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馬車は座り心地だけではなく、乗り心地も抜群だった。
しばらくしてから馬車が止まったのでフェリシアン様のあとに続いて降りてみれば、そこは王都の商業地区でも特に一番きらびやかな通りだった。
ブティック、宝飾店、靴屋、時計屋などの様々な店が建ち並び、それぞれのショーウインドウが人目を引く。
飾られた華やかな商品たち。
所々にあるオープンカフェもまたお洒落で、買い物を楽しんだ人々が優雅にお茶を楽しんでいるのが見えた。
以前通りを横切った際、一、二度ちらっと見たことはあったけれど、こんなに中まで立ち入ったのは初めてのことだった。
ここの通りで売られている物はどれも自分の手には届かぬものばかりで。
行き交う人々も洒落た装いで自分とはどこか違う人種のように感じていた。
そんなところに自分がいたら場違いのような気がして、今まで足を踏み入れることはなかったけれど――。
「さあ、行こうか。入りたいお店があったら言ってくれ」
フェリシアン様がエスコートするために腕を差し出してきてくれたので、私はそれに手を回した。
「はい」
フェリシアン様と一緒に歩き出す。
ショーウインドウを通るたび、そこに飾られた商品たちに目が奪われる。
普段見ることができない技巧を凝らした一級品の数々。
どれも眩しく感じられて、立ち止まってはひとつひとつ見入ってしまう。
「気になるなら入ろうか?」
「いいえ」
私は慌てて首を振った。
こんな高級なお店に入ったら、気軽に出てこれないような気がした。
お店の人に勧められるまま、買う流れになりそうで怖かった。
こんな高い金額をフェリシアン様に出させるわけにはいかない。もちろん自分で払えるわけなどないのだが。
それに珍しくて見ているだけで、ほしいわけではなかった。
たくさんのものに見惚れて心がいっぱいで、充分満たされていた。
フェリシアン様が一緒でなかったら、こんなところに来ることも、こんな気分を味わうこともなかった。
だから、それだけで充分満足だった。
歩いているうちに、見知っている場所に出てきた。
さっきとはまた違う雰囲気のお店が立ち並ぶ通り。
どれも先程見たお店とは違い、敷居は高くない。
なかのひとつに、アデラとよく行くお店があって――と言ってもアデラの買い物に付き合うのがほとんどだったけれど――私が足を運べる数少ないうちの一画でもあった。
フェリシアン様はその通りは歩かず、近くにあった公園に目を向けた。
公園の周りには平民たちも利用する雑貨屋や花屋などが点在して、先程の洗練された雰囲気とは違い、ゆったりとしたのどかな雰囲気が流れているようだった。
「歩いたから、疲れただろう。適当な良いお店もなさそうだから、少し公園で休んでいこう」
「はい」
私たちは公園に入って、ベンチを見つけると腰をおろした。
一呼吸ついてしばらくしたあと、フェリシアン様が口を開いた。
「初めて一緒に出掛けた記念に、君に何かあげたかったんだが、ほしいものはなかったか」
私は慌てて首を振る。
「ほしいものなんて、全然――……。……一緒にこうしてフェリシアン様と歩けただけで、充分満足です」
「そう言ってくれるのは嬉しいが、私の気が済まない。何か君に――」
言葉が途中でとまったのは、公園のそとにあった花屋に目を止めたせいだった。けれど、すぐ首を振った。
「もう散々贈ったしな……。記念にはならないな……」
フェリシアン様は小さく独り言ちたあと、考えこむように眉を寄せた。
私のために一生懸命思案してくださっているんだわ。
フェリシアン様を煩わせるのが忍びなくて、それによく考えたら、私もフェリシアン様と初めて出掛けた思い出を残せるものがあったら素敵だという気がしてきた。
「なら、あの、手芸用品がほしいです」
「手芸用品?」
「はい。ちょうどこの近くに私が行くお店があるんです」
「そうか、君は刺繍が好きだと言っていたな」
「はい」
「なら、そこにいこうか」
私はフェリシアン様を手芸屋に案内することにした。




