#22 スータレイン家の事情②
「スータレイン嬢。中に入ってもらえるかな。手枷でスキルを制御しているから、安心して」
リアム様に招かれ、ジュリーがいる部屋に入ります。
遮音性の高いこの部屋は、外界と遮断されたように感じました。もしこの部屋に一人で残されたら、精神に異常をきたしてしまうかもしれません。
ジュリーに近づくと、生気を宿したように怒りの眼差しを向けてきました。そんなジュリーの視線を遮るように、リアム様が前に立ってくださいます。
すると、ジュリーはより一層強い憎悪を向けてきました。
「お姉様は無能なのに! なぜお姉様はケレイブ様と親しくなれるのよ!!」
「ジュリー。何度も言っているでしょう? リアム様と婚約しているわけでもないのに、名前を呼ぶなんていけません」
「何よ!! 無能なくせに! あたしに意見しないでよ!」
感情のままに叫ぶジュリーの言葉を聞いたリアム様が、机に手を置きました。それは静かな動きなのに、わたしの方からはリアム様のお顔は見えないのに。
なぜか、リアム様は今黒い微笑みを浮かべっているような気がします。
「ジュリー・スータレイン。君は、自分の立場がわかっていないらしい。君のお姉さんの気持ち次第で、君の命はどうとでもなるんだ」
「だったら! こんなところに連れてこないで、さっさと殺せばいいじゃない! あたしなんて、どうせ生きている意味もな」
産まれた意味すら否定するジュリーの頬を、叩きました。
これまで両親に溺愛されてきたジュリーにとって、初めての痛みでしょう。わたしも、ジュリーの頬を叩いた右手がジンジンと痛みます。
かなり強めに叩いてしまいましたが、ジュリーは椅子に座ったままです。やはり、あの手枷に何か仕組みがあるのでしょう。
「ジュリー。どんな状況であれ、両親を否定することはいけません」
「何よ!! お姉様は、お父様とお母様からずっと否定されていたじゃない! 娘として思われていなかったじゃない!! あたしの方が、愛されてきたんだから!!」
ジュリーが赤と橙の濃淡がある瞳いっぱいに涙を浮かべます。
その涙は、わたしが叩いてしまった頬の痛みからきているのかもしれません。痛みのせいで、感情を抑えられなくなっているのでしょう。
ジュリーの頬に、労るように手を添えます。
「ごめんなさいね、ジュリー。痛かったでしょう? でも、両親に愛されているあなただからこそ、口にしてはいけない言葉を止めるためだったの」
「何よ、偉そうに!! お姉様なんて、お姉様なんて……」
ついに、ジュリーが涙を流してしまいました。その涙を拭うように手を添えると、さらに涙を流します。
抱きしめ涙を受け止めると、ジュリーは声を上げて泣きました。
ひとしきり泣いた後、ジュリーが話し始めます。
「……お父様とお母様に、幻滅されたの」
「英級だと、責められた?」
「……お父様が、お姉様のスキルに期待するって」
「そう」
産まれてすぐ幻滅されたわたしと違い、ジュリーはずっと両親の愛情を一身に受けてきた。そんなジュリーからしたら、初めての拒絶はかなり堪えたはず。
「それに、あたしはケレ……リアム様に会えないのに、カリカがお姉様は会っているって言うから」
「不平等だと? それはわたしのスキルの内容がわからなかったから、気にかけてくださっているだけ」
あの侍女はカリカと言うのね。
そんなことを思いつつ、これまで全て望んだものを得てきたジュリーの初めての挫折をどう乗り越えるかを伝えます。
「ジュリー。あなたは知らなかったでしょう。我が家は、お父様が四十歳を迎えるときまでに何か成果を出さないと、貴族籍を没収されるのよ」
「え……貴族じゃ、なくなるってこと?」
「そう。だからお父様は、ジュリーが産まれた頃から期待していた。力がありそうな、髪色と瞳だったから」
「でも、あたしは英級よ? 英級じゃダメなの?」
「貴族を続けられるのは、絶級なの」
「そんな……お姉様は? お姉様は絶級じゃないの?」
リアム様を見ます。
リアム様が、見つめ返してくれました。いいえ、これは鑑定時の儀式のようなもの。深い意味はありません。
そしてリアム様は、首を振ります。
「残念ながら、スータレイン嬢の級はまだ決まっていない」
「半年ぐらいは、わからないそうよ」
「そんな……それじゃぁ、間に合わないかもしれないってこと?」
「そうね。お父様は春産まれだから」
お父様と同じように、ジュリーもまた貴族として産まれ、貴族のままでいると思っていたでしょう。
貴族ではなくなるかもしれない。帳簿を見たこともないジュリーには、すぐには受け止められないと思います。
「ジュリー。あなたはまだ十五でしょう? これから努力すれば、まだ挽回できるわ。あなたは昔から、何でもできたじゃない」
「お姉様……ごめんなさい」
ジュリーが、初めてわたしに頭を下げました。
お父様やお母様に否定され、わたしの話を聞き、ようやく現実が見えてきたのかもしれません。
項垂れる姿は、本当に反省しているように見えました。
ジュリーと話し終えてから、ハッと気づきます。
「リアム様、申し訳ありません。その……」
「おれも弟がいるから、スータレイン嬢の気持ちはわかるよ。本人も反省しているようだし、まあ、事情もあるしね。極刑にはならないように取り計らうよ」
「ありがとうございます!」
わたしが頭を下げると、ジュリーも頭を下げました。




