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 翌日。

 普段と変わらない態度で私は朝食の席についた。

 これが済んだら、あとはタイミングを見計らって、家を出ていくだけ。

 黙々と朝食を口に運んでいれば、お母様が口を開いた。


「あなた。今日は私、郊外にいる友人に会いに行ってきますわ。夕方までには帰ってくる予定です。ドロシーも一緒に連れて行きますから、その間留守を頼みますね」


「ああ。分かった。気をつけて行ってきなさい」


 お父様が新聞片手に生返事を返す。

 チャンスだわ。お母様とドロシーがこの家にいなくなれば、私がいなくなっても気付かれることはない。

 お父様は一日中書斎に籠もってるから、普段顔を合わせることもない。

 私はテーブルから顔をあげた。


「なら、私はお昼用のサンドイッチを作ってもらって、今日は一日中部屋に籠もって読書してます」


 私が読書を好きなことはお父様もお母様も知っているから、特に怪しまれることはなかった。


「そうか」


 お父様は相槌を打っただけだった。


――お父様、お母様、ごめんなさい。


 心のなかでそっと詫びる。


――心に添えない娘でごめんなさい。今までありがとうございました。


 もう見られなくなるお父様とお母様の姿を焼き付けて、お別れを告げた。

 その後、ドロシーに「帰ってきても、夕食の時間になるまで声をかけないで」と伝えてから部屋に戻った。

 しばらく耳を澄ませていると、お母様とドロシーが家から出ていく音が聞こえた。

 

――よし。これで、夕食までには誰も私がいなくなったのを気づかないわ。

 今から出発すれば、夕方までには遠くに行けるはず。


 私は自分の部屋を見渡した。 

 やり残したことはないだろうか。

 ふと私がいなくなったあとのことが心配になった。

 急にいなくなれば、事故や事件に巻き込まれたと思って心配するかもしれない。

 自分の意志で出ていくことを伝えていこう。

 私は便箋を取り出して、手紙を書いた。


『お父様、お母様へ


 私は修道院に行きます。


 今までありがとうございました。

              

               エレン』


 書き終わったあと、フェリシアン様の顔が浮かんだ。

 フェリシアン様には結婚できない理由の手紙を残していくべきだろう。

 けれど『パトリス様との幸せを祈っている』と書いたら、フェリシアン様のことだ。きっと気に病まれる。

 私のせいでこの先罪悪感を抱えることになったら……。

 そんなのは駄目。

 フェリシアン様には幸せになってもらいたい。

 なんの憂いもなく、好きなひとと結ばれてほしい。

 そう思った私は結局、フェリシアン様への手紙を書くことをやめた。

 私は鞄を手に持つとそっと家から出た。




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