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 翌日。

 私はレヴィンズ家に向かった。

 医者は昨日を乗り越えれば、少女は大丈夫だと言っていた。

 公爵家の医者からは何の連絡もないから、無事乗り越えたのだろう。

 私はほっと安心するとともに、少女が大丈夫だとわかった時点で、少女のこれからが気にかかった。


 昨日あのあと警備団の本所へと戻り、事の原因を調べれば新人団員による不手際であることが判明した。

 その団員は捕縛の実習を受けていたにも関わらず、技術が半端であった。

 その団員と同じ時期に入った団員はきちんとできていたにも関わらずだ。

 私は当然怒りを抑えられなかった。

 その団員を厳しく叱責し、指導した教官共々減俸を命じ、団員にはしばらく謹慎を言い渡した。

 一歩間違えれば、もっと被害は大きく出ていたかもしれない。

 このことをしっかりと自覚させるためにも、本人にはしっかり反省させなければならない。

 だが、少女にとっては、これは何の償いにもならないだろう。一時の団員への罰と、彼女のこの先の一生では比較にならない。

 少女に私ができることはあるだろうか。

 

 悩んでいるうちにレヴィンズ家に到着する。

 小さな門扉をくぐる。

 ふたり並んで通れるくらいがせいぜいな幅の。

 昨日は周りに気をとめる余裕はなかったが、改めてその外観を眺めると、とても貴族の家とは思えなかった。

 馬車置きも見当たらない。


――馬車を持っていないのか?


 そんなことあるはずはないと否定するも、門扉から家の扉まで五メートルもないことに気付くと、その自分の考えが正しいように思えた。

 

――これ程小さな邸、いや、家は初めてだ。


 その事実に驚愕しながらも、扉を叩いた。

 出てきたのは昨日の少女の侍女。

 なぜ侍女が?

 執事はいないのだろうか。

 そういえば、昨日も執事らしき人物はいなかった。

 用向きを伝えると侍女は私を応接間へと通してくれた。

 応接間は年季が入ったと言えば聞こえはいいが、古びた印象だった。

 テーブルは剥げ、ソファも擦り切れ、窓際のカーテンも長い間日に当たり、もとの色を失っていた。

 ここまでくる廊下もあまりの狭さに内心目を丸くした。

 しばらくして慌てたようにレヴィンズ男爵夫妻が入ってきた。


「いや、すみません。おまたせして」 


「いや、こちらこそ急に訪ねてきてしまってすまない」


 私が客人であるにも関わらず、男爵夫妻は私が椅子を勧めるまで座らなかった。

 ようやく腰を落ち着けたので、私は口を開いた。


「エレン嬢の容態はどうだろうか」


「はい。お陰様で安定しています。まだ目を覚ましませんがお医者様はただ眠っているだけだから、安心してよいと。目覚めたら、胃に優しい食べ物を与えるように言っておりました」

 

「そうか」


 私はほっと息を吐いた。

 私はそれから事件が起こった原因を夫妻に正直に話した。被害者の両親にしっかりと事実を伝えるべきだと思ったからだ。

 途中、あの侍女がお茶を運んできた。

 

――お茶を運ぶことまでするのか。

 

 我がサンストレーム家では使用人の仕事はきちんと別れている。 

 ひとりの使用人が客人を迎え、茶を入れたりなどしない。

 もしかして、この男爵邸には使用人が少ないのかもしれないなと、このとき思った。

 ではこの侍女、いやメイドか、このメイドがエレン嬢の侍女ではないことになる。

 このときの私はまだ、エレン嬢に専属の侍女がいないことなど、わかるはずもなかった。貴族の令嬢はみんな侍女を持っているという常識に囚われていたから。


 私は団員の処罰も伝え、改めて頭を下げた。

 男爵夫妻はまた慌てたようだった。


「そんなっ。頭をおあげください!」 


 それでも私は団を任される身として、きっちりと頭を下げるべきだったため、夫妻の言葉は聞かなかった。

 頭を上げれば、冷や汗を書いている夫妻の姿が。


―――これ以上は頭を下げないほうが良さそうだ。

 

 そう判断して、私は横に置いていた花束を差し出した。


「これをエレン嬢に」


「ありがとうございます。娘もきっと喜びます」

 

 これ以上の長居は無用だったため、私は男爵邸から辞した。



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