あたしの話を聞いてくれ!!
「数学が1番美しい。」
「いやいや国語に決まってる!!」
あたしは数楽、数学が好きなだけの平凡な高校生だ。こいつは水月、あたしの小学校からの幼馴染で小説が好きな文系女子だ。あたしとは正反対で今数学か国語かで争い中。数学の方が美しいって証明して見せる。
「漢字を見てよ!成り立ちとか見てるだけで楽しくない?」
「数学だって美しい公式たちを見てるだけで楽しいでしょう。」
ぐぬぬとあたしたちは一歩も引かず、言い合いをしているだけだった。
「だって数学って頭痛いし。」
「漢字だって意味不明。」
あたしたちはお互いの悪いとこしか言わなかった。するともう一人の幼馴染、史乃が話しかけて来た。
「あんたらいつまで喧嘩してんねん!そうや、お互いの好きな教科教え合ったらどうや?なんか気づくかもしれへんやろ?」
ニコッと笑って提案する史乃を二人で見つめ、あたしたちは少し納得したように小さく頷いた。
休み時間、あたしと水月はあたしの机で勉強を教え合うことにした。数学の教科書を持って来た水月はどっと疲れたようにドサっと置いた。
「あーあ…やだぁ…」
あたしも漢字は好きじゃない。あたしたちはやる気なさそうに集合してから少しの沈黙が流れた。
「…やるかぁ。」
はぁ〜とため息を吐き水月は手を動かした。
あたしは数学の始まり、世界は数学で溢れていること、美しい公式たちを熱心に説明した。水月はあたしの熱心さに気づいたのか、真剣に話を聞いてくれた。
「...次は水月が教えてよ。」
あたしは少し顔を逸しながら訊いてみた。水月は一瞬驚いた顔をしながらもニコッと返事をし、教えてくれた。
「国語はね、文章の思いが全て詰まってるの。読むだけでその気持ちがわかっちゃたりして。」
くすっと笑ってあたしを見つめるその目は期待に溢れていた。あたしはうんうんと頷きながら水月がしてくれたように真剣に話を聞いた。
次の日、あたしは国語について調べてみようと図書室に行った。小説コーナーにて面白そうな小説を見つけ、手を伸ばしたときに隣に見覚えのある赤い髪が見えた。水月だ。水月は小さい体で頑張って飛び跳ねながら上の方の小説を取ろうとしていた。あたしはその小説に手を伸ばし、水月に手渡した。
「はい。」
「あ...ありがと...」
恥ずかしそうにあたしから受け取った小説で顔を隠す水月を見てあたしは久しぶりに笑みがこぼれた。
「あ、数楽が笑った。」
そう言って真顔であたしを見つめる水月の目に動揺してあたしは顔を赤らめながら目を逸らしてメガネを直した。なぜだろう、もっと国語に興味が湧いた気がする。あたしは何冊か小説を借りて家で読むことにした。
教室に戻り、ふと水月の机に目をやるとそこには「数学の基礎」という簡単めな本が置かれていた。あたしは水月も数学に興味を持ってくれたととても嬉しかった。
昼休み、水月が先程の本を持ってあたしが座っている椅子に無理やり座るように入ってきた。
「数楽...あの、数学...教えてほしい...」
もじもじと足を絡め、顔を赤らめながら提案してくれた。
「...もちろん!」
あたしは立ち上がってあたしがあたしじゃないみたいに大きな声が出た。周りの子がなんだなんだとこちらを見てもあたしは気にしなかった。それほど、あたしは嬉しかった。