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傷物の私は高貴な公爵子息の婚約者になりました  作者: 四つ葉菫
エピローグ(ヒーローサイド)
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❢注意❢

最後の方、R15シーンっぽくなっています。

苦手な方はご注意ください。






 赤い絨毯が敷かれた邸の廊下を目的の部屋へと、真っ直ぐ突き進む。心なし足音が荒くなってしまうのは、今の心境のせいだろう。

 どうしても部屋の主に一言申してやらねば気が収まらない。


 結婚して半年。式は無事執り行われた。

 結婚式二日前に花嫁に逃げられるというハプニングに見舞われたものの、何とか前日に見つけ出し、そのままとんぼ返りで戻れるところまで戻り、途中の宿で一晩泊まり、また早朝に出発するという強行軍ではあったが、昼間からの式にはなんとか間に合うことができた。一時間ほど遅れてしまったのは、ご愛嬌ということで、参列者には許して頂きたい。


 ウェディングドレス姿の彼女は本当に綺麗だった。

 私の言葉では女性をうまく褒め称えられないのだが、自然と「美しい」という言葉が出たくらい、それくらい妻は美しかった。

 結婚式を終え、そのままこの邸に移り住んだわけなのだが、今では大分ここにも慣れてきたように思う。

 最初はこの邸の広さにも、使用人の多さにも目を丸くして、落ち着きなくそわそわしていたけれど、今では迷ったりしないし、周りを世話する侍女やメイドとの何気ない会話の折りにははにかみながらも笑顔を見せてくれるようにまでなった。最近では心の余裕ができたのか、ひとりひとりの使用人の顔と名前を覚えようと頑張っているらしい。

 そんな妻だから使用人に好かれるのは当然で、今ではこの邸の全員が妻を好ましく思っていることだろう。

 冷静な仮面を容易く外さないあの父上でさえ、妻を見るときは瞳を和ませているのだから。

 それもそうだろう。少し俯いて照れながら「お義父様、おはようございます」と毎回可愛らしく言われたら相好も崩れるというものだ。

 最初怖がるかと思っていた初対面(はつたいめん)も、緊張こそすれ、きちんと挨拶した妻。考えてみれば、素直で優しい妻なのだから、先入観ありきで父上を見るはずはないのだ。私は今までいらぬ心配をしていたというわけだ。

 もっとも、妻は「お義父様」と言うたび毎回照れて俯いているから、父上が瞳を和ませていることを知らない。

 

 目的の部屋までやってきた。

 このまま扉を開け放って進入したいところを、律儀にノックしてしまうのは、長年身についた習性故か、それとも己の性分故か。どちらにせよ、振り切れない我が身が少し恨めしい。


「どうぞ」


 目的の人物、母上の声が聞こえたので、扉を開けて中に入った。

 夫婦の寝室につながる居室では、もう寝る準備に入ったのか、既に寝衣に着替えた母上と父上がソファで寛いでいた。


「なあに。こんな遅い時間に」


 足を組みながらお店のカタログらしきものを見ていた母上が顔だけあげてこちらを見てくる。


「母上、明日エレンと観劇に行くと伺いましたが」


「ええ。それがなあに」


「明日は私の休みです。何故よりによって、その日に誘うんですか。結婚して間もない新婚夫婦の邪魔をしないで頂きたいっ」


 私は怒りをぶつけた。

 仕事を終え、警備団の本所から邸に帰り、夕食と風呂を済ませ、その後ようやく訪れた妻と二人きりの時間。

 夫婦水入らずで過ごすこの時間が、今では私の一番大切な時間と言っても過言ではない。

 この日も、明日の休みにエレンと過ごせると思いこんでいた私は、良い気分で夫婦水入らずの時間を楽しんでいた。  

 ところが――

 

『ごめんなさい……明日はお義母様と観劇に行く約束をしていて……』


 遠乗りに誘ったら申し訳なさそうにそう言われてしまった。

 当然妻は頷くものだと思っていたから、その後の会話も私の頭の中ではちゃんと展開されていた。

 部下に教えてもらった今が盛りの花畑に連れて行くと言えば、彼女がそれこそ花のように顔をほころばせる。で、その後、嬉しそうな妻と一緒に明日の予定を組み立てる予定だったのに。

 気分が一気に落ち込んだ。

 

――母上め。


 母上がエレンを気に入っているのは、傍から見ても明らかだ。

 私が仕事に行っている間、お茶会やサロンに必ず連れて行っているらしい。

 社交界で確固たる地位を持つ母上が一緒なら、特に心配はいらないとその点は口出ししていない。

 妻も妻でいずれ公爵夫人になるならば、今のうちから交流を深め経験を積んでいくのも悪くはないだろう。

 何よりあの、内気でおとなしい妻が自分から「頑張ってみたい」と言ったのだ。ここで夫として、喜んで見送らずして何とする。


 次期公爵夫人としての教育も頑張っていると聞く。

 サンストレーム家の一員としての心構えやそれに伴う、知っておくべき様々な事柄。それから公爵夫人としての仕事。高位貴族の婦人が身につけるに相応しい芸事。ほかにも一般教養から礼儀作法。

 満足な教育を受けてこられなかった妻がこれらを今から覚えたり身につけるのは、とても大変なことだろうが、だが教師陣によると、本人はとても前向きに学んでいるらしい。


『今からでも覚えられるのがとても嬉しいんです。これまで身につけたくても、できなかったので……』


 ある教師にそう漏らした言葉。

 それを聞いた時、少しやるせなくなると共に彼女のことがより一層愛しくなった。  

 彼女が望むなら、いくらでもその機会を与えてあげたい。惜しみ無く優秀な教師を用意し、どんな些細な分野でも満足な教材をとり揃えてあげたい。

 そうして知識が増えていけば、いずれ彼女の自信にも繋がるかもしれない。 

 相互作用が生まれることを期待しているわけではないが、もしそうなったら喜ばしい。


 私の妻は本人が思っているより、素晴らしい女性なのだから。

 だが、そうならなくとも、妻ならきっと大丈夫だろう。

 父上が今の座から退くまで、あと十年以上の月日がある。ということは必然、母上もあと十年は公爵夫人のままだ。

 その日が訪れた時には、既に妻は公爵夫人として必要な知識も技能も充分身につけていることだろう。

 教師陣が言うには、妻は理解力が早いとのこと。きっとそれは小さい頃から読書に慣れ親しんできた影響ではないかと思っている。

 ちなみにその時、妻が教師陣から褒められて悪い気がしないという、初めての感情を味わった。

 それから、最近その教師陣に母上も交じり始めたという報告も耳にした。

 

――どれだけ構いたがる気か。


 ほかの令嬢では、こうはいかなかっただろう。

 妻に出会っていなければ、私は高位令嬢の中から『無難』な人間を選んでいたはずだ。それこそパトリス嬢のような。

 パトリス嬢なら、適度に次期公爵夫人を勤め上げ、母上とも『無難』に付き合った筈だ。母上もまた必要以上に関わらず、『無難』に接しただろう。

 そこに決して、家族の親愛は見られない。

 

 エレンを妻に迎えられたことは母上にとっても幸運だったろう。今や本当の娘のように可愛がっているのだから。

 ちなみに、パトリス嬢だが、彼女のことはしっかりと彼女の母親であるモーズレイ公爵夫人に報告させてもらった。

 妻はパトリス嬢のただの勘違いだと思っているようだが、私はそこまでお人好しにはなれない。妻を馬鹿にしているわけではない。ひとを疑うことを知らないところも妻の美徳だと思っている。

 パトリス嬢には、妻を騙した、ひいては私から妻を奪い失わさせようとした咎がある。

 彼女の母親がそれをきっちりわからせてくれれば良いが、でなければ、私が動くことになる。

 今後一切彼女と付き合うことはないだろう。

 

 話をもとに戻そう。

 内心呆れながら、教師陣に母上が加わったことを「迷惑ではないか」と妻に尋ねたら――


『お義母様が教えてくれると、とっても勉強になるんです。それからお話も面白いんです』

 

 楽しそうに言われたら、母上にやめろとも言えない。

 それに現公爵夫人が直々に教えるのだ。為になる話も多いだろう。

 まあ、母上の気持ちもわからないではない。

 エレンは誰から見ても、可愛らしく愛らしい。

 だが、それが新婚夫婦の邪魔をしていい理由にはならない。


「観劇なら父上と一緒に行けばよろしいではありませんか」


「あら、明日観に行くのは青春メロドロマなのよ。あなたも父親の性格はわかってるでしょ。ほかのものならともかく、このひとが青春ものを見て『ああ、すばらしかった』と言うと思う? 眉ひとつ動かさないひとと一緒に見に行っても、つまらないじゃない」


 父上のほうに圧をかけて眼差しを向けるも、ごほんと咳払いされて、新聞に目を向けたきり聞こえないふりをされてしまった。


「その点、エレンちゃんなら一緒に感動してくれるもの」


「別の日では駄目なのですか」


 一応、食い下がってみる。

 こちらだって、明日の休日を楽しみにしていたのだ。


「明日が最後の公演なの。無理ね。諦めなさい。それにエレンちゃんもこの公演の話をしたら行きたがってたわよ。今更やめたら、残念がるんじゃないかしら」  


 それを言われてしまうと、身を引くしかなくなる。


「早く約束しておかなかったあなたも悪いのよ。こういうのは、早いもの勝ちなのよ」


「そうですね。昼間散々、私の妻を独占している母上ですから、休日くらいは私に譲ってくれるものだと思いこんでいたのが間違いでした」


 これからは休みが決まったら、すぐに妻と約束をとりつけようとこの時決めた。


「まあ。一番独占してる人間がよく言うわね」


 母上と私の視線が合い、火花を散らした気がした。


「おやすみのところ、失礼しました。ゆっくりおやすみください」

 

 内心歯噛みしながら、けれど悔しいので平静を装って一礼して部屋を出ていく。

 来た時と同じように、廊下をまた戻っていく。

 今度もまた早足で。

 でも、理由は先程とは違って、この先に愛するひとが待っているから。

 急に部屋をでていったせいで、独りきりにさせてしまった。

 若干気が急きながら、扉を開けると、月明かりの部屋の中、寝台にぽつんと腰かけ座っている妻がいた。

 その姿が何故か儚くて、胸が切なく締め付けられた。

 私はこの先一生妻に焦がれるのだろうなと思った。

 私を見ると、柔らかな微笑みを浮かべる。


「お義母様とは、話がつきました?」


「それが明日の公演が最後なんだそうだ。だから、遠乗りは次の休みにしよう。近いうちに休みをとるから、その時に」  


「はい」


 妻に近づいて、頬にキスを落とす。

 すると、恥ずかしくなったのか、顔を赤くさせて俯いた。

 未だにこういったことに、慣れない様子の妻。

 続けて、額に、瞼に、鼻に、順にキスを落としていく。


「フェリシアン様……」


 擽ったいのか、首を竦ませる彼女。


「呼び捨てでいいと言ってるのに」


「でも――」

 

 反論の言葉を閉じ込めるように、唇にもキスを落とす。


「――ん」

 

 彼女の息が甘くなる。

 そのまま、口づけを深くしていき、彼女の寝衣に手をかけた。

 はらりと肩から落ちる衣。

 首筋にもキスを落とすと、恥ずかしさから寝台のほうを向いて背中を向けてしまった。

 そこにあったのは――


「――あっ」


 私の指先が触れたことによって、彼女が背中を隠そうとする。

 

「隠さないで」


 そっとその傷痕に触れた。

 背中から腰にかけての傷痕。 

 彼女は「醜い」と言って隠そうとするけれど――


「綺麗だ」


 指先のあとを追うように、ゆっくりとキスを落としていく。彼女がそのたびに身を震わせた。

 端のほうまでたどりおわり――


「愛してる」


 そっと抱きしめた。 

 腕に涙の雫が落ちてくる。


 この背中の傷に触れるたび、私は彼女を生涯愛し、大切にすると誓うだろう。

 それはもちろん『責任』からではなく――彼女が私を助けてくれた理由と同じ、『愛』故に――。





これにて、本編終了です。

あとひとつだけ番外編を書いて、終わりたいと思います。

番外編はメイド目線でお送りします。「家政婦は見た」ならぬ「メイドは見た」ですね。

エレンとフェリシアンの新婚の様子がうかがえます。あと、フェリシアン様の溺愛も見れると思います。


例によってあとがきは長いです(^_^;)覚悟してください(笑)

この話の設定、裏話、後日談、エレンの生い立ちなど語っていきたいと思ってます。あと、新作の話もちょっとだけ。

ありがとうございました。

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