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#11 六面体の正体を探る


 チャスタ様から転がり落ちるという失態を演じず、どうにか煉瓦造りの家に戻りました。これで終わりだと思ったわたしは、油断していたのでしょう。

 チャスタ様から下ろされる際、リアム様に抱き上げられてしまいました。追いついたレディリカに渡され、地面に足を着けたときには顔が真っ赤になっていたと思います。


「それじゃあ、駆除を始めようか」

「は、はいっ」


 わたしは自分の両頬を軽く叩いて意識を変えます。

 リアム様は気配を探れるということでしたが、姿は見えないかもしれません。わたしが、しっかりしないと。


 リアム様が先頭に立ち、次がレディリカで最後がわたしです。

 リアム様は早速、気配を探っているのでしょうか。左耳を煉瓦造りの家に向けるようにして、ゆっくりと進んでいきます。

 扉の前まで来ました。

 リアム様は手の動きだけでわたし達に下がるよう指示を出されます。


 取っ手を掴み、バッと勢い良く開けました。

 ザザッと増殖した六面体が出てくるかと思いましたが、杞憂だったようです。何も出てきませんでした。


「とりあえず、ここは大丈夫みたいだ。玄関の扉は開けておこう」

「リアム様、気をつけてくださいね。六面体の生き物は、突然飛びかかってきます」

「なるほど。敵は六面体なんだね。ありがとう、参考にするよ」


 そう言って、リアム様は煉瓦造りの家に入っていきます。

 明かりをつけたままだったので、家の中を見渡せました。

 最初に目撃した場所、食料庫の前は食い荒らされた野菜達が置かれたままです。


「スータレイン嬢。何も気配を感じないけど、ここに六面体はいる?」

「いえ……あれは移動するときに転がって、カコンカコンと音がします。今は、その音はありません」

「それなら、マジェンが対応した二体だけだったのか……?」


 リアム様は警戒を怠らず、周囲を探ります。

 わたしもレディリカに守られながら、リビングを見回しました。

 すると、見覚えのないリュックを発見します。サイドにポケットがあり、角張っているリュックを。


「レディリカ、リアム様。ここに置かれているリュック、どなたのか知っていますか」

「リュック?」

「ダスティ様。どの辺りにあるか具体的に教えていただいてもよろしいでしょうか」

「えっ……二人には、見えない?」

「! マジェン、スータレイン嬢を守れ」

「かしこまりました」


 リアム様の迅速な指示のもと、それぞれが動きました。

 リアム様はわたしが視線を向けていた先を警戒し、レディリカはわたしを背に庇います。

 わたしは唯一あの不思議なリュックが見える者として、変化をすぐに報告できるように観察しました。


「! 向かって右側のポケットが、動きました。あれが出てくるかもしれません!」

「報告ありがとう。スータレイン嬢はそのまま下がっていて」


 平たかったはずのリュックのポケットに、ポコッと角が立ちます。

 あの角こそ、六面体のあいつでしょう。

 じっと観察していると、六面体はポケットの中で転がっているようです。何度か角が動きました。

 そして、観察を続けていると。


「え゛」

「スータレイン嬢? どうしたんだ」

「その……ポケットから、六面体が出てきたのですが……」


 半透明の六面体は、()()()()()()()()()()出てきました。

 手。

 まさか、わたし達がこの場を離れている間に、進化したのでしょうか。


 ポケットに手をかけた六面体は、まるで大きな段差を超えるように出てきました。顔か身体かわからなかった部分は、どうやら顔だったようです。

 六面体から身体が伸び、手足がついています。

 ポケットから出た六面体は、また食料を漁ろうとしたのでしょうか。食料庫の方へ行こうとして、わたしの目線に気づいたようです。


<!>

「ひっ」


 驚いたような顔をした六面体が、顔の部分に身体を全て収納しました。

 思わず声を出してしまうと、わたしの目線の方向を見ていたリアム様が示します。


「マジェン! スータレイン嬢の目線の先、十一時の方角の床だ!」

「かしこまりました!」


 リアム様の的確な指示のもと、レディリカが駆け、六面体を蹴り飛ばしました。

 今度は、リビングの小窓に小さな穴が空きます。

 修復する箇所が増えたなと思っていると、リアム様が角張ったリュックがある方を見ました。


「スータレイン嬢! もしかして、ここにさっき言っていたリュックがある!?」

「は、はい!」

「ここから、さっき感じた気配がする。このリュックが六面体の住処かもしれない! すぐに処分しよう。気配だけで形はわからないから、指示を頼む」

「わ、わかりました。えぇと、リアム様から五歩ほど先の床にあります」


 リアム様が五歩進みました。


「そのまま腰を落としてもらいまして……そうです。その位置です。身体の幅ほど腕を開いてもらいまして、そのまま挟んでください」


 わたしの言葉通りに動いたリアム様が、リュックを抱え上げます。

 わたしはリュックが見えているので不思議ではないですが、レディリカやリアム様にはどう映っているのでしょうか。

 状況を知らない方が来たら、リアム様が身体の幅に腕を広げて動く奇妙な状態に見えるかもしれません。


「よし。このまま外へ」

「ケレイブ様? 何をされているのですか」

「チェイミベル様! いらしたのですね」

「えぇ。研究所へあなたを連れて行かないといけないから」

「なるほど! 申し訳ありませんが、少しお待ちいただけますか。今、リアム様に六面体の駆除をお願いしているのです」

「六面体? 駆除?」


 開けたままの玄関から入ってきたのでしょう。チェイミベル様は不思議そうな顔をして、リアム様を見ています。

 わたしも、意識をリュックの方へ戻しました。

 先程も出た、リュックの正面から右のポケットに角が出現します。


「リアム様! またあいつが出ます!」


 わたしの呼びかけにより、リアム様は早足になってリュックを外へ運び出します。

 ですが、その途中。あともう少しで外に出せそうな時機に、先程と同じようにポケットから出てきた六面体がリアム様に噛みつきました。


「っ!?」

「えっ!?」


 噛まれた感触があったのか、リアム様は思わずリュックから手を離してしまいました。

 そしてリアム様から解放されたリュックは、着地の瞬間に回転し、落下の衝撃を和らげたように見えます。そしてシュルシュルと転がって、元の場所に戻りました。

 わたしの目線でリュックが動いたことがわかったのか、リアム様とレディリカがその方向を追います。

 わたしも続き、チェイミベル様も不思議そうについてきました。


「スータレイン嬢! リュックは!? 今はどこに!?」

「最初にあった位置に戻ったのですが……」


 リュックの前で、六面体が両手を広げていました。まるで、リュックを守るかのように。


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