喚する。小から中は五十回。中から大はさらに五十回>
「百回はしないといけないのね」
<そう。あと中から大にするためには、ご主人の心も大きくならないといけないんだ>
「わたしの心も?」
わたしの心を大きくする。それは、わたしの心が成長するということかしら。
心の成長とは。
こなさなくてはいけない、回数。そして心の成長。
魔描召喚士は、育て甲斐のあるスキルのようです。
土日はお休みをいただきまして、次の更新は月曜日にします。
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