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「わあ、可愛い」
眼の前のお菓子に目を輝かすその姿は年相応に見えて、心が和む。
「最近、街で人気のお菓子らしいんだ」
あれから毎日見舞いの品にお菓子を持ってきている。
部下の忠告を守ってエレン嬢が食べる分しか買ってきていないのだが、彼女は最初のうちから「一緒に食べましょう」と言ってくれた。
「ひとりで食べてもらってかまわない」と断ったら「一緒に食べたほうが美味しいです」と言ってくれた彼女。
その心根が嬉しくて、ついこうして甘えてしまっている。
花を型どったメレンゲのクッキーが口の中に甘く溶けていく。
「とっても美味しいです」
「気にいってくれたなら良かった」
笑う彼女に自然と笑みが浮かぶ。
リハビリを始めて二週間余り経った今、覚束なかった彼女の足取りも今では普通の人と変わらぬように歩けるようになった。
邸の庭と比べるとあまりに小さな庭。これまで訪れた貴族の庭とはあまりにかけ離れていて当初は驚いた。
その庭を何周か回って、真ん中にあるテーブルでお茶をするのが、この二週間のお決まりだ。
薔薇が一本植えられているだけの小さな庭。
彼女と私だけしかいない空間。
初めは驚いた彼女の部屋も、この庭も今では不思議と安らげる場所となっている。
ふと彼女が私をじっと見ていることに気づいて、首を傾げた。
「どうした?」
「あっ、いえ、髪がお綺麗だったから、つい――」
彼女が私を見つめる眼差し。
女性からそのように見つめられることは普段から多々あるので、珍しいことではないのだが、彼女の瞳は最初から変わらない。
純粋な好意や憧れで見ていた女性たちの誰もが接していくうちに、欲や打算をその瞳に浮かべていく。
だが、エレン嬢の瞳はそのようなものを浮かべる気配が一向になく、いつまでも変わない瞳に私のほうが最近はこそばゆい気持ちになっている。
「ああ、母譲りなんだ」
自然と彼女の言葉に優しく答えている。
「――お母様の……」
「綺麗な銀髪を授けてやったんだから、絶対切るなとこれだけは許してもらえない」
「……お母様思いなんですね」
「母思いというより、折れるしかなかったんだ。融通が利かないんだよ、あのひとは」
「お父様はどんな方なんですか」
好奇心に満ちた瞳を浮かべてくる彼女が可愛らしくて、私は微笑む。
「父は生まれてこのかた、サンストレームという大きな枠組みの中で生きてこられた方だ。人や物も一流のものしか知らない。貴族の鑑のような方だ」
「へえ……」
何を思ったかそれきり考えこむように黙ってしまう彼女。
もしや将来自分の義父になる父上を不安に思ったかと思い、慌てて言葉を足す。
「だが、怖い方ではない。安心するといい」
そう言えば、顔をあげて明るく笑う彼女。
「はい」
その素直さが微笑ましくて、私も微笑みを返した。




