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 王都警備騎士団の隊服に着替え終わり、邸を出るところだった。


「フェリシアン」


 母上に呼び止められた。


「何でしょう」


「何でしょうじゃないわよ。あなた、また一日付き合っただけで、令嬢を振ったんですって?」


 社交界の中心に位置する母上の耳の速さは相変わらずだ。

 私はため息を吐いた。


「付き合ってはいません。ただ誘われたから、一日ご一緒しただけです」

 

 この由緒あるサンストレーム家を継ぐ身ならば、いずれは婚約者を迎えねばならない。

 その点において、父上も母上も私に一任している。

 他の家紋との繋がりを必要と迫られないほど、我がサンストレーム家は強大であるという証明ではある。

 けれど、この世は必ずしも強者ばかりで成り立っているわけではない。我がサンストレーム家と繋がりを求めて、以前から多くの令嬢たちより誘いがあった。

 いづれその中から婚約者を迎えるとあらば、彼女たちの人となりを見、相性を知る必要があった。

 そのため誘われれば、なるべく断らないようにしていた。

 けれど、今まで一度としてぴんとくる令嬢はいなく、一度の交流で終わっていた。

 母上もそんな私の過去を熟知しているのか、ため息を吐いた。


「これほど数多の令嬢と会っておきながら、気に入る娘がひとりもいないなんて。我が息子ながら心配になるわね。でも、いい? あなたはサンストレーム家の跡継ぎなんですからね。いずれは誰かに決めねばなりませんよ」


「はい。それは勿論承知しています」

  

 貴族の子息はだいたい二十五までに結婚することがほとんどだ。といっても二十五は遅いほうであり、加え他の家門より飛び抜けて秀でた家門であるサンストレームの跡取りである私が未だに婚約者がいないのは珍しいことだった。それ故に、ここ最近母上が私の婚約をせっつくことが多くなった。

 

――あと、二、三年。

 

 婚約期間を考えれば、そのあたりが残された時間だろう。

 それまでに相応しい令嬢が見つかれば良いが、でなければこれまで会った令嬢の中から決めることになる。

 それは決して最善といえるものではないが、サンストレーム家の血を絶やすことを考えれば、自分の心の内など些末のことに思えた。

 何故ならサンストレーム家にはたくさんの領民の命と生活がかかっているのだから。

 私は短く息を吐いて、母上に礼をした。


「では、仕事に行ってまいります」


「ええ。気をつけて行ってらっしゃい」


 踵を返して、邸から出た。 

 眼の前にはいつもの通り馬丁が白い愛馬を用意してくれている。

 私は愛馬に跨って、仕事場へと向かった。  

 私はいつもと変わらない日常を迎えていた。


 その先に、運命が待っているとも知らずに。

 

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