表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

[短編]交差点Pにxを続けて赤い糸になるまで




「うん、だから、この点A(3,9)の接線(せっせん)の傾きを求めるのは」

「せっせんって、せっぷんと似てない?」

「似てない。…どこから話聞いてなかった?」

「…座標がどーたら、こーたら」

「開始10秒かよ!」


 俺は頭を抱えて机に突っ伏した。


 冬休み前の最後の補習に出されたプリント。


「終わったやつから帰っていいぞー」


 先生のそのセリフから1時間以上経ってもまだ帰っていない心愛(ここあ)を見に来たら捕まった。


「ねぇ、波瑠人(はると)、クリスマスは何してるの?」

「バイト。はい、ここから解いて」

「交差する点Pが…」


 カリカリとシャーペンの音が響く。


 うつむいた心愛(ここあ)の前髪がふわりとこぼれて、まつげにかかる。

 俺はまつげにかかった髪を人差し指で、そっと外す。


 冬の教室は、室内灯に照らされてやけに白々しい。


 2問目まで解いた心愛(ここあ)が、視線はプリントに向けたまま、話しかけてきた。


「ねぇ、大学、決めたの?」

「うん、行かないで働くよ」

「…波瑠人(はると)、頭いいのに」

「お前よりはなぁ」


 たぶん、心愛(ここあ)は進学だ。それも地元ではない大学に。


 今は、目の前にいるけど、2年後には離れている。この接線のように。


 曲線と直線が一瞬だけ交差する。


 そして、離れる。二度と交わることはない。


 それでもいいからと、付き合い始めたのが、今月初め。

 バイトのシフトも決まった後だった。


「ねえ、波瑠人(はると)、このグラフ、あたしたちみたいだね」


 カリカリと書いたまま、心愛(ここあ)が言った。


「…そうだな」


 上手い切り返しもできなくて、そのまま答えた。



「この身体的接触は、どこだと思う?」

「は?」



 しんみりとした俺の気持ちをへし折って、心愛(ここあ)は続ける。


「こう、ちょっと触れてる感じの交差点がPだとするなら、これはキスだと思うの」

「いや、ちょっと待って。お前、今はそのプリントを」

「なんのために、ひとり残ったか教えてあげようか?」


 にんまりと顔を上げた心愛(ここあ)の手元を見ると、全て解答欄が埋まっていた。


「お前…!」


 全部解けてるじゃないか!


「さ、交差する点Pを解いて終わりにしようよ」


 そう言って、心愛(ここあ)は俺の唇にキスをすると、首を傾げて可愛く笑った。





 帰り道に手を繋ぎながら、


「xって、キスの意味じゃない。それで波瑠人(はると)とキスしたいなーと思って居残りしてた」


 と無邪気に笑う心愛(ここあ)が俺のバイト仲間になるのを知るまであと少し。



 そして、「あたしも一緒に働く〜」と心愛(ここあ)が言うまであと1年。




 そして、「結婚しようか」と俺が言うまであとx年。





 そして、子どもが…








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i605003
― 新着の感想 ―
[良い点] んなるほどぉ~♡♪ こぉんな感じで、書くと良き♡♪なのですね~…♡♪ 甘々~♡♪ラヴラヴぅ~♡♪(*´Д`*)(*´▽`*)♡♪ 知略…汗 ひっかかってるオイラ…滝汗(;´Д`) んでも、…
[良い点] たわいない話ながらも、そこに数学だの接線だのを使う所が小憎い。交差点の投稿100件超で、数学が出てくるのってこの話だけなんですよね
[良い点] やだもう♡ 可愛い♡ [気になる点] >無邪気に笑う 彼女の内心は、本当に無邪気なのかな……♡
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ