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 串焼きを食べ終えた私たちは、近くのベンチに座って休憩することにした。

 フェリシアン様は今日案内した場所はまだ街のごく一部だからまた案内すると約束してくれた。

 きっと次行くところも、警邏中に巡回した場所に違いない。


「フェリシアン様はどうして王都警備団に入ったのですか」


 ずっと聞いてみたいと思っていたことだった。

 騎士団には近衛騎士団と王都警備団の二つがある。

 近衛騎士団は王族と王宮をお守りする誉れある騎士団だ。

 どうしてそちらを選ばなかったのだろう。

 フェリシアン様は初めて見るようなお顔を私に向けたあと、口を開いた。


「『民に常に寄り添え』」


「え?」


「サンストレーム家の歴史を学ぶ時、後継者がまず一番初めに教わる理念だ」


 ベンチに座ったフェリシアン様はもう私を見ておらず、まっすぐ前を見つめた。


「広大な領地のおかげで、我々は裕福に暮らしていける。それはひとえにそこに暮らす人々のおかげだ。彼らが毎日休まず働いているからこそ、我々は安定した生活を送れる。ならば、その働きに見合うものを我々は返さないとならない。それを忘れるなと言われた」


 初めて聞く種類の話に、私は目が覚めるようだった。

 人の上に立つ地位のある方は考え方からもう既に私のような凡庸な人間とは違うのね。


――貴族なのに今までそんなこと考えたこともなかった。

 

「……素晴らしい教えですね。でも、それがどうして王都警備団に?」


「我がサンストレーム家はこれまで王が仁道から外れた時は、その都度諌めてきた。王が苛政を敷けば、その負担は民にいく。しかし、民の生活のうえにいるのは我々だ。この王都にいる民も、私にとっては同じく守るべき民にほかならない。サンストレーム家の一員として、何ができるか考えた時、王都警備団に入ろうと決めたんだ。領地のほうは父が管理していて、私が出る幕はまだなかったからね」

 

 最後のほうは私に向かって、微笑まれた。


「そうだったんですか……」


 フェリシアン様は本当に気高い心の持ち主だわ。

 フェリシアン様から漂う高貴な佇まいは血筋や生い立ちに由来するものばかりだと思っていたけれど、本当はその信念が彼をそう見せているのかもしれない。

 その気品が内面から滲み出たものだと気付かされた今、彼を見る目により一層尊敬の念が籠もった。


「素晴らしいお話をありがとうございました」


「疑問は解けた?」


「はい。あの、私も見習いたいです。……まだ自分に何ができるか、わからないけれど――」


「まだ婚約者なんだ。サンストレーム家の一員になったらゆっくり考えればいい」


「はい」


 これまでの私は、フェリシアン様という立派な方の隣にこんな自分がいるのを見たら、人はどう思うだろうとか、同じ年頃の令嬢を見れば自分が劣った存在のように思えたりだとか、そんなことばかりに囚われていた気がする。

 けれど今はそんな考えがひどくちっぽけなように思えた。

 フェリシアン様の高尚な理念の前では、私の卑屈な想いも霧散していくようだった。


――このひとに見合うような人間になりたい。


 こんな素晴らしい人の横に立てれるような自信をつけたい。

 

 これ程前向きで強い気持ちになれたのは、これまで生きてきた中で初めてのことだったかもしれない。


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