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目が覚めて起き上がろうとした瞬間、背中にものすごい痛みが走った。
「――っ!!」
再び瞼を閉じて突っ伏して痛みをこらえる。
「ああ、寝てなさい! 痛むだろう!」
すかさず手を握られる。耳元の近い場所で言われた声で、手の主がお父様だとわかった。
「ああ、エレン、気が付いて良かったわ」
うっすらと目を開ければ、お父様の隣にはハンカチを片手に泣き腫らしたお母様の顔が見えた。見覚えのある背景に、ここが自分の部屋だと理解する。
痛みに顔を顰めれば、倒れる前の記憶が蘇った。
――ああ、そういえば、私、斬られたんだわ。
「あと少し手当が遅かったら、危なかったとお医者様が仰っていたよ」
「ああ、エレン何故こんな無茶をしたの?」
真剣な声も涙混じりに呟かれた声も、急速に薄れていく意識を引き戻すことはできなかった。
ぼやけて霞む視界の中、お父様の声が耳に届いた。
「血をたくさん失ったから、しばらくは朦朧とするだろう。今はしっかり休みなさい」
目を閉じそのまま意識を失った私は、夢の中へと落ちていった。
初めて出逢ったあの日。
私が九歳で彼が十六歳だったあの日。
忘れられないあの日に私は戻っていく。