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 返事を返すとドロシーが顔を見せ、フェリシアン様の来訪を告げた。

 今日は我が家から直接夜会に行く手筈になっている。


「もうそんな時間なのね」


 窓の外を見やれば、いつの間にか夕闇が迫っていた。

 会場に着くころには、すっかり暗くなっていそうだった。

 私は身支度を手伝ってくれた三人のメイドに改めてお礼を言うと、部屋から出た。


 薄暗い廊下を進む中、緊張で胸が苦しくなった。

 初めてちゃんと身支度した姿をフェリシアン様にお見せする。  

 贈られたドレスに見合う自分になっただろうか。

 ドレスが素敵過ぎて、不釣り合いに映ったらどうしよう。

 三人のメイドたちが綺麗にお化粧をしてくれたことはわかってはいるが、それでもフェリシアン様の目にはどう映るか、おかしく見えたらどうしようかと、恐怖心が湧いた。


 廊下を進むと、玄関扉の前に行き着く階段が見えた。

 私は降りていった。

 扉の前にフェリシアン様が立っていた。

 玄関灯のオレンジのランプに照らされ、タキシード姿のフェリシアン様が仄かに光を放っているように見えた。

 その姿に言い表わす言葉が見つからなかった。

 銀髪がタキシードの黒と対比してより一層輝きを放ち、均整のとれた肢体もいつもよりすらりとして、匂い立つような大人の色香を感じさせていた。

 白い隊服姿も麗しかったけれど、黒の礼服姿はまた一段と様になっていた。

 自然と目が奪われていると、フェリシアン様が顔を上げた。

 いつもより魅力的な青い瞳が私に向かってまっすぐ突き刺さり、その瞬間心臓が大きく音を立てた。

 フェリシアン様が私を見つめ――


「美しい……」


 そう呟いた。

 私は目を見開いた。


――フェリシアン様が私を「美しい」と言ったの?


 聞き間違いではないかと思ったけれど、フェリシアン様の瞳は私をまっすぐ見つめたまま離れなかった。

 良かった。褒めてくださった。

 私がこのドレスを着ても、おかしくなかった。

 ほっと安心するとともに、好きな人から「美しい」と言われたことに全身が喜びで満たされていった。

 そこに『特別な感情』はなくとも、好きな人の目に綺麗に写ったことが嬉しくて私は微笑んだ。

 フェリシアン様が私をエスコートするため、手を伸ばす。

 私はその手をとった。


「とてもよく似合っている。――誕生日、おめでとう」


「ありがとうございます」


 笑みを深めれば、フェリシアン様も嬉しそうに笑った。


「さあ、行こうか」 


「はい」


 家の前に止まった馬車までくると、フェリシアン様が手を差し出してまたエスコートしてくれる。

 まだ夜会の会場にすら着いていないのに、タキシード姿のフェリシアン様にエスコートされるという眼の前の光景に胸がいっぱいになった。

 私たちを乗せ、夜会に向けて馬車が走り出した。



 

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