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魔法の杖は真実を語らない 7

Chapter 7


37


 日は間もなく落ちようとしている。

 建物に囲まれた駐屯基地の中庭はすっかり陰に入って薄暗い状態だった。中庭の中央には木材の切れ端が山と積まれている。それを囲むようにして何名かの人影があった。

 「杖のことがわかったという話だったな」

 ジャックは顔をしかめて木切れの山を見つめている。

 「私は今夜も用事があるんだ。手短にすまないかね?」

 「そのようにいたします」

 レトは丁寧な口調でいった。アルキオネは最初レトの肩にとまっていたが、今は建物の屋上で中庭を眺めている。

 「そのようにするというなら、さっさと始めたまえ。私はずっと待たされているんだ」

 木切れの山を挟んで向かい側からヒース・ブッチャーが険しい声をあげた。彼はジャック以上に苛立っているようだ。

 「もう少しお待ちください。間もなく最後のひとりがこちらに到着するころです」

 レトは冷静に返す。すると、それが合図のようにダドリーが建物の陰から姿を現した。

 「お、遅くなった。もう、始まっているのかね?」

 足音をドタドタと鳴らしての登場である。よほど慌てているらしい。

 「お待ちしていました、ダドリー卿。これで全員そろいました。さっそく、ある実験をご覧に入れましょう」

 レトはメルルに顔を向けてうなずいた。メルルもうなずくと杖を手に木切れの山へ近づいた。木切れの山を囲んでいるのはレトとメルルを除けば、ダドリー、ジャックのペンドルトン兄弟、ヒース・ブッチャー、アリス、そして、レイラの5名だった。ピッチ・マローンこと、オプティマス・ケイマーの姿はない。代わりではないが、数名の駐屯兵が離れたところで立っていた。

 メルルは小声で呪文を唱えると、杖の先端を木切れの山に向けた。「火炎剛球インフェルノ

 杖の先端から大きな炎が噴き出して木切れの山を覆う。木切れの山はたちまち燃え上がった。

 「見た目だけじゃなく、本当に魔法使いだったか。大したもんだ」

 ヒースは驚いたように声をあげた。

 「いったい、何が始まるんだ?」

 ジャックは不信感をあらわにした表情だ。実のところ、駐屯基地の中庭へ来るようにしかいわれていない。ただ、「『魔法の杖』について明らかになったことがある」とだけ教えられていた。それで、ジャックは今日の残りの予定を調整して駆けつけたのだった。

 メルルが火を起こしたことによって、あたりは急に明るくなった。周囲の兵士たちが木切れを手に近寄ると、次々とそれらに火を点けた。松明として手に持つと、それぞれの場所へ戻っていく。彼らはそこに設置してあった籠に入れてかがり火とした。こうして、夕闇に溶けかかっていた中庭は、炎の明かりで照らされるようになった。

 あたりが明るくなって、集まった者たちは周囲を見回し、そして、一様にたじろいだ。ほんの数名だと思っていた兵士の数が思っていたよりも多かったからである。いや、気づかぬうちに増えていたというのが正しいだろう。

 「どういうこと……?」

 レイラも不安そうにつぶやく。アリスは無言であたりを見渡し、焚火に視線を戻した。

 杖を手にした兵士が近づいてきたのはそのときである。それを目にしたヒースは、「それは!」といって指をさした。

 「そうです。問題の『魔法の杖』です」

 レトはそういいながら杖を受け取った。杖を手に焚火へと近づいていく。

 「お、おい……、それを、どうする……」

 ヒースはがたがた震えながらレトに近づこうとする。さきほどの兵士がヒースの前に立ちふさがり、行く手を阻んだ。

 「これからお見せするのは、この杖の正体です。よく、ご覧ください」

 レトはそういい終わるや、杖を焚火の中へ放り込んだ。一瞬の間があき、次いで周りからどよめく声が起こった。

 「な、何!」

 「何バカなことを!」

 ダドリーとジャックが口々に叫びながら焚火へ駆け寄る。レトはダドリーの腕をつかむと「動かないでください!」と大声で怒鳴った。

 レトの剣幕に、ジャックも立ち止まった。「な、何なんだ、君は!」

 「ご覧ください、焚火を。杖は燃えていますか?」

 レトの言葉に男たちは恐る恐る焚火を見つめた。焚火は盛んに炎をあげているが、その様子に変化が起きていた。

 「な、何だ?」

 ヒースはさらに焚火に近づいてみた。

 「ば、バカな……」

 ダドリーは唇を戦慄わななかせてつぶやく。ジャックは言葉も出ない様子で口を大きく開いている。

 焚火の炎が勢いよく杖に吸い込まれている。どこに穴があるのか見当たらないが、炎の動きは間違いなく「吸い込まれる」動作をしていた。

 「杖が……」ヒースは口だけでなく、目も大きく見開いていた。「炎を食べている!」

 現象としては正しくないかもしれないが、ヒースの表現はいい得て妙だった。杖は炎をどんどん自分の中へ取り込んでいき、やがて、焚火を消してしまった。炎を食い尽くしたのだ。

 レトは明かりを失った木切れの山に近づくと、そこから杖を取り出した。杖は煤で汚れてはいたが、焼き焦げた様子はまったく見られなかった。

 「それは……、炎を食べる杖なのか?」

 ジャックはようやく声を出して尋ねた。レトは首を振る。「それは、この杖の役割の半分でしかありません」

 レトはダドリーたちを木切れの山から遠ざけると、今度はレトが杖の先端を差し向けた。「火炎剛球インフェルノ

 すると、杖の先端から炎が噴き出し、再び焚火が燃え上がった。

 「そんな……」

 レイラは両ひざを地面に落とした。「杖の正体は、『これ』なのですか?」

 「そのとおりです」

 レトは杖を掲げてみせた。

 「この杖は炎を吸収し、その炎を再び吐き出す魔法の杖だったんです」


38


 場はしばらく静かになった。メルルは様子をうかがったが、目に見えて感情の読める者はいない。誰もが放心しているようだ。

 「あの火事があったとき、彼女は……」

 レトはメルルに顔を向けた。

 「彼女はやけどを負うことなく無事でした。ですが、状況として、それはありえないものでした。強くなった火勢は天井を焼き、階上のアリスさんが戻れないほど損傷を与えました。炎は廊下へ吹き出し、向かい側の部屋にも達するほどでした。そんな火事の中心にいた彼女が無事ですむはずがなかったんです」

 レトは掲げた杖を下ろした。

 「奇跡が起こったんでしょうか? いいえ。この世界に『奇跡』は存在しません。必然があるのみです。ただし、この場合は、近くの炎を吸収する魔法の杖を彼女が手にしていたという偶然はありましたが」

 「これまで、誰もこの杖の正体がわからなかったのは……」

 「この杖は炎を吸収して初めて、炎を吐き出すことができます。杖の中に炎がため込まれていなければ、これはただの杖でしかなかったのです。これまで、この杖はいわゆる空っぽの状態でした。そんな状態では、誰もこの杖を使うことはできません。まして、木製の杖を炎にくべるなど試そうともしなかったでしょう。こうして、この杖は使用方法のわからない謎の杖として後世に残ったのです」

 この前夜、レトがヴィクトリアに尋ねていたのは、炎を吸収して放出する術式が存在するかということだった。ヴィクトリアはかなり昔から存在することと、その術式を教えたのだった。レトはその術式を自分の鎧で試したのである。オプティマス・ケイマーが放った炎を打ち消すことができたのは、そうした背景からだった。

 「そうか、そういう能力の杖だったのか……」

 ダドリーは脱力したようにつぶやく。力が抜けたようで彼もまたレイラのように両膝を地面につけると、その場でへたり込んでしまった。ヒースはその様子を見て顔をしかめる。

 「いったい、あなたはどうしたというんだ。そう、そちらで膝をついている女性の方も。何をそんなに力を落としているんだ。まるで、その……」

 ヒースはそこで息を継いだ。「がっかりしているようじゃないか」

 「この杖の能力は、すなわちマーリンの手によるものではないと証明しているのです。つまり、まったくの他人が造った杖だったんです」

 レイラは首を振りながら答えた。ヒースは理解できずに首をひねる。

 「なぜ? すごい能力の杖じゃないか。それなのに違うと断言できるのかね?」

 「そんなに大した能力じゃないんです」

 メルルが口を挟んだ。ヒースはしかめ面のまま、その顔をメルルに向けた。「大したことがない?」

 「炎系の魔法はかなり研究されています。現在、魔法を扱う者ならたいていは『火球衝撃ファイヤーボール』や『火炎剛球インフェルノ』の魔法が使えます。つまり、火の気のないところから炎を生じさせる魔法です。この杖は炎をあらかじめ吸収してからでないと炎系の魔法が行使できないのです。しかも、それに特化しているため、ほかに使い道はない。これは、そういう杖なのです」

 「『火の気のないところから炎を生じさせる』……。メルルさんが説明されましたが、それがマーリンの指導する魔法の極意でした。今回の火事を消した魔法の水がめを造った弟子を、マーリンは叱りました。魔法は無から有を生み出すもの。すでにあるものを移すだけのものは魔法の真髄ではないと。つまり、そういう思想を持っているマーリンが炎を移すだけの魔法の杖など造るはずがないのです。同時に、二世や三世の手による可能性もありません。一世の思想を体系化し、さらに学術的に発展させたのが彼らなのですから」

 レイラは膝をついた姿勢のまま、メルルの説明を補足した。レトはレイラにうなずいてみせた。

 「ひょっとすると、この杖の製作者もまた、あの水がめの製作者と同一人物だったのではないでしょうか。発想が非常に近いあたり、可能性はあると思います」

 「そうか……。偽物なのか、この杖は……」

 ヒースはレトが持っている杖に視線を向けた。その目はこれまでの執着が嘘と思えるほど感情のないものだった。

 「兄さん、どうだい、これでも決心は変わらないかい?」

 ジャックは、へたりこんでいる兄の肩を優しく叩いた。ダドリーは力なく弟の顔を振り仰いだ。

 「マーリンのものでないとわかったんだ。もう、この杖を取り戻そうなどといわず、家に帰ろう。気持ちが落ち着いたら、笑い話にすればいい。こういう間違いはどこにでもある。恥と思うことはないさ」

 メルルはジャックの優しい声を聞いて、このひとは本当に兄思いのひとなんだなと思った。考えてみれば、自分の選挙が厳しい状況であるにもかかわらず、兄のためにわざわざこの街まで足を運んだりしているのだ。兄思いでないはずがない。

 「家に帰るのは、もうしばらくお待ちください」

 レトはジャックの話に割り込むようにいった。ジャックは再び険しい表情をレトに向ける。「何だと? まだ何かあるというのか?」

 「一番大事な話です」

 レトは冷静な姿勢を崩さなかった。

 「これより、サマセット・チェンジャー氏を死に至らしめ、さらに魔法鑑定士ケン・ベネディクト氏を殺害した犯人を明らかにしたいと思います」


39


 中庭には脱力した雰囲気が漂っていたが、レトの発言で雰囲気が一変した。全員が緊張した面持ちになり、口をつぐんでいる。

 「今のおっしゃり方だと……」

 ようやく口を開いたのはアリスだった。レトのもとへ数歩、歩み寄ると、

 「あなたは犯人がわかったのですか?」と尋ねた。

 「それをこれからご説明いたします」

 「本当にわかったのか?」

 ジャックは疑わしげな声だ。ダドリーは蒼ざめた様子で沈黙している。アリスの顔には感情らしいものが感じられず、レイラは不安そうに目をうろうろさせていた。ヒースは状況を飲み込むのが追い付いていないのか、どこか放心しているようだ。

 「皆さんと一緒に検証してみましょう」

 レトはジャックの質問には答えず話し始めた。

 「まず、第一の事件。博物館の放火です。あの事件で、犯人はいくつか手がかりを残しました。それは、マッチとランプです」

 「マッチとランプ?」ヒースはぼんやりとつぶやいた。

 「犯人は研究室に近づくと、窓を破り、可燃性の液体が入ったビンを投げ入れました。それは、研究室のテーブルの上に落ちました。例の魔法の杖が入った箱が置かれていたテーブルです。続いて、犯人はマッチに火をつけて、それをテーブルの液体に引火させようとしました。ですが、それはうまくいきませんでした。風が強くてマッチの火を簡単に吹き消してしまったからです。犯人はその後も何本か試みましたが、いずれも失敗に終わりました。その痕跡は研究室の窓の下で発見されました。何本ものマッチが散らばっていたのです。犯人は焦ったことでしょう。犯人はすでに窓を割っています。その物音を聞きつけて誰か来るかもしれない。その前に目的を果たさなかければならなかったのです。犯人は最後の手段としてランプを投げ込みました。しかし、それもうまくいきませんでした。重量のあるランプはテーブルまで届かず、床に落ちてしまったのです。さすがに手段も時間も切れました。犯人はそのまま逃走してしまったのです」

 「残された物から、事件の状況を再現してみせているんだね?」

 ジャックが尋ねる。レトは小さくうなずいた。

 「この状況により、ある程度、犯人像を描くことができます。犯人は、この放火という行為に慣れていません。もし、研究室に火を投げ込もうとするなら、可燃性の液体が入ったビンに布を差し込み、その先端に火を点けて放り込めばいいのです。それは火炎瓶といわれる兵器なのですが、火炎瓶を使う方法であれば、一度に作業が終わります。液体を投げ入れてから火を放り込む。ずいぶんと手間がかかり、失敗の危険も高い。犯人は犯罪に対して不器用であることがわかります」

 「それは、一般人なら誰もそうじゃないかな」

 ヒースは苦い顔で口を挟んだ。そういう条件で自分が犯人にされてはかなわんといいたげな様子だ。

 「そうですね。ただ、その一般人から、さらに絞り込むことができます。その人物は魔法が使えない人物でもあります」

 「あ……」

 思わず言葉を漏らしたのはダドリーだった。周りから注目を浴びていることに気づくと慌てて口をふさぐ。

 「魔法の杖で説明したように、魔法を扱うものであれば、炎系の魔法は多少の差はあっても使えるものなのです。火炎瓶を使わなくても、魔法が使える者であれば、テーブルに投げ込んだ液体のビンめがけて『火球衝撃ファイヤーボール』をぶつけさえすればいい。ですが、犯人はそれをしなかった。いえ、できなかった。犯人は炎系の魔法が扱えなかったのです」

 「それがどうした? 魔法が使えない人間は多い。私はもちろん、兄も使えない。それから、あそこで気取っている商人はどうだ? あいつも炎の魔法が扱えるのか? いや、今ここにいないピッチ・マローン……、いや、本当はオプティマス・ケイマーだったか。やつが犯人である可能性だってあるだろう?」

 ジャックは両腕を振りながら抗議した。犯人の条件はまったく絞られていないと主張しているのだ。

 しかし、レトは首を振った。

 「この場にいる皆さんはそうかもしれませんが、オプティマス・ケイマーは違うのです。あの男は『ウェルタの指輪』を所持していました。炎を放つ魔法の指輪です。尋問の際、逃走を図ろうとして実際にその指輪を使用しました。手軽に炎の魔法が使える指輪です。放火の現場に持参しないことはありえません。したがって、オプティマス・ケイマーがどこでどんな犯罪に手をつけていたとしても、博物館には火を放っていない。一連の事件の犯人ではないといえるのです」

 「つまり……」

 アリスはレトの前に進み出た。

 「あなたはここにいる誰かが犯人だとおっしゃるつもりなのですね? 私を含めて」

 「そうであるのか、引き続いて検証してみましょう」

 レトは落ち着いた様子で話をつづけた。

 「では、次にケン・ベネディクト氏殺害事件について考えてみましょう。こちらには大きな疑問の残る出来事がありました。殺害事件当日、犯人と思われる人物が現場である宿屋の裏で焚火を起こし、『火事だ』と叫んでいたのです。宿屋の主人は男の声だったと証言しています。この時点で、アリスさん、レイラさんの可能性は減りました。おふたりがよほど変声の名人でないかぎり、犯人ではありえない。ですが、ここはまだ控えめにしておきましょう。決定的な条件があとに控えていますから」

 レトはアリスに優しい目を向けた。アリスは無言でうなずくと数歩あとずさる。おとなしく話の続きを聞くということなのだろう。

 「僕はメルルとともに、この状況について話し合いました。犯人はなぜ、こんな危険なことをしたのだろうと。あの行為には誰かに目撃されかねないという大きな危険があったのです。それなのに、犯人はその危険をあえて冒した。その必然的理由とは何か?」

 レトの問いに答える者はいない。レトも答えを期待していったわけでなく、すぐ口を開いた。

 「いろいろな意見の中で、それは陽動であった、というものがありました。宿屋の主人を焚火の現場におびき寄せること。それが目的だったというものです。しかし、それは先ほどもいいましたが、誰かに目撃される危険がともなうものです。宿屋の主人に気づかれずに宿へ侵入するためではありません。そんなことをしなくても、年季が入ってあちこちが傷んだ宿は、戸締りがゆるく、侵入が容易かったのです。僕が犯人であったら、宿の主人も自室に引っ込んだときを見計らって宿に侵入し、まっすぐベネディクト氏の部屋へ向かってベネディクト氏を殺害します。僕であったらそうすることができます。そう考えて気がつきました。犯人はそうすることが困難だったのだと。たとえば、犯人がベネディクト氏の泊まっている部屋番号を知らなかったらどうするだろうか? 宿泊する宿の名前は知っているが、部屋番号はわからない。もし、その夜のうちにベネディクト氏を殺害しなければならない切迫した事情があれば、誰かに目撃される危険を冒してでも、宿屋の主人を何とかして受付から遠ざけようとしたのではないだろうか?」

 「何のために?」ヒースがぶっきらぼうに尋ねた。

 「受付のカウンターに載っている宿帳をのぞき見るためです」

 「は?」

 「宿帳には宿泊者の氏名、宿泊している部屋番号が記録されています。ベネディクト氏殺害を考えている者は、そこからベネディクト氏の部屋を確認し、あたりが寝静まったときを見計らって殺害に及んだのです」

 「おいおい、待て待て」

 ヒースは両腕を大きく振り回しながらレトの話を遮った。

 「それはありえない話だろ。私たちはあのベネディクトという人物が3階の1号室に泊まっていると知っている。当人がそういってたんだから。それなのに改めて宿帳をのぞき見るだって? まったく理屈に合わないだろ、それは!」

 「そうですね。大部分のひとにとってはそうです」

 「大部分?」

 「そう。ただ、ひとりだけ。たったひとりだけ、ベネディクト氏が何号室に泊まっているかを知らなかった人物がいます。その人物はベネディクト氏が宿泊している部屋の話をしているときにその場におらず、後に泊まっている宿の名前だけ聞かされたのです」

 レトの言葉に、ヒースの口が大きく開いた。ヒースはゆっくりとある一点に視線を向ける。周りも同様だった。誰もがある人物に視線を向けていたのである。その人物は急に注目を浴びて蒼白になっていた。

 「サマセット・チェンジャー氏を死に至らしめ、さらに魔法鑑定士ケン・ベネディクト氏を殺害した犯人は、あなたですね?」

 周りから視線を注がれていたのは、ダドリー・ペンドルトン卿だった。


40


 しばらくは誰も口を利かなかった。いや、口を利けなかったのだろう。誰もがレトの言葉に凍りついていたのだ。

 「な、な、何をいうんだ、お前は!」

 ようやく口を開いたのはジャックだった。

 「あ、兄が、兄が一連の事件の犯人だと? これは冗談ではすまされない話だぞ。わかっているのか!」

 「もちろん、冗談で申しておりません」

 ジャックがすごい勢いでくってかかるが、レトはそれにたじろぐことはなかった。ゆっくりとジャックを押し返すと、「ベネディクト氏殺害の件だけではありません。ダドリー卿だけが、博物館に火を放つ動機を持っているんです」静かな声でいった。

 「ま、まだいうか!」

 「ジャック卿は、あの放火事件についてどう思います?」

 「え?」

 レトから唐突に質問されて、ジャックは困惑して後ろへ下がった。「どう思うって……」

 「どうして、あの研究室に火が放たれたと思われますか?」

 「わ、わかるはずがない。あ……、お前はこういいたいんだな。あの杖は偽物だった。偽物の証拠である杖を燃やしてしまえば、ペンドルトン家から偽物が出たという評判で貶められない。そのために火を放ったと!」

 ジャックは胸を張った。

 「それは浅はかな考えだ。出所来歴があいまいな骨董品はどこにでもある。当家は古い家柄だ。品物によってはそういう物もあるだろう。骨董品を扱う者には、そんなこと常識だ。だから、そんなことぐらいで当家の評判が落ちたりなどしない。世間では当たり前のことなんだ。それを隠蔽するために放火などするはずがないだろう!」

 「そうですね。おっしゃるとおりです」

 レトはうなずいた。

 「この事件で頭を悩ませたのはそこでした。あの放火事件は誰ひとり動機を持つ者がいない。あの杖を燃やしたい人間はいなかったんです。ですが、メルルからあることを聞いて、僕は考え違いをしていたことに気がついたんです」

 「あること……?」

 「事件前日、館長は皆さんの前でこう発言されました。『あの杖は保管室に戻しました。この博物館は古いだけにしっかりと施錠するのが難しいですが、保管室はしっかりとした場所です。誰も手は出せませんよ』と」

 ジャックはあいまいにうなずいた。「たしかに……、そんなことを、いっていたな……」

 「ただ、館長は警戒心の薄い人物だったらしく、本当は杖は箱に収められたまま、研究室に置かれていたのです。あのときの発言は皆さんを追い返すため、咄嗟についた嘘でした。今指摘した館長の警戒心の低さは、ほかの展示品に対しても表れています。今回、オプティマス・ケイマーに狙われていた『呪いの指輪』……、呪いさえなければ数百万リューの価値があるそうですが、ありきたりのガラスケースで覆われているだけの状態でした。指輪が無事か確認に行ったとき、レイラさんは無造作にケースを取り除きました。何らかの防犯設備さえ付けていなかったんです。あれを見たとき、研究室のテーブルに魔法の杖が無造作に置かれていた状況を理解できました。館長は本当に鷹揚な方だったんです」

 「そのことと、さっきの話がどうつながる?」

 ヒースから声が飛んできた。彼もようやく自分を取り戻して、レトの話に耳を傾けているようだ。

 「研究室に魔法の杖があった状況を説明できた、ということだけです。そのことだけで結論を急ぐつもりはありません。そこで質問です。仮に、あなたがたが杖の消滅を願う者だとします。事件前日、あなたがたは博物館を下見するため、その周囲を探りました。侵入可能な場所はないか、などです。そのとき、研究室のテーブルに魔法の杖が収められていた箱を見つけました。館長から杖は研究室ではなく、保管室にあるといわれています。あなたがたはどう考えますか?」

 「……そりゃあ、館長が嘘をいっていると思うよな」ヒースはつぶやいた。

 「それだけですか?」

 「テーブルに載っている箱はからではないか。そう考えます」

 アリスが手をあげて答えた。

 「そうですね。そこが、この事件の核心になるのです」

 レトは持っている杖を指さした。

 「あの時点で、箱の中にこの杖があると誰が断言できるでしょう? 誰もいません。館長のあの言葉があればなおさらです。事件当日、あの箱は外からでは誰も手出しできない状況でした。杖が箱に入っていると確証は得られないのです。あの夜、メルルが研究室を調べたとき、彼女は直接箱を開いて杖の存在を確認しました。実際はそうなのです。箱を開けずに中の状況を知る方法はありません。この状況下で、あなたがたは研究室に火を放ちますか? 箱に杖が入っている保証はない。それでも、館長の言葉が嘘であることに賭けて火を放ったりするでしょうか?」

 「そんな分の悪い賭けなどしない。もっと確率が高まらないと」

 そう答えたのはヒースである。レトはヒースに顔を向けた。

 「確率が高まらないと、とおっしゃいましたが、それはどのぐらいの確率です?」

 「……十割だな」ヒースは口ごもりながら答えた。

 「事実上、そんな賭けはしないということですね」

 レトはヒースからジャックに顔を向けた。

 「ですが、皆さんご存じのように、研究室に火は放たれました。空っぽの箱しかないかもしれないのに、です。そう考えてようやく理解できました。僕が考え違いをしていたといったのは、狙われていたのは魔法の杖だと考えたことです。本当に狙われていたのは杖ではなく……」

 レトは一呼吸おいてから続けた。

 「杖が収められていた『箱』そのものだったということなのです」


41


 「本当に狙われていたのが『箱』だったと?」

 ジャックは放心したようにつぶやいた。あまりに予想外のことをいわれたからだ。それは周りの者にも同様らしく、半ば呆然とした表情を浮かべていた。

 「放火犯の狙いが『箱』の焼失である。そう考えたとたん、すべてが明らかになりました。ベネディクト氏は杖の鑑定で訪れたのですが、杖だけを鑑定しに来たわけではありません。『箱』に書かれた『マーリン』のサインも鑑定するためです。そのことは亡くなった館長から直接聞かされていますよね?」

 メルルはサマセットとのやりとりを思い出していた。

――明日、ここに専門の鑑定家が来ますので――

――鑑定って、杖の術式を調べられるんですか?――

――杖の術式を調べるのは難しい話です。ひとまず、箱に書かれたサインを鑑定するのです……。

 そうだ。あの話は、ここにいた全員の前でしていた。当然、ダドリーも聞いていた話だ。

 「ま、まさか、おい……」

 ヒースがどもりながら口を挟んだ。

 「あの箱の『マーリン』のサインは……」

 レトはヒースにうなずいてみせると、続いて、離れて様子を見ている兵士のひとりに合図を送った。兵士は長細い箱と、手帳らしいものを手にレトのもとへ駆け寄った。長細い箱は、あの魔法の杖が収められていた箱だ。レトは箱と手帳を受け取ると、手帳のあるページを開いた。

 「遠くからでは文字など見えないでしょうが、お付き合いください。こちらにある手帳は、ベネディクト氏が持参したサイン帳です。各界の著名人のサインがまとめられています。サインが書かれたものは何でも蒐集しておられたようで、領収書や受取書に書かれたサインなどもありますね。特に、貴族階級の方は現在ご存命の方も網羅されているようです。僕は箱のサインと、ある人物のサインに注目しました。それはもちろん、ダドリー・ペンドルトン卿のサインです。まず、『マーリン』の『マ』の母音と『ダドリー』の『ダ』の母音。『マーリン』の『リ』と『ダドリー』の『リ』。『マーリン』の『ン』と2か所ある『ペンドルトン』の『ン』の文字。専門家でない僕でさえわかるほど筆跡が酷似していました。より専門の方であったら見間違いようがないと思いますね。ペンドルトン卿。このサインはあなたが書いたものですね?」

 レトは箱に書かれた『マーリン』のサインを指さしながらダドリーに尋ねた。

 「あなたは何が何でも、この箱を消してしまいたかった。あなたが詐欺目的でサインを偽造した証拠である、この箱を」

 「あ、兄が、さ、詐欺だって……」

 ジャックはよろめくようにあとずさった。メルルはレイラの言葉を思い出していた。ひとをだます目的の偽物は悪質で言語道断であると。家宝が本物かどうかの話ではない。これは根本的な犯罪の話だったのである。

 罪を暴かれているダドリーはへたり込んだ姿勢のまま、顔をうつむかせている。微動さえしない様子は、まるで氷塊封印フリーズの魔法で凍らされたかのようだ。

 「ダドリー卿が跡を継がれたとき、家の財政状況は非常に苦しい状態だったと聞いています。家にある売却可能な品物をどんどん売り払い、そのお金でやりくりをされていたと。それでも財政状況は苦しいままだった。そこで、1リューでも多くお金を手に入れるため、あの杖を『マーリンの杖』と偽って売ったのではないですか? 無銘の品であるより、『マーリン』の銘があれば、いくらか上乗せできたのではないですか?」

 「あれは90万リューで売れた」ダドリーはうつむいたまま答えた。

 「兄さん!」

 「たしか、マーリンのものでなければ数万リューほどの品物だといわれていましたね?」

 レトはレイラに尋ねた。レイラは無言でうなずく。メルルがレイラから聞いていた話だ。

 「あのころは本当に苦しいころだった。代々貴族として続いていたのに、私の代でその地位を失うのは怖かった。十代で未熟だからと言い訳できるはずもなかった。だから、私は……」

 ダドリーは誰にいうともなく語っている。レトはダドリーのかたわらに近寄った。

 「杖の箱書きを偽造したのですね?」

 「……本当はあれは百万を下らない品だ。だが、どうしても入用があるのだと説明して90万リューまで『値段を下げて』売ったんだ。落ちぶれたとはいえ、かつてはマーリンを庇護していた名家だったのは周知の事実だった。だから、当家からマーリンにまつわる品が出てきても誰も疑わなかった。私が急いで書き込んだマーリンのサインを簡単に信じて、あの杖も買われたんだ」

 「あの杖も……って、まさか、兄さん。これまで買い戻していた物は……」

 「どれも由来のわからない品物だったのを、私が偽のサインを書いて『箔』をつけたものだ。そうでなければ、家宝といっても1リューの値打ちさえない物も多かったのだ……」

 「まさか……、そんな……」

 ジャックの膝が崩れ、彼もまた、兄と同様にその場でへたれこむ。これまでの威厳が嘘のように消え、肩もがっくりと落ち込んでいた。

 「『家宝』の回収を始めたのは、もちろん、過去の過ちに対する後悔からでしょうが、サイン偽造の事実を隠密裏に片づけるためでもあったのですね?」

 レトはダドリーに尋ねる。ダドリーは小さくうなずいた。

 「その『魔法の杖』も私のサインで『箔』をつけたものだった。だから、それがバレる前に回収しなければならない。箱書きは品の価値を決定させる大事なものだ。年月が経とうと、誰も箱を処分などしていないはずだ。そして、それは事実だった。私は博物館であの『箱』を見たとき、何が何でも回収しなければと思ったよ……」

 ダドリーはゆっくりと顔をあげた。

 「しかし、杖を取り戻す交渉は進まず、あくる日には箱書きを鑑定する者がやってくることになった。時間のなくなった私は、せめて、箱だけでも処分しようと考えた。研究室に箱があることを知った私は、そこに火を投げ入れたのだ。まさか、その箱が燃え残るとは夢にも思わなかった……」

 「杖の能力が周囲の炎を吸収して、箱が燃えるのを防いだのです」

 「あの鑑定士が、鑑定を諦めて帰ってくれれば、あの箱をどうにかする手立てを考えられたかもしれない。しかし、あの鑑定士はすぐにでも鑑定を始めるという。だから、私はあの鑑定士を殺さなければならなかった。もう一刻も猶予がなかったのだ」

 「さっきから、このひとひとりが事件を起こしたといっているみたいだが……」

 ヒースがぶっきらぼうな口調で口を挟んできた。

 「お隣の弟さんは無関係なのか? 共犯ではないのか?」

 「いいえ。この事件はあくまでダドリー卿ひとりによるものです」

 レトは即座に否定した。

 「もし、ジャック卿も関係していたのであれば、ベネディクト氏が宿泊している部屋のことも聞き出せたでしょう。まったく相談もなしに、危険な焚火騒ぎを起こしてまで部屋番号を確認し、ベネディクト氏を殺害したりしないはずです」

 メルルは駐屯基地でのふたりの会話を思い出していた。ふたりは昨夜、ふたりきりで話す時間があった。十分な時間ではなかったようだが、それでも、ベネディクト氏殺害を共謀していたのであれば、ジャックはベネディクトが何号室に宿泊しているかぐらいは兄に教えられただろう。この点から、ふたりに共謀の関係がないとわかる。

 「弟は無関係だ……。初めから……。なにせ、私が家宝のサインを偽造していたのは、弟がまだ幼いころのことだったからね。だから、なおのこと、弟には知られたくなかった……」

 ダドリーはぽつりぽつりと告白をつづけた。地面を見つめながら、決して弟の顔を見ようとしない。いや、見ることができないのだろう。

 「今、お話しいただいたこと、供述調書を取る際にも詳細にいただけますか?」

 レトはダドリーのかたわらで膝をついて尋ねた。ダドリーは無言でうなずく。周りで様子を見ていた兵士たちが動き出し、そのうちのふたりがダドリーの両脇から支えるようにして立たせた。ジャックは無抵抗に連れていかれる兄を無言で見送っていた。彼の両目からは涙があふれている。

 「この杖は保管庫に戻してください。この箱も一緒に」

 レトは別の兵士に杖と箱を預けると、メルルに顔を向けた。レトの表情は暗く、事件を解決したことに誇らしさも高揚感も抱いていないようだった。

 「この件はこれで終わりだ」

 レトは宣言するようにいった。


42


 中庭では焚火など後片付けが進められている。レトはザック兵長のかたわらで、兵長の話に耳を傾けている。事件の細かな確認や裏付けのことなど打ち合わせているのだろう。

 メルルはぼんやりと動き回る兵士たちを眺めていた。事件は解決し、終わった。それは一種の虚脱感を招くものではあったが、今のメルルは別のことに気をとられていたのだ。

 ダドリーが連行されるのを見送った後、残りの者たちの反応はさまざまだった。ヒースは逃げるように、この場からそそくさと退散した。誰にも見とがめられないうちに立ち去ろうという考えなのだろう。もう、自分は無関係だ。ヒースの無言の行動は、そう主張しているように感じられた。

 ジャックはしばらく地面にへたりこんだままだったが、のろのろと立ち上がると、彼もまたこの場を後にした。レトに何か話しかけていたが、「弁護士」という単語だけ聞き取れたので、これから弁護士の手配に動くのだろう。兄の犯罪に衝撃を受けていたようだが、かろうじて自分を取り戻したのかもしれない。

 アリスはレイラとともに、その場でじっと立っていた。互いに言葉を交わすことはない。ただ、レイラはアリスの肩に自分の手を添えていた。唯一の肉親を奪ったダドリーを無言で見送ったアリスを思いやってのことだろう。

――しかし。

 メルルは意を決して、ふたりのもとへ歩み寄った。

 「アリスさん」

 アリスはメルルに目を向けた。「どうかしましたか?」

 「ちょっと、ふたりだけで話しませんか?」

 アリスはレイラと顔を見やってから、再びメルルに視線を戻した。「私と、ふたりだけで?」

 メルルはうなずいた。アリスはかたわらのレイラに視線を向けた。

 「レイラさんは先に帰ってくださいますか?」

 アリスはレイラに告げると、メルルに向かって歩き始めた。レイラは慌てた様子で、アリスの背中に「私は、ここに残っていたほうがよくないですか?」と声をかける。

 「かまいません。ここからは歩いて帰ることもできますし」

 アリスは冷静な声で返すと、メルルに顔を向けた。「どこへ行きます?」

 「この建物の裏手へ」

 メルルは案内するように先に立って歩いた。

 メルルがアリスを連れて、この場から去っていくのをレトは無言で見つめていた。レトの肩にアルキオネが舞い降りて、「かぁ」と鳴き声をあげる。レトはアルキオネの身体に手を添えると、「わかっている」とだけつぶやいた。

 メルルが案内したのは、建物と塀にはさまれた狭い空間だった。塀の外から魔法街灯の明かりに照らされ、ここは中庭よりも明るい。

 メルルはあたりに人影がないことを確かめると、アリスと向きあった。

 「何ですか、メルルさん」

 アリスは少し首をかしげて尋ねる。メルルは服のポケットに手をつっこむと、じゃらりと音をいわせながら銀色のロケットを引っ張り出した。

 「これです、アリスさん」

 アリスは目の前にぶら下げられたロケットを見つめながら、さらに首をかしげた。

 「これですって、だから何です?」

 メルルはロケットの蓋を開けると、今度はその中身をアリスに向けた。

 「お母さまの肖像が入ったロケットです。あなたは、これを失くしたことを非常に残念がってました。これが見つかったとき、あなたは二度と無くさないようにと、このロケットを1階の廊下の壁に飾りました。火災のあった研究室のある、左棟の廊下にです。私は、このロケットを廊下の隅で見つけました。大量の水で流されていたのです。ですが、丈夫な造りのようで、幸い損傷はありません」

 メルルはロケットの蓋を閉じた。ロケットをアリスに渡そうとせず、自分の手で握りしめる。

 「火災の現場検証で研究室を調べたとき、あなたはこのロケットの無事を確認しませんでした。あの廊下は研究室へ行きと帰りの2回も通りました。あのとき、あなたは何ごともなく通り過ぎてしまった。壁からロケットが無くなっているのにです。あのときは火災のことで気が回らなかったかもしれません。ですが、指輪の無事を確かめるために博物館を訪れたときも、あなたはロケットの無事を確認することなく立ち去りました。まるで、ロケットのことなど知らないかのように」

 アリスはメルルをまっすぐに見つめた。その表情には一切の感情がみられない。

 「お母さまのことを思い出させるのは、このロケットしかないとあなたはいいました。とても大切な、本当に大切なもののはずです。それにもかかわらず、あなたはこのロケットの存在を気にかけなかった。それはありえないはずなんです。もし、あなたが本物のアリスさんであったなら!」

 アリスは「ふう」と息を吐くと、片手を自分の顔に当てた。「これは失敗したね。そんなことから見破られてしまうなんて」

 「あなたはやっぱり!」

 メルルは杖を片手に身構えた。「ダーク・クロウ!」


43


――ダーク・クロウ。

 メルルたちが博物館を訪れるきっかけになった人物。放火事件や殺人事件とまったく無関係だったが、この人物の存在なくして、自分が事件にかかわることはなかった。この謎の人物と、ついに対面を果たしたのだ。メルルは杖をくるんと回した。「脱力の陣!」

 アリス――ダーク・クロウの足元から魔法陣が浮かび上がり、青白い光が全身を包んだ。

 「へぇ、『脱力の陣』ね」

 ダーク・クロウは足元を見つめながら、面白がっているような声をあげた。

 「え?」

 メルルは目を丸くする。ダーク・クロウは魔法陣の中で平然と立っているからだ。

 「脱力の陣が……効かない?」

 「脱力の陣ってさ」

 ダーク・クロウはメルルに話しかけた。

 「被術者の体力を10分の1に下げる魔法なんだよね。術で体力を下げられた者は自分の足で自分自身を支えることができなくなってしまう。そうして、ほとんどのひとが地面に倒れこむんだよね」

 「どうして、術が効かないの……?」

 「いや、効いているよ。今、ボクの体力は10分の1だ。でもね、ボクはそれぐらいで倒れないぐらい体力があるってことなんだ」

 ダーク・クロウは一歩前へ進むと、メルルの腕をつかんだ。メルルがあっという間もなく、メルルはダーク・クロウのもとへ引き寄せられてしまった。つまり、魔法陣の中へ。

 「しまっ……」

 メルルは叫びかけたが、がくんと身体中の力が抜けてくずおれてしまう。ダーク・クロウはメルルの身体を優しく支えた。

 「つくづく、術式魔法って不便だよね。術者が魔法陣の中へ入ってしまっても、その効果を止めることがないんだから」

 「わ、私をどうするつもりですか……」

 メルルはやっとの思いで、それだけをいった。ダーク・クロウはメルルの頬を優しく撫でる。

 「どうもしないよ。ただ、君にはここで眠ってもらおうかな。君がボクの素顔を知らないかぎり、ボクは君を殺さない。だからさ……」

 ダーク・クロウはメルルの額に人差し指をつけた。

 「二度とボクを追い回さないでほしいな」

 ダーク・クロウの人差し指から小さな光が灯る。メルルは意識を失い目を閉じると、両腕がだらりとぶら下がった。メルルの杖は地面に落ち、魔法陣の光が消えた。

 ダーク・クロウはメルルを優しく地面に寝かせると、地面を蹴って飛び上がった。かたわらの塀は2メルテを超えるほどの高さがある。しかし、ダーク・クロウは軽々と塀を飛び越えて、向こう側へと降り立った。

 「おやすみ、魔法使いのお嬢ちゃん」

 ダーク・クロウは塀に向かって小さくつぶやくと、アリスの姿のまま悠々とそこから歩き去った。


 ダーク・クロウが向かっているのは市の郊外である。このまま、徒歩で立ち去るつもりだ。ダーク・クロウは疲れを知らない様子で歩き続け、森へ続く道へ足を踏み入れた。機嫌は良いらしく、小さく鼻唄を歌いながらのんびりとした足取りだ。

……反省するところはいろいろあったなぁ。アリスという女性の特徴をつかむために、ジョナサンって男の子に成りすまして接近したりしたけど、内面のことをつかみきれていなかったし。表面的な部分を完璧にしても、見かけ倒しってことになっちゃうんだよね……。

 ダーク・クロウは夜空を見上げた。薄雲で見えにくいが、多くの星が雲越しにまたたいている。

……今回のレト・カーペンターは期待外れだった。ボクが見た未来視とほぼ同じ行動で、事件の解決した流れまで同じだった。むしろ、今回の『異物』は魔法使いのお嬢ちゃんだったのかな? あの事件で死者2名は変わらなかったけど、ボクの未来視では死亡したのは館長父娘のふたりだったからね……。死者の内容が変わったのは今回が初めてだ……。

 森の半ばを進んだあたりで、ダーク・クロウの足が止まった。森はすでに深く、街灯や民家のひとつも見当たらない。ただ、ようやく昇った月が、森の道をほのかに照らしていた。その道の真ん中で、ひとつの影がダーク・クロウを待ち構えていたのだ。

 「探偵さんじゃないですか」

 ダーク・クロウは影に話しかけた。影の主はレトだった。肩にアルキオネがとまっている。

 「その顔つきを見るかぎり、正体はもうバレていると考えたほうがいいですね」

 「あなたが最初に現れたときからね」

 レトの答えに、ダーク・クロウは顔を曇らせた。「最初に、ですか?」

 「あなたは、入院中のアリスさんに成りすまして僕たちの前に現れました。ベネディクト氏が現れる直前のことです。本物のアリスさんは別の病院で見つけました。院長の指示で転院されたことになっていました。もちろん、院長に成りすましたあなたの仕業ですよね?」

 「本当に初めから気づいていたようですね。でも、どうしてです? ボクはどんなヘマをしでかしていましたか? 後学のために教えていただけませんか?」

 「幻惑魔法の使用可能条件です」

 「どういうことです?」

 「あなたは最初に姿を現したとき、僕たち全員に幻惑魔法をかけ、その場の者全員にあなたをアリスさんだと認識させた。僕もアリスさんとは面識があったので、その魔法にかかってしまいました。もし、ベネディクト氏が現れなかったら、僕はあなたを見破ることができたかわかりませんね」

 「あの魔法鑑定士がどうかしましたか?」

 「ベネディクト氏は、あなたを初めて見たときにこういいました。『あなたのお母さまはさぞお美しい方だったのでしょうね』と」

 「覚えています」

 「アリスさんは父親と顔立ちのよく似た方です。メルルからは美人の母親に似ていないことを卑下していたと聞いています。それなのに、ベネディクト氏は初対面のアリスさんにそんなことをいったのです。ずいぶんとぶしつけで失礼な発言じゃありませんか?」

 「そうですね。そういう性格の方なのでは?」

 「その割には、それ以外の発言や態度も、非常に紳士的で礼儀正しい方でした。もちろん、女性の容姿に関わる部分に言及するのは繊細な問題でもあり、適当であるとはいえないでしょう。ですが、ベネディクト氏に悪意がまったくないのであれば、あの発言の意味は何でしょうか?」

 「さぁ、どうでしょう」

 「ベネディクト氏はチェンジャー氏とは面識がありましたが、アリスさんとは面識がありませんでした。あのとき、ベネディクト氏自身がおっしゃっていたことです」

――今回、ご家族の方と初めてお会いできたわけですが、こんな形とは残念です――

――チェンジャー氏はご家族のことをあまりお話しにならなかったので、あなたのような娘さんがおられたことは知りませんでした――

 「つまり、ベネディクト氏はアリスさんのお顔をご存じなかったわけです。幻惑魔法の使用可能条件。それは、秘術者の記憶にある人物しか誤認させられない。いい換えれば記憶にない人物には誤認させることができない、ということです。あのとき、ベネディクト氏が見ていたのは僕たちが認識しているアリスさんの顔ではなかった。あなた本来の顔だったんです」

 レトはアリスの姿をしたダーク・クロウの顔に指を突きつけた。

 「あなたの顔は、チェンジャー氏とは似ても似つかない顔だったのでしょう。ですから、ベネディクト氏は『あなたのお母さまはさぞお美しい方だったのでしょうね』といったのです。あれは、アリスさんの顔を揶揄するものではなく、『あなたは美しい。その美しさは母親譲りなのですね』という意味の、ごく普通の誉め言葉だったのです」

 「やれやれ」

 ダーク・クロウは両手をあげて、ひらひらと振った。

 「お見事です。あんな何気ない言葉からこちらの正体を見破るなんて。では、初めから疑っていながら、ボクにアリスのふりをつづけさせ、捜査協力を求めていたんですか?」

 「あなたの目的がわからないからです。新聞記事で僕たちを博物館におびき寄せて何を企んでいたのか。それに、放火事件が起きる前に僕たちを動かしたことも気になりました。まるで、これから起きる事件を予測していたみたいですから」

 「それで、ボクを泳がせて探ることにした、と」

 「結局、つかめないままでしたが」

 ダーク・クロウは苦笑しながら首を左右に振った。

 「そのために、あなたは仲間も泳がせていたんですか? あのメルルというお嬢ちゃんは、あなたの考えを知らない様子でしたよ。あの子がボクと対決していたとき、ボクがどう行動するか、あなたは建物の陰で様子をうかがっていたのですか? 今、ここで対峙したときの対策のために」

 レトは何も答えなかった。

 「図星ですか。あなた、ずいぶんとえげつない性格のようですね」

 「少なくとも、あなたはメルルを殺したりはしない。そう思っていましたよ」

 「ボクは信用できると?」

 「幻惑魔法を解こうとしなかったからです。素顔を見せないのであれば、彼女を殺す理由はありませんからね」

 「抜け目ない方ですね、あなたは」

 「そろそろ腹を割って話しませんか。僕はあなたが何者で、何の目的で僕たちをあの事件に巻き込んだのか知りたいのです」

 ダーク・クロウは口のはしに笑みをのぞかせた。「いやだといったら?」

 レトは腰に差した剣を抜いた。「力づくで聞き出すまでです」

 ダーク・クロウはレトが握る剣に目をやった。

 「その剣……。魔剣の類ですね。そういえば、あなたは魔法も操る魔法剣士でしたね」

 レトは剣を構える。「ひと目でこの剣を見抜きますか」

 「やれやれ、本当にやる気ですね」

 ダーク・クロウが右手を空に向けると、そこからひと振りの剣が姿を現した。ダーク・クロウはその剣を手に取ると、レトと同様に身構える。

 「いいでしょう。実のところ、あなたと剣を交えずにここを去るのは心残りだったんです」

 レトとダーク・クロウは同時に駆けだした。


44


 アルキオネはレトが駆け出すと同時に肩から羽ばたいて夜空へ姿を消した。レトは剣を低く構えると、さらに姿勢を低くしてダーク・クロウの足元へ駆け込む。

……得意の下段攻撃ですか。

 ダーク・クロウは剣をレトの頭めがけてまっすぐに突き出した。レトはひらりとかわすと、そのままダーク・クロウの横を駆け抜ける。ダーク・クロウの剣は地面を大きくえぐり、大きな塊が宙を舞った。

 「これを避けますか!」

 ダーク・クロウは振り向きざまに剣を横殴りに振る。レトが地面に伏せると背後の樹木が上下真っ二つに断ち切られ、そのまま地面へと倒れた。レトはちらりと背後に目をやる。

 「斬撃を飛ばすことができますか。やはり、あなたはただ者ではありませんね」

 「やれやれ。これも避けるんですね、あなたは」

 「避けないと死んでしまいます」

 「そういうふざけたこと、真顔でいうんですね」

 ダーク・クロウは呆れたようにつぶやいた。

 「呆れるのはこっちのほうです。斬撃を飛ばすなんて芸当、人間では不可能です。あなたは自分が人間でないことを隠そうともしませんね」

 レトは大きな息を吐きながら身構える。ダーク・クロウは、にっこりと微笑んだ。

 「ボクの正体を見破ったご褒美です。あなたの知りたいことを少しだけ教えてあげようというわけです」

 「あなたはハイクラスなのですね? いえ、あなたは最初からずっとそれを匂わせています。どうしてです? どうして、そんなことを?」

 「質問が多いですね。ボクから聞き出すのは力づくではありませんでしたか?」

 ダーク・クロウは剣を振り上げて躍りかかる。レトは左にかわすと、まっすぐに突きを放つ。ダーク・クロウはその攻撃を少し身体をずらして避けた。

 「ま、いいでしょう。そちらもこちらの質問に答えてください。持ちつ持たれつってやつです」

 「何です、それは?」

 レトはダーク・クロウの攻撃をかわしながら尋ねた。

 「あなたは、魔候アルタイルの最期を見ましたね?」

 「公式記録に残っているとおりです。ただ見ただけです」

 「では、あなたの左手は何ですか? 公式の記録には何も残されていませんでしたが」

 レトの攻撃が一瞬ゆるんだ。ダーク・クロウはすばやく剣を振り、レトは身体をのけぞらせて、かろうじて攻撃をかわした。

 「僕の左手がどうかしましたか?」

 「いえ、ひょっとしたら、あなたは魔候アルタイルの力を奪ったのでは。そう考えたのです」

 「とんだ憶測ですね。根拠はあるのですか?」

 「ボクは魔候アルタイルが戦争を起こした理由を知っているんです」

 レトは大きく飛んで、ダーク・クロウから距離を取った。「あなたは何者です?」

 「お察しのとおり、ボクはハイクラスです。マイグランのね」

 「魔王配下の者ですか」

 「うーん、ま、当たらずとも遠からず。そういうことにしてください」

 「四候の配下……、あるいは四候自ら探りに来ましたか」

……思った以上にカンのいいひとですね。

 ダーク・クロウは心の中で苦笑した。「こっちは質問に答えました。今度はそっちの番です!」ダーク・クロウは剣を縦に振る。今度は地面に亀裂が走り、レトは飛んで避けた。

 「僕は魔候の力を奪ってはいません。魔候が力を手に入れるのを邪魔しただけです」

 ダーク・クロウは一旦距離をとるべく、数歩あとずさった。「あの戦いで勇者はどうなりました? 彼は死んだのですか?」

 「それも報告書にあるとおりです。団長は文字通り姿を消しました。僕の目の前から」

 「生死は不明だと」

 「嘘をいってどうなります?」

 レトは剣を振り上げて力いっぱい打ち込んだ。カァーンと大きな音を響かせて剣同士がぶつかり合う。

 「あなたはね、異物なんですよ。ボクにとっては!」

 レトは後ろへ飛んでダーク・クロウから離れた。「僕が、異物? どういう意味です?」

 ダーク・クロウは大きく息を吐いた。「それは今回、教えられませんね。それより、あなたはどうかしましたか? さっきから左手の力を使おうとしませんじゃないですか。何か理由があるのですか?」

 レトも肩から息を吐く。「それについては次回の機会にしましょう」

 ダーク・クロウは呆れたように片手を天に向けた。「そう返しますか」

 レトは姿勢を伸ばすと、剣を腰の鞘に戻した。数歩あとずさって道を開ける。「どうぞ、お通りください」

 ダーク・クロウの眉が片方あがった。「へぇ。ボクの目的について当たりがついたからボクを見逃すと?」

 レトは首を振った。「とんでもありません。今回は見逃してくださいといっているのです」

 ダーク・クロウはきょとんとした表情だったが、すぐに笑い出した。

 「ハハハ! 見逃してくださいときたか。あなたは本当に予想外だ。でも、だからこそ、ボクにとって危険な存在だ。本当なら、ここで殺しておくべきでしょうが……」

 ダーク・クロウは剣を宙に放り投げた。剣は空中に溶け込むようにして姿を消した。

 「ボクのほうも次の機会ということにしましょう」

 ダーク・クロウはすたすたと歩いて、レトの前を通り過ぎる。しかし、ダーク・クロウはすぐに足を止めた。

 「レト君。ボクはあなたのことをそう呼んでいいですか?」

 「どうぞ、ダーク・クロウ」

 「ダーク・クロウはやめましょう。けっこう悪役っぽくて気に入りましたが、あなたにはそう呼んでほしくないです」

 「どう呼んだらいいですか?」

 「ボクのことはアンタレスと呼んでください。ただし、ふたりきりのときだけ」

 レトの頬がピクンとあがった。「四候アンタレス……」

 「さすが耳が早い。お仲間から聞きましたか」

 アンタレスは声をあげて笑いながら歩き始めた。しかし、それも数歩で立ち止まる。

 「レト君、あと少しいいですか?」

 「今度は何です?」

 レトはアンタレスの背中に問いかけた。アンタレスは顔の半分だけ振り返った。

 「ボクはさっき、あなたのことをえげつないといいました。ですが、あなたはボクと剣を交えるつもりだった。だから、ボクがあのお嬢ちゃんを無傷で排除するのに任せたんですね。あの子をこの戦闘に巻き込まないために。本当のあなたは仲間を想い、周囲に対して深く考えることのできる優しいひとだ。でも、そういう数歩先を見抜いた行動って、他人から誤解されたりしませんか?」

 「僕は誰からも誤解されていません。みんなが考える僕の姿も、僕の一面なんです」

 レトはそっけなく答えた。そこへアルキオネがレトの肩へ舞い降りる。アルキオネは何ごともないようにレトの肩で羽繕いを始めた。レトはアルキオネの身体にそっと手を添える。

 「僕を知るひとが百人いれば、僕は百面の存在です。千人いれば千面。ひとは、そんな多面性を持つ存在ではありませんか?」

 「『ひとは多面性の存在』。面白い考え方をしますね。では、また」

 アンタレスは背を向け、今度は二度と振り返らなかった。レトは姿が見えなくなるまで見送り、やがてアンタレスとは逆の方角に向かって歩き始めた。

……四候であるにもかかわらず、団長の消息について知らなかったばかりか、独自に調査を行なっていた。魔王の側近であるけど、その関係は僕たちが認識するものとは性格の異なるものかもしれない。それに、今回の事件の関わり方。やはり、アンタレスには未来を予見する能力がある。あるいは身近にそういう種類の能力者がいる。ただし、その能力の限界や制約はわからない。アンタレスの目的は事前に予測できた事件に僕たちを巻き込み、さらに自分も混ざることで何かを得ようと、あるいは知ろうとしたのだろうか? 未来視の能力を試した、ということも考えられる。でも、今回の材料だけで断定はできないかな。アンタレスは僕のことを『異物』だといった。あれが何を意味するのかもわからない。ただ、だいぶ情報は引き出せた。今回はそれで良しとするべきだろう……。

 レトは森の外へと出た。月明りだけでなく、遠くに街の明かりが夜道を照らしている。か弱い明かりだ。でも、ないよりはいい。か弱い光でもひとは進むことができるのだ。

 レトはちらりと森の奥に目をやると、まっすぐ街へと戻る道をしっかりした足取りで歩いていった。

『魔法の杖は真実を語らない』は、このシリーズを構想したときにプロットのひとつとして考えられていた。『夜咲く花は死を招く』の構想時期とほぼ同じだから、2017年の秋ごろということになる。実のところ、『Ragnarok of braves』の連載中に何度も取り組んで、そのたび挫折したシロモノだ。思った以上に難産だった。『Ragnarok of braves』はストーリーを進めながら次の話を考えることができる。一方、『魔法の杖は真実を語らない』は解決編から結末まで完成したうえでないとストーリーが進められない。タイプの違うストーリーの組み立て方に、こちらが対応できなかった。なんとも技量不足を痛感する話だ。

久しぶりに本格ミステリに挑戦して、『手がかり残しすぎたかな? 簡単すぎたかな?』などと不安に思っていたりする。ただ、あまりアンフェア寄りになって、「ファンタジー世界に本格ミステリを成立させる」という目的が達成できないほうが不本意だ。もし、このミステリが簡単すぎたということになれば、そういう意図のもとだったからとご理解いただきたい。

次回は、もっと推理の難度が高い物語を構築できればと思う。本格ミステリの面白さはやっぱり、読者を「あ!」と思わせる、そういうところにあると思うので。

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