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7 knights to die【書籍化予定】  作者: 道造
第一章 welcome to the black parade
8/21

第8話 swordsman stefan/剣士シュテファン


 シュテファンにとって、人生は「ゲーム」だ。

 お遊戯にすぎぬ。

 それくらいにシュテファンにとっては容易にクリアできるもので、そして愉しめるものだ。

 ただのお遊戯に過ぎぬ。

 幼少の頃から剣が得意であった。

 天性の才能である。

 父から教えられた剣の技術を、水や空気のように吸収することが出来た。

 こればかりは誰にも負けぬ。

 だが、それは生まれ落ちた男爵家にとって特別な価値として認められなかった。

 剣術が得意なのは良い。

 それ自体は素晴らしいことだ。

 認めようと父は言う。

 だが、戦場で活躍できねば何の勲章にもならぬと。

 戦場での技術に昇華せねば話にならぬと。

 矢が飛び交い、無数の鉄風が吹き荒れる戦場で生き延びなければ騎士の勲章にはならぬのだと。

 愚かな生家はそう考えていた。


「成人の14になれば戦場に出ろ、シュテファン。誉れ高き初陣である。民を守り、賊を狩り、戦友を得よ。そこに騎士の栄光がある。そしていつかは誰にでも胸を張って誇れる立派な主君を見つけ、それに仕えるのだ」


 そんな父の言葉に。

 私はこうハッキリと答えたものだ。


「嫌でありますよ、あんな下品で粗野な場所に。馬鹿馬鹿しい。人生の選択肢のない愚かな貴族が選ぶ道です。私にはもっとふさわしい、別な生き方があります」

 

 と。

 別に、戦場に出なくても立身出世は出来る。

 妙なリスクは背負いたくない。

 剣を頼りにすればよい。

 もちろん、それも傭兵や剣闘士なんて野蛮な職業ではない。

 金払いの良い人間、それも自分を出世させてくれる扱いやすい人間に仕えればよいだけだ。

 私の剣術の腕を有効に使えば、それが可能であった。

 顔だって美形に生まれ落ちたのだから、貴族の女を口説くことも容易であった。

 何処か良家の女を見つけて、それを口説けばよい。

 事実、顔にしか興味のない女に恋文を貰ったことも人生で多数ある。

 残念ながら、どれも金は持っていなかったので興味には値しないが。


「貴様は騎士の誇りを、生き様をなんだと思うているのか!」


 父母は私を責めた。

 嫡男も次男も、私に剣術では勝てぬくせに、騎士として不適格であると看做した。


「出来損ないの三男が! 騎士の誇りを理解できぬならば、もはや兄弟とは思わぬ! いつかろくでもない主君に出会い、守ってくれる戦友に守られず、くたばってしまうがよいわ!!」


 と。

 どうしようもない馬鹿どもが。

 貴様ら劣等な兄弟よりも、生きやすい手段はあるのだ。

 私は剣術だけでなく、頭も良い。

 幸いなことに、当時は王立学園アカデミーという物が創立された。

 これに入れば戦場に出なくとも一人前の貴族と看做すという、王妃のお達しであった。

 入学金はいらぬ。

 王妃の歳費にて設立された故、貴族の子女かつ何か特技があれば、奨学金を得て入学することが出来た。

 やはり、人生はゲームだ。

 私に都合の良い生き方が用意されている。

 特技ならばある。

 剣術であった。

 私は入学試験で剣術が得意であることを主張し、アカデミーにおける教導師範を入学試験にて見事打ち破った。

 そうしてアカデミーへの特別入学が認められたのだ。

 私はこうして、14歳にして生家を出た。

 父母や兄弟からは親族としての縁切り――姻族関係の終了届を、王家に提出されたがね。

 そして、それから仕えるべき主君を探した。

 もちろん、父母のいう「誰にでも胸を張って誇れるような主君を」ではない。

 自分にとって都合の良い主君を。

 金払いのよい主君を。

 扱いやすくて、何なら操る事さえできそうな愚図を。

 それがアーデルベルトであった。

 自分にとって酷く都合のよい、とんでもない阿呆の第二王子である。

 シュテファンがアカデミーの剣術大会で優勝した際に声をかけ、貴方に忠誠を誓いたいと言えば喜んで応じた。

 おそらく、『忠誠を誓われた』ことなど数少ないのであろうな。

 本当に喜び一杯に手を叩いて、「猿」のように歓迎してくれたよ。

 主君と騎士における騎士受任式の儀礼作法もろくに知らぬから、騎士の肩を剣で叩くことさえできぬから、あの「猿」は手を叩くことでしか喜びを表現できないのだ。

 それも当然であろう、あんなアホに仕えたい奴などそうはいまい。

 本当に心の底から忠誠を誓っている者など、この世に一人もいないのではなかろうか。

 だが、金をくれた。

 金をくれるのだ。

 それが私にとっては何より重要な事である。

 第二王子の歳費という物があり、第二王子の側近にはそこから役職給が支払われるのだ。

 それがまだアカデミー生徒の立場であっても。

 これはたまらなかった。

 アーデルベルトなど算術もロクに出来ぬ阿呆であるから、側近に与えるべき適正額もわからぬ。

 経費だと申請すれば、それが市井で女を買う金でさえも、ジャブジャブと金を貰えた。

 第一の側近である、アカデミー最優等生の「優秀なる」アルバンも、どう考えているのかはわからぬが、それを止めようとせぬ。

 諦めているのか。

 私同様に最初から見放しているのか。

 いや、やはり私同様にアルバンも、第二王子の歳費を自分の都合のように使っているのだろう。

 アーデルベルトが阿呆なのをいいことに、だ。

 自分と同じに違いない。

 公爵家の次男も、なかなかに良い生き方をしているものだ。

 特に、自分の主君――いや、あんな阿呆を主君と呼ぶのはさすがに私も虫唾が走るが。

 それでも担いでいるのだから、一応は主君と呼んでやろうか?

 いや、やはり雇い主と呼んでおこう。

 ただの雇い主にすぎぬ、貴族どころか生物として尊敬できぬのだから。

 雇い主アーデルベルトはとびっきりの阿呆である。

 少し持ち上げてやるだけで、容易く騙される。

 おだてる言葉を少し投げかけるだけで、第二王子の歳費の紐は緩んだ。

 その金で女を買い、武具を揃え、いつか必要になるであろう貯蓄を肥やす。

 良い生活であった。

 これこそ「ゲーム」だ。

 そんな時に、ある日、雇い主にとっての好機が訪れた。

 本来、この国を継ぐはずの王太子アルミンが戦傷を負って両足を失い、余命幾ばくもないと言う噂が流れたのだ。

 やはり戦場は下品で粗野な場所だ。

 「ゲーム」にふさわしくないリスクがある。

 アーデルベルトは愉快そうに、これで私が王太子だ! などと側近全てに漏らしていた。

 国家機密の扱い方も知らぬ阿呆である。

 ここで人生の岐路が発生する。

 本来、私はアカデミーでアーデルベルトの側近として金を稼ぎ、稼げるだけ稼ぎきった後。

 アーデルベルトが廃嫡されるほどの『危険な状態』になれば逃げようと考えていたのだが。

 最初は金が欲しさゆえにアーデルベルトに股を開いていたローゼマリー嬢も、その王太子交代の噂で、アーデルベルトに嫁ぐことに本気になったようなのだ。

 あの淫売の、すぐ誰にでも股を開く――当然シュテファンにも股を開いたことがあるローゼマリー嬢に囁かれた。

 私が王妃になったら、特別に貴方を引き上げてあげてもいいのよ。

 だから、アーデルベルト様の婚約者であるイザベラ嬢が、私を暗殺しようとした証言を捏造してと。

 馬鹿が。

 あんなのが王になれば、そしてローゼマリー嬢が王妃になれば国が無茶苦茶になるわ。

 それぐらいシュテファンにも理解できる。

 だが、悪い話でもない。

 別に、国が無茶苦茶になっても良いのだ。

 だから、証言を捏造し、戦場に出ることでしか貴族を名乗れぬ愚か者たちが集まる戦勝祝賀会のパーティーで、イザベラ嬢を誹謗中傷した。

 捏造した証拠と証言にて。


「これは大層愉快だ」


 そう思えた。

 シュテファンはザクセン王国での立身出世に興味はない。

 欲しいのは贅沢できるだけの金であった。

 いつかザクセン王国は、あの阿呆によって混乱するであろう。

 国の混乱に乗じて、一時的にアーデルベルトが王座に就いたときに、金を稼げるだけ稼いで――国を出ればよい。

 どこか外国に亡命するのがよいな。

 金だ。

 必要なのは金だった。

 沢山の金さえあれば、城や領地でさえ買い取ることができるのだ。

 そこで領主として一生を終えるのが良い。

 アーデルベルトとローゼマリーはいつか騎士たちの怒りの刃で切り刻まれ、腐れ首として王城の門に飾られるであろうが。

 それはむしろ小気味よい。

 愉快そのものであった。

 人生はやはり「ゲーム」だ。

 こんなにも簡単なものはない。

 いっそ笑えてくるようであった。

 決闘裁判もそれと変わらぬ。

 明日も容易にクリアできるだろう。

 黒騎士ヨルダンとやらを。猫が鼠を狩るように一方的に「いたぶる」だけのゲーム。

 鎧を整備する金もないから、黒い錆止めを鎧に塗りたくった哀れな主君さえもたぬ騎士を、一方的に殺すだけのゲーム。

 シュテファンはそう考えている。

 とある男爵家の三男坊として生まれ落ちた。

 その時から、シュテファンにとって人生とはゲームである。

 楽しむべきものなのだ。


「ああ、愉快だ。決闘の明日はさぞかし楽しいことになるだろうな」


 シュテファンには希望の未来が見えていた。

 アーデルベルトが王になり、そして腐れ首になるまでに稼げるであろう金。

 それが幾らになるかの皮算用をしながら。




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