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エレン嬢のデビュタントが近づいてきている。
デビュタント用のドレスはもう手配してある。もうそろそろ仕上がる頃だろう。
エレン嬢のドレスを購入した折、仕立て屋にはそれも頼んであった。
ドレスを四着しか持っていないことを明かしたのなら、当然デビュタント用のドレスも持っていないだろう。
デビュタント用のドレスに特に決まりはないから、エレン嬢は手持ちのドレスを着るつもりだったかもしれないが、事実を知った今、私から当然ドレスを贈るべきだろう。
デビュタント用の礼服は各家が用意するのが一般的な為失念していたとはいえ、彼女の家の実情を考えればわかることだったのに、思い至らなかった自分が情けない。
これでは、レナルドに何を言われても仕方ない。
「だから言っただろ。俺から女性の扱い学ぶか?」
例によって、執務室に遊びに来ているレナルドである。
「いらん世話だ。碌な内容じゃないだろ」
「まあ、とにかくエレン嬢のデビュタント用のドレス、用意できて良かったじゃないか。頼んだ店、あの仕立て屋だろ」
それについては同意見である。
既製品という手もあったが、デビュタントという一世一代の晴れ舞台。できれば、一から仕立てたものをあげたい。
仕立てをするのに、一年待ちというあの店。頼んだ時は断られる覚悟もしていたのたが、予想に反して快諾してくれた。
サンストレーム家の名前で今までものを言ったことはないのだが、その威光が影響したかもしれないと思うと、今回ばかりは感謝するしかなかった。
意匠は店に任せたが、色の希望を尋ねられたとき、ある色を指定した。その色を纏った彼女を見るのが、今から楽しみである。
これで、ドレスの件は解決した。
残るは――
「レナルド、近々お前の家で夜会を開く予定はないか」
「ああ、あるよ」
レナルドに言われた日にちが、ちょうど良い日付だったため、またも私は感謝した。
「エレン嬢の誕生日のすぐあとだな。エレン嬢のデビュタントの場所をどうしようかと思っていたんだが、お前の家がいいな」
レナルドの家であるアーキン家は社交界における地位も盤石であり、開かれる夜会も毎回豪勢で、招かれる人々も名家の者が多い。貴族の子女が社交界デビューする場所としては申し分ない。
「招待状を贈ってくれ」
「別にかまわないけど。でも、俺んちより、お前の家でデビューさせたほうが良いんじゃないか。サンストレーム家の夜会のほうが規模もでかいだろ。何よりお前んちの婚約者だろう」
その言葉に閉口した私を見て、レナルドが「まさか」と声をあげた。
「まだ両親に会わせてないのか」
返事を返さない私の姿は誰が見ても肯定しているように映るだろう。
「お前、過保護過ぎないか」
レナルドが呆れたように見てくる。
「確かにお前の両親は一癖も二癖もあって、一筋縄には行かない面倒な性格かもしれんが」
「おい、ひとの親だぞ」
「それにしたって、もうそろそろ会わせないとまずいだろう」
「わかっている。わかってはいるんだが……」
最近、エレン嬢に会わせないことに対する母上の抗議がとてつもなく煩い。ずっとエレン嬢に会わせなかった鬱憤だろう。
今エレン嬢に会わせたら、間違いなく、これまでの反動でエレン嬢を構い倒すに違いない。それこそ、私とエレン嬢の時間を邪魔するくらいに。
エレン嬢を困らせたくない。
そう言ったら、レナルドにため息を吐かれてしまった。
痛そうに額を押さえる。
「ドレスの色といい、両親に会わせないことといい、無自覚って怖いな」
「どういう意味だ」
「真面目なやつほど、独占欲が――」
「独占欲?」
「いや、こういうのは、自分で気づいたほうが良いよな」
「何をぶつぶつ言ってるんだ」
「いや、なんでもない。とにかく、夜会の件はりょーかい」
レナルドは軽く手を振ると、飄々と帰っていった。
残された私は意味不明なレナルドの呟きに首を捻るほかなかった。
フェリシアン様、自分の母親がエレンを気に入るだろうと確信していますが、何故そう思うのか疑問に思っていません。
その理由も、自分がエレンを好ましく思っているから当然母上も気に入るだろうという図式で成り立っているんですが、そこも無意識です。
ちなみに「デビュタント用の礼服は各家が用意するのが一般的な為」とありますが、これはこの世界では成人してから婚約するのが多いためです。
婚約者がいれば、婚約者がデビュタント用のドレスを贈るのも全然アリなのですが、上記の理由からあまりないため、フェリシアン様は失念していたという感じです。
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