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#10 助けを求めた結果


 レディリカと煉瓦造りの家を出た後、崖沿いに真っ直ぐ進みました。

 すると、灯台のようにも見える背の高い家が見えてきます。

 どうやらあそこが、リアム様が住む家のようです。

 歩いている内に空は明るくなってきました。方角からすると西なので、朝日よりも夕焼けが綺麗かもしれません。


 レディリカが扉につけられたノッカーを動かします。

 リアム様は早起きのようで、すぐに出てきてくれました。


「どうした?」

「リアム様、朝早くから申し訳ありません。緊急事態、です。気配を探る力も長けていると伺いました。そのお力を貸してもらえませんか」

「どういうこと?」


 わたしが訴え、抱いたリアム様の疑問に、レディリカが答えました。そして状況を把握してくださったようで、すぐに動いてくれるそうです。

 わたし達が持ってきた荷物をリアム様の家に置かせてもらい、わたしに割り当てられた煉瓦造りの家にすぐ戻ることになりました。


「マジェン。行けるね?」

「もちろんです」


 短い会話だけでわかり合ったお二人は、それぞれ準備を始めます。

 レディリカは準備運動を。

 そしてリアム様は厩舎から毛並みが美しい栗毛の馬を出してきました。

 少し眠そうなその馬は、寝不足を訴えるためか不服そうに鼻息をリアム様に当てます。


「ごめん、チャスタ。あとで食事にリンゴもつけるから」


 リアム様からの申し出を聞くと、納得したようにチャスタ様はもう一度鼻息を当てました。先程よりも少し風の威力が弱かったような気がします。


「スータレイン嬢。乗馬の経験はないよね?」

「はい」

「それなら、申し訳ないけどおれの腕の中で我慢してもらえるかな? マジェンに運んでもらってもいいと思うんだけど、チャスタの上の方が安定するし、おれが風よけにもなると思うから」

「えっと……?」

「ダスティ様。リアム様の乗馬技術はずば抜けていると保証できます」

「……えっと、つまり、わたしがリアム様に抱きしめられながら、行く、と……」

「マジェンから聞いた話だと、時間を空ければ空けるほど駆除が大変になりそうだ。だから急ぎたいけど……どうする? 風を受けちゃうかもしれないけど、マジェンに運んでもらう?」


 どう考えても、リアム様に抱きついて運ばれるのはあり得ないと思います。

 ですが、リアム様の言うとおり、戻る時間が長くなるほど、六面体の何かは増殖してしまうかもしれません。


 いえ、ですが……。


「あ、もしかしてスータレイン嬢は知らないかな? おれはスキルの性質上、婚約者はいないんだ。だから居もしない婚約者に配慮する必要はないよ?」

「なる、ほど……」

「まあ、マジェンにも姿が見えれば、スータレイン嬢にはここで待っててもらえるけど。そうもいかないみたいだから。どうする?」

「う。……えっと、その、確かにチャスタ様に乗って移動した方が速いと思います。ですが、その、チャスタ様としてはどうでしょうか。知らない人間を乗せたくはないのでは」

「チャスタ様だって。スータレイン嬢はお前も敬ってくれるみたいだぞ。嬉しいな?」


 リアム様の声がけに、チャスタ様はブヒヒンと上機嫌なように鳴きました。


「チャスタは問題ないみたいだ」

「う。で、では、よろしくお願いします」


 十歳の頃から奉公していたわたしが、王兄のリアム様の腕に抱きしめられる状況なんて、誰が想像したでしょう。

 鑑定のときはそういう手法のため仕方なしですが、今回は自ら選択してしまいました。

 というか、断るために挙げた提案をしてしまったがために、逆に断れなくなっています。

 婚約者はいないということですし、ここは覚悟を決めましょう。

 チャスタ様に近づきます。


「チャスタ様。不束者ですが、よろしくお願いします」

「っふ。スータレイン嬢、その言葉だとまるでチャスタと結婚するみたいだ」

「あ、いえっ。乗馬初心者ということで!」

「わかってる。チャスタに乗せるため御身に触れることの、許可をいただいても?」

「う、は、はい。よろしくお願いします」


 王兄ということは、陛下のお兄様。王族です。王子様です。

 リアム様の笑顔と、恭しい王子様然とした仕草の組み合わせ。こんな最強の合わせ技、躱すなんてできません。

 こんな状態で、この後リアム様に抱きしめられると!?

 わたし、死なないですよね?

 ですが、今さら拒否なんてできないですし。


 緊張するわたしは、さぞ持ち上げづらかったと思います。

 立ったままの手足は強ばり、レディリカに手を擦ってもらわなければ、移動に支障をきたしていたでしょう。


「それじゃあ、行くよ?」

「っ、はいっ!」

「移動中は舌を噛んじゃうといけないから、喋らないでね」

「っ、はいっ!」


 左の耳元で聞こえる、リアム様の声。少し低めの声は、違う意味で緊張してしまいます。

 この後、わたしはリアム様に抱きしめられながら移動します。

 え。わたし、死にます?


「なるべくおれの方に寄って。そうすれば風を受けづらいと思うから」

「っ、はい!」


 鍛えられているとわかる広い胸板。リアム様は細身だと思っていましたが、どこにこんな素晴らしい筋肉を隠していたのでしょうか。

 手綱を握る腕も、全く弛んでいません。

 リアム様は寒さに強いのかもしれないですね。薄手の服は、無駄なく鍛えられた腕の筋肉がよくわかります。


「っ」


 チャスタ様と移動が始まりました。

 想像よりも揺れていませんが、リアム様が抱えてくれていますが、油断すると落ちてしまいそうです。

 わたしの失態が移動の妨げにならないよう、背筋を伸ばして腹部を引っこめます。

 わたしの腹部にあるリアム様の腕に掴まるようにし、心は無にして、ただひたすらに移動が終わることを待ちました。






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