また会う日まで
初めまして。
花蓮と言います。
まずはこのページを開いていただきありがとうございます。物語の内容や主人公の職種が現実世界とは離れたものであるため、もしかしたら受け付けない方もいるかもしれません。プロローグを読んでその先を読むか否かの判断は任せます。個人的にはその先も読んで頂けると嬉しいのですが。
話しすぎてしまいましたね。
余興はここまでにして……それでは、少し変わった物語をどうぞお楽しみください。
5月13日。
1組の兄妹がファミレスで夕食を食べていた。
テーブルには何品もの料理が置かれている。全て頼んだようだ。兄の方はそれらを全て平らげようとする妹を見て、苦笑する。
「ははっ。紅葉、本当に全部食べる気か? 無理だけはするなよ?」
「もふぃろん! お兄ちゃんもふぁべていいふぁらね?」
「何が言いたいのかは分かるが、口の中に食べ物がなくなってから話そうな?」
兄がそう言うと、紅葉はごくんとそれらを飲み込む。それから頬を膨らませて兄を見る。
「もう! いつまでも子ども扱いしないでよ、隼人お兄ちゃん!」
「俺にとってはお前はまだ子どもだよ」
「6つしか離れてないじゃん! 私が子どもなら、お兄ちゃんだって子どもでしょ!」
「俺はもう24だぞ? 子どものはずがないだろう」
「私だって今日で18歳だよ? 子どもじゃないよ」
5月13日は妹である紅葉の誕生日だ。
今日ファミレスで夕食を食べている理由は、紅葉が誕生日のお祝いで食べたいと、兄に懇願したからだった。
レストランやもっと別の、値段の高いところで食事でもどうだ? と隼人は訊ねたのだが、紅葉は頑なにファミレスで夕食を食べたいと言い、首を縦には振らなかった。
特別なものはいらない。
ただ、兄とともに他愛もない話をしながら、普通の高校生が友達と食べるような所で食べたかったのだと、ファミレスに着いてから話した。
そんな妹の気持ちを汲んで、兄はそれ以上言わなかった。積み重なっている仕事を中断して、その日は妹に時間を作った。
テーブルの上に置かれていた料理たちは、妹の胃袋へと入っていった。
全てを平らげた妹に、兄である隼人は苦笑するしか無かった。
時刻は18時。
まだ外は明るい。
「いつもより早めに食べたのに、よく腹に入ったな?」
「ふふん! 今日はお兄ちゃんと一緒にいられる特別な日だからね! 嬉しくてぺろりと入っちゃったよ!」
えへ、と舌を出す妹に、隼人はニコリと笑う。この時間が永遠に続けばいいのに。隼人はそんなことを思う。
けれど、現実とは残酷なもので、その空間を繋ぎ止めることは容易ではない。
電話がかかってくる。
隼人は紅葉のことを見る。紅葉は察したように「出ていいよ?」 と優しく答える。断りを入れた隼人はそれに出た。
「はい、橘です」
「隼人か? すまない、今日は休みだというのに、電話をしてしまって」
「いや、大丈夫です。それよりどうかされましたか?」
「ああ、実は1件だけ仕事を請け負ってほしいんだ。出来れば今から」
「…………」
隼人はどう返答すればいいか迷った。
電話の相手は隼人が普段世話になっている者からだった。断ることの難しい人物。
けれど、今の隼人は妹との時間を共に過したいと思っている。そしてそれを、電話の相手も理解していた。
「――すまない、難しいことを言ったな。明日の仕事の1つに入れておいていいか? 出来れば1番に片付けてもらいたい」
「分かりました。お電話下さったのに、ご期待に応えられず申し訳ありません。明日、仕事時間と同時に処理致します」
「ああ、よろしく頼む。俺も大事な時間に電話をかけてすまなかったな。残りの時間を紅葉のために使ってやれ。ではな」
相手はそう言い、電話が切れた。
隼人はスマートフォンを眺めた後、紅葉の元へと戻る。紅葉は自分のスマートフォンでゲームをして遊んでいた。隼人に気付き、その手を止める。
「お兄ちゃん、電話は終わった?」
「ああ、終わったよ」
「お仕事の電話?」
「まあな。明日、1番に片してほしい依頼があるんだってさ」
「大変だね」
その言葉に「まあな」と短く答える。
紅葉は知っていた。自分の兄がどんな仕事をしているのか。分かっている上で、その言葉を口にした。
「まあ、仕事のことは気にしなくていい。お前はお前のやりたいことをやればいい」
「むぅ。お兄ちゃんだって自分のやりたいことをする権利があるでしょ。それなのにお兄ちゃんは我慢して私ばっかりやりたいことをやるなんて……不公平だよ」
いつの間にそんなことを考えるようになったのか。隼人は自分の妹の口から出た言葉が信じられなくて、大きく目を見張った。
それからぽん……と妹の頭に手を置く。
「俺は……お前が幸せになってもらえれば他はどうでもいいんだ。自分が我慢しているだとか、自分のしたいことだとか。そういうのはどうでも。お前の笑顔をこれからも見られるなら、俺は自分の身を削ることも惜しくは無い」
それが隼人の本音であり、人生の答えだった。それ以外の答えはなかったのだ。
紅葉は初めこそ納得していない様子を見せていたが、兄の言葉を信じることにしたようだ。にこりと笑みを浮かべて「これからもお兄ちゃんと一緒に沢山笑うよ」と、子どもの陽だまりのような笑みを浮かべて言った。
「ああ、そうしてくれると嬉しい」
隼人は頷いた。
2人はまだ気付いていなかった。
2人を引き裂こうとする影が近付いていることに。
如何でしたでしょうか?
プロローグの続きはあと1話あります。続きを読むも読まないも読者さま次第です。強要は致しません。
もし続きを読んでもいいと思ってくれた方は、この先でまたお会いしましょう。合わなかったと思う方は残念ですがここでお別れです。
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それでは、次のお話でお会いしましょう。