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フェリシアン様は根気よく私に付き合ってくれた。
二週間経つ頃には、大分歩けるようになった。
庭を何度も往復した頃、フェリシアン様が口を開く。
「そろそろ休もうか」
「はい」
もうフェリシアン様の支えがなくても、歩けるようになったけれど、フェリシアン様は依然紳士らしく私をエスコートしてくれる。
庭の真ん中に置かれたテーブルと二脚の椅子。
お母様が育てている薔薇がちょうど視覚に入って、すこし寛ぐにはちょうど良い場所だった。
私たちがそこに座れば、ここ二週間のお決まりで、ドロシーが間を置かずお茶を運んできてくれた。
テーブルの真ん中には、お菓子が載せられたお皿が置かれた。
「わあ、可愛い」
「最近、街で人気のお菓子らしいんだ」
花をかたどった黄色とピンクのメレンゲのクッキー。フェリシアン様が持ってきてくださったものだ。
今まではずっとお花を贈ってくれていたけれど、ここ最近はお菓子に変わることが多い。
私がリハビリで、歩くようになったためかしら。
せっかく持ってきてくださるならと、お茶と一緒に出してもらっている。
フェリシアン様は最初、「君のために持ってきたのだからひとりで食べてもらってかまわない」と断ったけれど、「一緒に食べたほうが美味しいです」と私が言ったら、付き合うようになってくれた。
それでも口にするのはひとつぐらいだけれど。
お菓子に手を伸ばして、口へと運ぶ。
メレンゲがさくっと口の中に溶けていった。
「とっても美味しいです」
「気にいってくれたなら良かった」
目を細めて笑うフェリシアン様。
陽の光を浴びて、フェリシアン様の銀髪が光り輝く。
部屋のなかに籠もっていた時はわからなかったけれど、フェリシアン様の髪の毛は陽の光の下だと一層眩い。
思わずぼうっと見惚れていると、フェリシアン様が首を傾げた。
「どうした?」
「あっ、いえ、髪がお綺麗だったから、つい――」
突然の問いかけに慌てたせいで、不躾に見ていたことを白状してしまう。
けれど、フェリシアン様は気分を害された様子もなく、優しく答えてくれた。
「ああ、母譲りなんだ」
「――お母様の……」
「綺麗な銀髪を授けてやったんだから、絶対切るなとこれだけは許してもらえない」
「……お母様思いなんですね」
「母思いというより、折れるしかなかったんだ。融通が利かないんだよ、あのひとは」
目をふせて紅茶を飲みながら、軽く笑い声をたてるフェリシアンさま。
どんなお姿も気品に満ちている。
初めて見るお顔だわ。
家族の話をされるときはこんな表情をされるのね。
「お父様はどんな方なんですか」
「父は生まれてこのかた、サンストレームという大きな枠組みの中で生きてこられた方だ。人や物も一流のものしか知らない。貴族の鑑のような方だ」
眼の前にいるフェリシアン様がすでに貴族のお手本のような方なのに、そんな方に貴族の鑑と評されるなんて。
「へえ……」
そんな方を想像するのが難しくて、つい曖昧な返事を返してしまった。
フェリシアン様がそんな私を見て何を思ったか、付け足すように言った。
「だが、怖い方ではない。安心するといい」
フェリシアン様をこんなに優しく立派に育て上げた方だもの、怖い方ではもちろんないはずだわ。
「はい」
笑って返事を返せば、フェリシアン様も笑みを返してくれた。
私もいつかご両親に会う日が来るのよね。
その話を以前したら、フェリシアン様は元気になってからで、まだまだ先で良いと仰ってくれたけれど。
それでも、突然その日が来ても良いように心の準備はしておかないと。
会ったら気に入って貰えるよう頑張ろう。
そう小さく決意して。
私はフェリシアン様の話に再び耳を傾けたのだった。




