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同じ日本の空の下で  作者: 武蔵
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シビレテルコントロール

ICAOの航空路を視てみると、尖閣ってやたらと航空路ご錯綜してるんですよね。

「群司令、間もなく各艦所定の位置に着きます」

その報告はCICのディスプレイを見ればだれでも分かる。だが敢えて口に出すのが海上自衛隊。

「言わなくても分かるだろう」が「言わないと命令したことにならない」ということに、不祥事で人死にをだしてからやっと変わった帝國海軍の残党。そして帝國海軍が滅んでから70と余年を経て、むらさめ型護衛艦『むらさめ』は攻勢をかけることになる。


「対潜戦闘」

『対潜戦闘!VLA攻撃始め!』


指が震える水雷士は、水測員長の太い指に押されてなんとかVLAアスロックを発射する。水雷士は3尉や2尉の幹部が就くが、まだ20代前半の彼にそのスイッチは重すぎる。だから自分の親より年上の曹長がサポートをしてくれるのだ。そこに帝國海軍の悪しき伝統である階級至上主義は存在しない。


そうこうしているあいだに、VLAから短魚雷が分離し航走を開始した。どこかのポンコツ総理が渋っている間に戦闘はエスカレートしていく。ただしまだ水中での戦闘であり、表向きは静かなものである。

『ソーナー探知、サブポッシブルスリー、中国海軍のキロ級で間違いありません。』

『了解、この目標をアルファと呼称する。アルファから魚雷音聴知、本艦捕捉された模様』

砲雷長の静かな声がヘッドセットに乗って各部へ流れる。訓練と変わらない落ち着いた声が各部の対応を促す。

『マスカープレリー作動』

『面舵一杯、最大戦速!…戻ーせー』

『魚雷音失探、バッフル』


訓練どおり。次に魚雷音を再探知したならば先ほどと逆の動きをすればいいだけの話だ。

尖閣危機の前から準備と訓練だけは重ねてきた海上自衛隊。表には言えないこともした上で各艦弾薬量80%という驚異的な重武装で駆けつけたのだ。


『アルファからデコイ射出。』

あちらも訓練どおり。ネット上では「カネがない」「弾がない」「やる気がない」「脳がない」と互いに罵り合っていた日中の戦いは、生き残りを賭けた死闘が繰り広げられている。


『魚雷音聴知!右100度及び80度』

「取り舵一杯ー…戻ーせ、面舵15度!」

『アスロック、1発がデコイに向かいます。短魚雷攻撃始め!短魚雷アルファを追尾!アルファまで距離10!』


この体勢、潜水艦は有線魚雷を使っている。デコイに向かっているアスロックが爆発、水中は激しい音の嵐により爆発音の支配する暴力の世界へと変わった。


『敵魚雷、本艦の両舷を通過。先のアスロック爆発により有線が切断された模様』

「敵潜水艦に短魚雷命中、圧壊音確認」

「短魚雷、次弾装填完了まで1分」


この時点で、海上自衛隊側は航空機1機撃墜、護衛艦2隻大破、中国海軍潜水艦1隻撃沈と戦況は中国海軍に傾きつつあった。


「それで、現在の状況は?」

やや不機嫌な顔をした菅野総理が問う。先ほどの焦り男に慰霊の言葉を邪魔されたこともそうだが、思ったほど参列者からの反応が無かったこともその顔に現れていた。


「これまでに入った情報では、すでに護衛艦2隻大破及び航空機1機撃墜とのことです。総理、明らかに武力攻撃事態です。直ちに防衛出動を下令して下さい。これが遅れれば遅れるほど、被害は更に増します。」

防衛大臣 海野太郎が総理に詰め寄る。菅野と海野は与党である自由保守党の重鎮であるが、当選回数で菅野が勝っていることで海野の立場は低い。


「中国大使を直ちに呼び出せ」

「すでに先方には連絡を入れましたが、大事は健康上の理由により明日まで外出は困難とのことです。」

外務大臣が変わりに答える。

「ほう、我が国と自分の国が武力衝突に至っているという状況でも、自分の事が大事か。どうせ大和市の愛人宅にでも転がり込んでいるんだろう?」

中国大使の女好きは有名である。吉原の泡姫に袖にされた腹いせに怒った大使は、大和市に拠点を構える中華系売春業者の女幹部に乗り換え、そこの売春婦を取っかえ引っかえ手籠めにしていることで有名である。


「総理、あの女狂いを呼び出したところで事態は解決しません。今は一刻も早く、自衛隊の出動命令を下す事が優先です。」

海野が更に詰め寄る。あばた顔と日に焼けた肌に汗が垂れる。こうしている間にも現場では戦闘が続いているのだから、焦るのは当然である。

「すでに佐世保の第2護衛隊群には出港命令を出し、第3、第4護衛隊群も準備を急がせております。更には鹿屋の第1航空群及び厚木の第4航空群には可動全機を速やかに那覇へと向かわせるよう命令を出しました。相浦の水機団にも作戦準備を下令し、呉から向かっている輸送艦が到着次第、乗艦し大正島に向かうよう手はずを整えております。」

「ずいぶん手回しがいいな。まさかこの事態を予測していたのか?」

「先月自衛隊演習をやったばかりでしょう!!総理が視察する予定だったあの演習です。あの時は演習でしたが、今回は演習ではありません。しかも演習想定よりも敵の動きが積極的なために、早い段階で自衛隊に損害が出ているんですよ。」

そう言われて、菅野はさらに顔をしかめる。あの時は国会対応で行くことができなかったが、事後報告でどのような推移で行われたのかは承知している。

「なら、現場に状況を報告させよ。現場での行き違いによる偶発的な戦闘の可能性もある。事を穏便に済ませるためにも、ここは衝突のエスカレートを避けるべきだ。」

つまり、何もせず部隊を引かせろということだ。

「総理…今戦っているのは第1護衛隊群なのですよ?」

「それがどうした?どこの部隊であっても、この方針に変わりは無い。防衛大臣、直ちに部隊を引かせろ。」

菅野は表情を変えることなく、淡々と述べる。前総理の矢部総理の下で官房長官として働いていたときと同じ、質問や意見を全て却下し一方的に伝えることに専念した格好である。

「……承知…しました。では、尖閣諸島は中国に明け渡すと言うことですね。自衛隊に損害が出て、侵略を受けているこの状況でなお、中国に譲歩すると言うことで理解は宜しいでしょうか。」

「明け渡しはしない。ただし、中国政府からの正式な回答を得られない現状、無闇に戦火を拡大させることは慎むだけである。以後は戦闘を中止し、速やかに交戦海域から離脱するように」

普段部下の失敗をカバーする人は独断専行でも皆が動いてくれます。

普段部下の失敗を必要以上に叱責し、方向性も示さず原因と対策をつけらせあれこれイチャモンつける人は、独断専行をすると後ろからやられます。

銃で、ナイフで、防衛省の内部告発で。

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